🌠碧との出会い

影魔を撃退した心羽は、現場で怪我を負った子猫を拾う。
急いで近くの動物病院に向かい、怪我の様子を診てもらうことに。
この動物病院の主治医を務める初老の獣医が子猫の容態を調べ、隣で研修医のような様相の少女=碧がしきりにメモをとっている。
「外傷はそこまで酷くありません。ですが、内出血の可能性があるので数日間様子を見てまた来てください」
手当を終えた獣医が心羽にそう伝える。
心羽は子猫が自分の飼い猫ではないこと、そしてここへ連れてきた経緯を話し、これから飼い主を探す予定だと伝えた。
それを聞いた獣医はメモ紙を取り出し、病院の住所などを書いたものを碧に預ける。
「碧、一緒に探して飼い主にこのメモを渡してきなさい」
碧はメモ紙を受け取ると
「よろしくね、碧ちゃん」
「うん、よろしく」

2人は子猫を連れ、戦闘の現場となった市場に向かう。
既に影魔がいた時の緊張感はなくなっており、いつも通りの人の流れに戻っていた。
2人は通りすがる人々に手当り次第に尋ねてみるが、飼い主の手がかりはつかめず。
そこで近くの露店の花屋に聞いたところ、子猫は見なかったかと尋ねてくる女性に先ほど出会ったという話が。
西の大通りの方へ向かったというので、2人も行ってみることに。
「やっとヒントが見つかったね!」
「やっぱり現地の人に聞くのが一番だね」
大通りに出た2人はその後も露店の目撃情報を辿り、ついに飼い主の女性のもとにたどり着く。
話を聞くと、影魔が出現して辺り一帯がパニックに陥った時に見失ってしまったという。
心羽は今までの成り行きを説明し、碧は獣医から預かったメモを手渡した。
「子猫の手当から、飼い主探しまで…親切にありがとう」
実は飼い主の女性はクレープの専門店を経営しており、怪我した子猫のお世話をしてくれたお礼に、タダでクレープをサービスするという。
「え、いいんですか!?やったー!!よかったね碧ちゃん!」
「でも、私まだ仕事中だし…」
「大丈夫大丈夫!食べていくくらい平気だって!」
碧は仕事中に関係ないことをすることに引け目を感じるが、心羽は手を引いて促し、案内されたクレープ屋へ向かう。
クレープにはいくつかの種類があり、メニュー表を渡された。
「碧ちゃんはどのクレープが好き?私も碧ちゃんとおんなじのにする!」
「私、あんまりクレープとか食べたことなくて。どれがいいかな」
「それなら、オススメはこれだよ!」
そういって心羽はメニューを指さす。
「チョコクリームスペシャル…?」
「そう!甘くておいしいんだよー」
「じゃあ私これにします!チョコクリームスペシャル」
「私もそれで!」
「はーい」
ほどなくして、チョコのたっぷり乗ったクレープが運ばれてきた。
「わぁーおいしそう…!」
「今日はありがとう。ごゆっくりどうぞ」
飼い主の女性はそう言ってクレープを手渡し、戻っていった。
「ほんとにいいのかな…」
碧はまだ仕事中であることに引け目を感じているようだった。
「もしかして、仕事中に食べ物はダメとかそういうルールがあるの??」
「それはないんだけど…」
一呼吸おいて、碧が本当の気持ちを打ち明ける。
「私ね、将来は獣医になりたいの。でもお医者さんになるにはたくさん勉強して、資格もいろいろ取らないといけない」
「私はそんなに賢くないから、遊んでる時間なんてないって思って、人一倍に勉強してきた」
「でもみんな賢い人ばかりで、どんどん抜かされていく。だからもっと勉強する時間を増やして、必死に夢を追いかけてるの」
「だから、もしここで遊んだりしたら、獣医になる夢が遠のいてしまう…」
碧は夢を叶えるために、ルールで自分を縛っていた。

「決めた!その夢、私に応援させて!」
「えっ?」
「ひとりじゃ難しいことも、ふたりなら解けるかもしれない」
「大変なことだって、2人でならきっと乗り越えられるよ!」
「でも…」
「夢に向かって頑張れるってすごいと思う。だから、私もそのお手伝いをさせて」
碧は不思議と元気になっていくのを感じる。歩くのが大変だった夢への道を、この子が舗装してくれるような気がした。
「ありがとう。」
碧の表情が明るくなる。それを見た心羽はくしゃっと笑った。
「でも、ずっと休憩なしはよくないよ。いつかパワーが足りなくなって進めなくなっちゃう。だから時には休んで、たまには遊んで、バチッと元気になったら、また全力で夢を追いかければいいの」
「今がその時!さあクレープ食べよ!」
「うん!」
2人はその後も談笑しながらクレープを食べ進めた。碧にとってその味はすごく新鮮だった。

帰り道、碧は不思議なことを聞いてきた。
「遊ぶって言っても、例えばどんなことを遊ぶっていうんだろう」
「うーん…?」
「これまでずっとひとりで勉強してたから、誰かと遊んだりしたことなかったんだよね」
「碧ちゃんはもうひとりじゃないよ!だって私たちもう友達じゃない!」
「えっ?」
「こんなにいろんな話をして、一緒にクレープだって食べたんだよ!これってもう友達でしょ!これから一緒にいろんなことして遊ぼうよ!」
「うん!でも、まだ私あなたの名前知らない…」
「あれ、そういえば言ってなかったっけ。心羽だよ」
「心羽ちゃん!よろしくね」
「うん!よろし…」
その時、邪気のある低くて太い声が響いた。
「見つけたぞ!アステラー」
声と共に、かつては撃退した影魔=アルギエバが2人の前に現れた。
「影魔!?」
影魔の出現と共に辺り一帯はパニックに陥り、周囲にいた人々は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。
「碧ちゃん早く逃げて!」
心羽は碧に必死で促すが、碧は心羽を置いていくことができなかった。
「でも、心羽ちゃんはどうするの?!」
「はやく!!」
そうこうする間にアルギエバは心羽との距離を詰める。
「アステラー。この前はよくもやってくれたな」
「恨みを晴らしに来たってわけ?」
「そうだ。今度こそこの手でぶっ潰してやる!」
アルギエバが襲いかかる。
「🌟デザイア!🌟」
心羽はとっさにカルナを解放しエラ・リュミエに変身。その力で弓を生成。弓の端で影魔の攻撃を受け止める。
碧は変身した心羽の姿をみて驚愕する。心羽があのアステラーのひとり、エラ・リュミエの正体だったなんて。
心羽は影魔と打ち合うが、だんだんと影魔のペースに押されていく。
「心羽ちゃん!!」
心配した碧が呼びかける。
「碧ちゃん!?はやく逃げてってば!」
心羽は影魔に応戦しながら碧に避難を促す。
しかし、気を逸らした隙を突かれ、心羽は吹き飛ばされてしまい、影魔は碧に気が移る。
「さっきからギャーギャーうるせえな。死にてえのか」
影魔の鋭い視線に睨まれ、碧の表情は青ざめ尻もちをついてしまう。
「お前から殺してやってもいいんだぜ」
「そうはさせない!」
心羽が背後から影魔の腕を押さえる。
「今のうちに!はやく!」
今ので完全に竦み上がった碧は、脇目もふらず必死で逃走する。
「早くニーベルゲンを呼ばないと…!」
しかし、その時後ろの方から何かが崩れるような音と共に、心羽の悲鳴が聞こえてきた。
「心羽ちゃん…」
激しい音と悲痛な声で、心羽が影魔に苦戦しているのがわかる。
もし心羽がやられてしまったら…そんな最悪な事態を想像してしまい、不安に駆られて動けなくなる。
初めての友達と言える人…夢を応援してくれる大切な人を、失いたくない。
碧は悲鳴の聞こえる方に向き直り、走り出した。

一方心羽は、影魔のパワフルな攻撃に翻弄されていた。
「この前は2対1でなんとか追い込めたけど、1人で戦える相手じゃない…」
心羽は右脚を負傷し身体を安定して支えられなくなっていたため、攻防ともに力が入らずフラついた状態で戦闘していた。
「リュミエ単体じゃ雑魚同然だな」
影魔は心羽を派手に蹴り飛ばし、塀に頭をぶつけ動けなくなった心羽にトドメを刺そうとする。
その時、碧の絶叫が一帯に響いた。
「やめてーーーー!」
声のする方を見ると、さっき逃げ出したはずの碧が再び戦場に戻ってきていた。
「あ?」
影魔はさっきと同じ鋭い視線を碧に向ける。しかし碧は怯むことなく、目を大きく見開いて訴えかけた。
「もうやめて!私の友達を、大切な人を傷付けないで!」
その時、碧の右手に眩い光が宿った。
「碧ちゃん…!?」
「バカな…!」
碧は光り輝く右手を高く掲げ、その手にカルナを集中させる。

「🌟デザイア!🌟」

碧は右手から解き放たれたカルナを全身に纏い、アステラーへの変身を遂げた。
碧は手から水を作り、その水を錬成して杖に変えると、影魔に向かって勢いよく駆け出した。
「はあぁぁぁあ!」
碧の勢いに乗った打撃にさすがの影魔もよろめく。しかしすぐに体勢を立て直し、二撃目を入れんとする碧の杖を受け止める。
「そんな…!」
立場は一転。影魔が優位に立ち、反撃を入れようとするが…
「行って!エウィグ!」
心羽が右手からエウィグを放ち、エウィグが影魔に突撃。バランスを崩した隙に碧が突きを放ち、影魔を大きく吹っ飛ばす。
「やるな、汝」
「えっ?」
エウィグに突然話しかけられ驚く碧。
「あなた喋れるの?」
「違う。我は喋っているのではなく、汝の意思と直接対話している」
「どういうこと?」
「他の人には聞こえない声で喋っている、とでも言っておこう。それより汝、エラ・アンジェの力は癒しの力だ。汝ならリュミエの傷を癒せる」
「アンジェ…?それが私の名前?」
「そうだ。汝はエラ・アンジェ。さあ早く、リュミエを…!」
「わかった!」
碧は言われた通り手に水を纏い、心羽の負傷した箇所を撫でる。
「心羽ちゃん、どう…?」
「すごい…痛みが引いていく。ありがとう!」
「アンジェ、変身中は本名で呼ばない方がいい。もしその会話を誰かに聞かれ、変身者がバレると面倒なのでな」
エウィグが忠告する。
碧の力で心羽は完全復活し、勢いよく立ち上がった。
「いくよ、アンジェ!」
「うん!」
2人はそれぞれの武器を構え、肩を並べて影魔に突撃していった。
2人の繰り出す連携攻撃は影魔に隙を与えず、動きを完封された影魔に心羽の必殺技「🌟プロミネンスシュート🌟」が炸裂。影魔はあえなく撤退していった。

END

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