--- Title: ディザスター・スカイ Author: sagitta_luminis Web: 'https://mimemo.io/m/ZYrNkl1rbM4QqA5' --- それは心羽と剣人がファミレスで小さな打ち上げパーティーをしていた時のこと。この頃はリーンたちの働きもあってエクリプスの活動が下火になり、先日の望海中文化祭をエクリプスに邪魔されることなく無事に終えられたこともあって、心羽たちは再び日常というものを実感するようになっていた。 —————————————————————————————— 剣人の携帯に着信がある。碧からだ。碧も亮も、剣人が仮の名義を作り、携帯の契約を結んでいた。慣れない地で困り事があった時いつでも連絡できるように、という剣人の善意だった。2人とも順応力は高く、既に電話の掛け方はマスターしていた。(心羽もこの時一緒に契約してもらってはいるが、「エウィグがいるから」と携帯を持ち出したことは1度もない。) 剣人は席を外し、通路で電話に出る。その途端、スピーカーの向こうでガラスの弾けるような音が連続で鳴り響いた。碧が切羽詰まった様子で何か言っているが、騒音が凄まじくなかなか聞き取れない。その様子に剣人も慌てて心羽を呼び、スピーカーをオンにして碧の話を聞き取ろうとする。 「どうしたの!大丈夫?」 「今どこにいるの!?」 二人は碧に聞こえるよう、声を大きめにして話しかける。 「いま、飛行機に乗ってるんだけど、エク…プスが暴れてて!」 碧も騒音に負けじと大声を張っているが、それでもところどころ聞き取れない箇所がある。 「飛行機でエクリプスが…!?」 「そう!色々壊されて、飛行機が動…なくなったみたい!どうしよう…!」 「今どの辺を飛んでる?」 「うーん、わか…ない…!でももう地面が見える!」 「えっ!?」 碧は今日朝憬市に帰ってくる予定だった。ということは外に出れば見えるかも。 二人は目を合わせて走り出す。廊下を渡り、レジを駆け抜けて外へ飛び出し、空を見回して飛行機の影を探す。 「あった!あれじゃないか?」 剣人が指さす先には、傾いたまま窓から黒煙を吐くジェット機の姿があった。雲よりは低い位置を飛んでいるが、まだ高さはある。碧は動かなくなったと言っているが落ちている気配はなく、姿勢制御を頑張っているようにも見える。これならどうにか被害を食い止められるかもしれない。 「碧ちゃん!いま助けに行くから、頑張って持ち堪えて!」 「大丈夫、絶対に助けるからね」 そう告げると剣人は電話を切り、心羽と目を合わせる。 「心羽ちゃん、行くよ!」 「うん…!でも、どうやって…?」 「俺に考えがある」 —————————————————————————————— 機内は警報が鳴り響き、窓は軒並み割れて、差し込む暴風が機内をかき乱す。ペットボトルや乗客の荷物が辺りを飛び交い、怪我している人もいれば今にも機体から投げ出されそうな人もいる。 シートの一部に火が燃え移って煙と共に火の粉が舞う。機体は傾きはじめて床が左側にあり、穴の空いたかつて窓が今は足下にきている。凄惨というほかない現状の全ての原因は、真ん中で暴れ回ってるアイツ。乗った時にはいなかったのに、離陸してしばらくしたら現れた。乗客の誰かを宿主にしていたのだろう。 碧は長い間エクリプスの奴隷として働かされていた過去があり、まだエクリプスにひとりで立ち向かう勇気が出ず、剣人たちに助けを求めるので精一杯だった。 二人とも、必死で守ろうとしてくれているのが電話越しに伝わってくる。そう思うと、戦う勇気が湧いてきた。 碧は傾いた機内で立ちあがり、変身する。少しでも被害を食い止め、生きて帰るために。 「観念なさい!あなたはここで倒されるのよ。」 碧は今にも壁を引き裂こうするエクリプスにハッタリを効かせて注意を引く。 「あぁ?誰だよお前」 エクリプスは手を止め、碧に向き直る。ひとまずは作戦成功。 「あっお前ゴールドリングじゃん。生きてたのかよ」 …気付かれてしまった。碧はこのエクリプスと面識はないが、相手はこちらを知っているらしい。 「へぇー、役立たずかと思えば今度は反抗してくるんだ?いち ど捕まったくせに」 その言葉に思わず足がすくむ。エクリプスに使役されていた過去が碧の体を縛り付ける。 「ち、違うわ!今度は私が、あなたを倒すんだから!」 そう言いつつも、碧はその場から動けないでいた。 「口だけじゃねーか。やる気がないならこいつらと一緒に死ね」 バリバリッ。 「うわっ!?」 エクリプスは足場になっている壁を引き裂いた。今の一撃で足場を失った人々は落ちていき、碧も辛うじて両腕で踏みとどまっているが両足は宙に投げ出されてしまった。 —————————————————————————————— 「飛行機って速い…!」 リュミエは背中から羽を生やし、飛行機に並走するように飛翔していたが、リーンを抱えながらのため追いつくので精一杯。 「リュミエ、あの窓に俺を投げれる?」 リュミエに抱えられているリーンが言った。 「俺が窓に体当たりして無理やり中に入るから、リュミエはそれに続いて」 「わかった、やってみる。息を揃えて…せーのっ」 ちょうどそのタイミングだった。バリバリッと金属が破れるような聞き馴染みのない音がして飛行機の壁板が剥がれ落ちた。 それとともに、ざっと数えて十数人の乗客が悲鳴をあげながら宙に投げ出された。 「そんな…!」 投げ出された乗客たちは為す術もなく、飛翔する2人の眼前を落ちていく。この高さから落ちれば、並の人間ではひとたまりもないだろう。 「あいつ…絶対に倒してやる」 リーンは大勢の命を目の前で奪ったエクリプスが許せなかった。 一方で、リュミエはとっさに地上までの距離を目視で推測した。 「リーン、碧ちゃんとエクリプスをお願いできる?」 「えっ、いいけど…なんで?」 リーンはリュミエと共に飛行機へ乗り込むつもりだった。 「私、今の人たちを助けてくる。ひとりも死なせたくない」 「…わかった。頼んだよ、リュミエ!」 「じゃあいくよ…!せーのっ!」 リュミエはリーンを機内へ投げ入れる。壁がさっきの損傷で大きく破れていためリーンの突入は簡単だった。