『君死にたまふことなかれ』與 謝 野 晶 子

あゝをとうとよ、君を泣く、
君死にたまふことなかれ、
末に生れし君なれば
親のなさけはまさりしも、
親は刃(やいば)をにぎらせて
人を殺せとをしへしや、
人を殺して死ねよとて
二十四までをそだてしや。

堺の街のあきびとの
舊家(きうか)をほこるあるじにて
親の名を繼ぐ君なれば、
君死にたまふことなかれ、
旅順の城はほろぶとも、
ほろびずとても、何事ぞ、
君は知らじな、あきびとの
家のおきてに無かりけり。

君死にたまふことなかれ、
すめらみことは、戰ひに
おほみづからは出でまさね、
かたみに人の血を流し、
獸(けもの)の道に死ねよとは、
死ぬるを人のほまれとは、
大みこゝろの深ければ
もとよりいかで思(おぼ)されむ。

あゝをとうとよ、戰ひに
君死にたまふことなかれ、
すぎにし秋を父ぎみに
おくれたまへる母ぎみは、
なげきの中に、いたましく
わが子を召され、家を守(も)り、
安しと聞ける大御代も
母のしら髮はまさりぬる。

暖簾のかげに伏して泣く
あえかにわかき新妻を、
君わするるや、思へるや、
十月(とつき)も添はでわかれたる
少女ごころを思ひみよ、
この世ひとりの君ならで
あゝまた誰をたのむべき、
君死にたまふことなかれ。

現代語訳と解説については、こちらから
https://tankanokoto.com/2020/08/kimi-yosano.html#i-4

本日15日は、終戦記念日ということで
毎年ながら脳裏をよぎるこの詩を載せてみました。

『君死にたまふことなかれ』のタイトルの意味は
「どうか、死なないでください」「死んでくれるな」
といった文語的表現で、日露戦争の旅順攻囲戦に召集され
戦地に向かった弟に送った詩です。

私がこの詩を知ったきっかけは、小6の時に自室の本棚にあった
『みだれ髪』という処女歌集の最後のページを見た時です。
元々は、母が娘時代に愛読していたものでした。

当然ながら、子供だった私には詩の意味など解りませんでしたが
“なんか珍しい感じがするから、次の日ノート提出日だし写してみよう“
と思い立ち、走り書きしました。

すると案の定、担任の先生が見つけて
私が写したものをそのままプリントして
“〇〇(私)が、珍しい詩を書いてきたぞ!!“
と言いながら、クラス全員に配ったんです。
その時、私は
“こんなことなら、もっと綺麗な字で写すべきだった“
と、後悔しました😅

そんな思い出もある詩です。

END

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