父親と叔父

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【illust:IENOにく様】

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【illust:壱師様】

砂漠の荒野に城を築き
月光を魔力へ変換し狂気を手繰る
夜を統べる古の竜一族。
一族は細身で美しい容姿でありながら、瞬間的に異常な怪力を持つ。
古代言語による魔術(主に暗示や唄)は術者或いは対象者の精神を侵し
狂気を増福させることでバーサク状態へと導くことが可能。

古より、一族の血を徹底的に護ることを掟とされ
同族婚を幾度となく繰り返し、より濃い血を遺していく。
一族の力は色濃く遺されていくが
先天性の病で長生きしない者も多い為
やがて、一族は衰退し滅びる運命は避けられない。

●カマル・イスマーイール
一族を統べる長、シャーリィンの父親
一人称は「私」
孤高な長の立場故か、感情に振られず冷静な男。
弟のヒラルが自分のことを好く思っていないことには気付いているが
切り捨てられずにいる。
半身であると共に、自由で感情に素直で器用な弟を何処か羨んでいる。
燻る狂気を抑え苦しむが、それを昇華する術を知らずに
少しずつ心が侵食されていた。
月を宿す濃い純血を残す為に、多くの女と交わるのが長の務めであり、掟。
シャーリィンの母と交わりは特別に感じた。
彼女は自分の運命を嘆いていた。
他に好いている者がいたのかもしれない…交わる最中に嘆き悲しむ姿を見て……どうしてか、普段感じない高揚感を
得た。
これが何なのかは分からないが…狂気が晴れる気がした。
そんな唯一の女の間に授かった子がシャーリィンであり
満月の双眸に美しい翼を持って生まれた一族の集大成故に大切にしている。
大切にしているのは、あの時…私の心を唯一踊らせ、晴らした女の面影を残しているから。ただ、それだけ。

●ヒラル・イスマーイール
カマルの双子の弟。シャーリィンの叔父。
一人称は「僕」
一卵性双生児の為、容姿はカマルと殆ど同一。
洞察力があり、人付き合いも器用な策士。
心身ともに能力が兄よりも、僅かに及ばない事実に兄への嫉妬が募る。
が、兄よりも柔軟な思考や行動力など“力”でない部分は弟の方が優れている。
兄の唯一大切な愛娘は一族の集大成であることを引き金に
狂気を抑制することを辞め、狂った一族を自分の手で終わらせる。
先ずは兄の唯一大切な娘を手篭めにして穢した。
兄の大切なものを自分が壊した事実に、とても満たされた。
兄が羨む「自由」と弟が羨む「力」
二人の望みは互いに成り立っていた。
狂気を昇華出来ず苦しんでいた兄の姿を知っていたヒラルは
壊れかけの兄に囁く。
「二人でなら、叶えられないものなんて…ない。ーー…もう、自由になろう。」
そう言って、二人は幾度となく互いを入れ替わり
カマルである時は、力を権威を知らしめることが出来る。
ヒラルである時は、何もかもが自由だった。
狂気を抑え続けたあの苦しみが馬鹿馬鹿しく思える程。
そうして、大切な娘の涙と絶望をこの身で得た時に
何をしても満たされることのなかった、狂気が晴れた。

――もう、兄弟の堺などわからない。

END

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