--- Title: '' Author: uki_shitoshito Web: https://mimemo.io/m/Rx1XoRVKyDoe95E --- # サービスエリア  郊外にあるアウトレットモールに宮城が行きたいと言うので、じゃあ次にお互いの休みがかぶるときに出かけようと約束していた。そこはメンズブランドが比較的多いそうで、スポーツブランドもたくさん出店しているらしい。アウトレットモールというと女性向けの店舗が立ち並ぶイメージがあったが、それならオレたちが行っても楽しめるだろうと思い、オフの日が合うのを密かに楽しみにしていた。恋人とのデートの機会というのは、いくらあっても構わないものだ。  愛車の黒いSUVで宮城を家の近くまで迎えに行く。国産の足回りのタフなこの車は、車内も広めで気に入っている。買うときに白と黒で迷っていたところ、パーツがマットブラックのモデルを見た宮城が、これ三井さん乗ったら似合いそう、と言うので黒にした。艶のある黒いボディにマットなブラックのホイールがちょっと厳ついオレの愛車は、アウトドアにも向いている。宮城を連れて車中泊をして、あわよくばそこでと思っているが、思考を読まれているのか誘っても反応は芳しくない。  午前中に出かけて、昼はどこか途中で食べようと決めていた。オレの車を見つけた宮城は、かけていたサングラスをちょっとずらしてひらひらと手を振った。助手席に乗り込んできた瞬間、いつもの香水の匂いが一緒に入ってくる。それを吸い込むのが好きで、オレはこっそり鼻をうごめかせる。 「おはよ、三井サン。車ありがとね」  髪型までばっちり決めた宮城が、にこりと笑う。シートベルトをつけたのを確認して、車を発進させた。  平日なので、高速もそこまで混んでいない。スムーズにアクセルを踏みながら、昼食をどうするか宮城に尋ねる。 「飯どうする? サービスエリアで適当に食ってもいいけど」 「うん。いいっすよ。何食いたい?」  それなりに大きいサービスエリアなら選択肢も多いだろうと、近くで大きめのところで停まることにした。和洋中何がいいかと思いつくメニューをお互いに挙げていると、段々と腹が減ってくる。 「オレはぜってえカツ丼を食う」 「そんなこと言って着いたらいっつも迷うじゃん」  断固としてカツ丼が食べたいと思って決意表明をしたけれど、宮城は笑って取り合わない。でも実際にメニューを目の前にしたら決意が揺らぐのも分かっているので、これは結局ただの暫定の意見に過ぎない。  最近のサービスエリアは大きいところだと立派なアミューズメント施設と言っても過言ではなく、キッチンカーがあったりカウンター形式の軽食が買えるところも充実している。着いてすぐ見かけた牛肉コロッケにふたり揃って目を奪われ、ひとつ買って半分にして食べた。揚げたてのさっくりした衣の中にほくほくのじゃがいもが入っていて、たっぷり牛肉の旨味が混ざっている。脂がねっとりとした食感を作っていて、リッチな食べ応えがある。じゃがいもは北海道産と銘打たれていて、それだけでおいしく感じるのは何故だろうと思う。 「当たり。うまい」 「帰りソフトクリーム買ってこ」  つまみ食い程度の間食に食欲を刺激され、レストランを目指す。フードコートになっていて、好きな店で注文して出来上がったら取りに行く形式のようだった。 「三井サン、あれ見て」  宮城が袖を引くのでそちらを見ると、チャレンジグルメと書かれた大盛りメニューが大々的に宣伝されていた。30分以内に食べきったら無料。溶岩ミートパスタチャレンジ! と書かれたそのポスターには、溶けたチーズがこれでもかというほどかかったミートパスタに、からあげやらエビフライやらが賑やかに添えられていて、さらにピラフが横に控えている。とてもじゃないが常人に食べ切れる量ではない。 「花道なら食えるかな」  興味深げにポスターを見る宮城に、オレもうなずく。桜木ならぺろりと平らげるだろう。 「オレらじゃ半分いけるかどうかだぞ」  ちょっと挑戦してみたそうにしている宮城に釘を刺すと、分かってるって、と頬をふくらませる。その頬をつついて空気を抜いたら怒るだろうなあと思いつつ、オレはフードコートを見回す。今のところカツ丼が優勢だけれど、たくさんあるとやっぱり迷う。 「もうカツ丼揺らいでんじゃん」  目敏い宮城がからかってくるのに、うるせ、と答えながらも、既にカレーが気になっている。  結局カツカレーにしたオレを見て、宮城は中途半端! と笑う。そういう自分だって中華の気分かもしれないとか言っていたくせに、食べているのはからあげ定食だ。フードコートのメニューとはいえ、辛口のカレーはなかなかの出来で、乗せられたカツも分厚くてザクザクの衣がおいしい。腹が減っていたのでほとんど無言で食べ終えて、ひと息ついて腹をさする。 「ねー、見て、ジェラート売ってる」  目端の効く宮城が、また新しいものを見つけて指をさす。地元の野菜や果物を売っている店で、それらを使ったジェラートを売っているようだった。野菜のジェラートだなんて、一風変わっているのがおもしろく、覗いてみることにした。  チャレンジャーの宮城はれんこんのジェラートを選び、保守派のオレは黒ごま味を選んだ。手作りらしくちょっと荒い舌触りのジェラートは、ごまの味が濃く香る。 「すげえ、甘くてうまいんだけどれんこんの味もする」  れんこん味を食べた宮城が目を瞠る。勧められてひと口もらうと、ミルクジェラートをベースに確かにれんこんの味がする。経験のない味だが、決して悪くはない。 「なんだこれ、おもしれえな」  ざらっとしたれんこんペーストが混ざったジェラートをつつきながら、オレたちはすげえ、とか不思議、とかあ、今れんこん来た! とか馬鹿みたいに騒ぐ。なんとなく寄ってみたサービスエリアだったけれど、案外しっかりと楽しめた。満足して、また車を走らせる。  平日のアウトレットモールは駐車場もそこまで混んでいなくて、割と入口に近いところに停められた。宮城が言ったとおり、メンズ向けの店やスポーツブランドが多くて、見るものには困らない。  贔屓のブランドでランニングシューズを新調したオレと、オレなら絶対に買わないようなビビッドなイエローのハーフパンツを夏用に、と購入した宮城は、それぞれに紙袋をぶら下げて歩く。 「買い物も楽しかったけど、サービスエリア良かったよね」  れんこん味のアイスうまかった、と笑う宮城に、オレも同意した。 「ただドライブしてサービスエリアで遊ぶのもいいな」  今度やろーぜ、と約束して、帰りの運転に備えてぐっと伸びをする。このまま車で出掛けるのが定番になって、いつかアウトドアに連れ出せたらいいな、と性懲りもなく思い、オレは助手席から香る香水の香りを吸い込んだ。 ****