『まだ観る価値のない私を』(第1話)  :  #ウマ娘プリティーダービー #創作メモ #書きかけ #短編 #二次創作 #ウマ娘 #モブウマ娘

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模擬レースにも『注目度』がある。
 前評判の高い子が初めて出る模擬レースは注目される。でも、模擬レース常連、しかもその中で華々しい何かをアピールできないウマ娘が集う模擬レースなんて誰も見てくれない。
 そして私は、後者の模擬レース常連……いや、もうお局様と呼んでも差し支えなかった。
 模擬レースにすら出走を拒否すれば、退学勧奨が待っている。もうそれは前例がある。だけど出走したところで敗北感が積み増しされるだけ。
 私は重い脚を引きずりながら誰の歓声を浴びることもなくゲートへ向かう。王道の芝・二千四百メートル。出遅れて焦って転びかけて、第四コーナーまで懸命に走ったけれど、それでも先頭からざっと見た限り十五メートル離れてる。ここから勝てる末脚を私は持っていない。……今日もダメか。その恒例の諦観が私の脚を鈍らせる。確実に負けると理解したらそれをさっさと受容する。敗者には敗者としての矜持がある。
 ゴール板の前を走りきって、コースに向かって一礼をして、そのまま更に速度を落として更衣室へ向かう。移動とクールダウンを兼ねる合理的な一石二鳥。模擬レース場に残ったところで私を注目している誰かがいるわけでもないのだし、最下位でゴールした私があの場にいても自意識過剰と揶揄されるか敗者への憐憫の視線しか飛んでこないことは、いくら賢くない私でもわかってる。
 更衣室までおおよそ五十メートル。私が普段の速度で歩き始めたそのときだった。
「やあ」
 本当に唐突に、右斜め後ろから声が飛んできた。
 何事かと警戒して見渡すと花壇の縁に腰掛けていた青年男性がいた。カジュアルな格好で、いかにも『天気がいいからひなたぼっこを楽しんでいました』といった風情で、けれど胸元にはバッジがあるのを確かに見た。ここに通うウマ娘ならおそらく誰でも一度は声をかけられることを期待する職業を示す、トレーナーの証。
「その格好……ああ、今日の模擬レース走ってたんだ。見てなかったけど」
「は?」
 私は眉をひそめた。
 見る価値がないことくらい知っている。けれど、見ていないと明言されるのが愉快なはずはなかった。

END

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