--- Title: お題で綴る『雪の街で』 Author: miorim Web: https://mimemo.io/m/p5be8G9L184WxkE --- 「そういえばあの時も雪が降っていたっけ」 (粉雪…というには些かぼってりしたおでぶな雪が降りしきる中、流石に雪まみれになるのを疎んだのか、傘を広げながら傍らのナオがそう言った。私の方はといえばすでに傘を開いている) あの時…って何のこと? (傘の取っ手部分を弄び、くるくると傘全体を回転させて雪をふるい落としながら私は首を傾げた。ナオの言わんとすることには全く心当たりがなかった。) 「ふぅ…ん?」 (足を止め、小さくため息をつくように、半ば呆れてもいるかのようにナオは私の顔を見た。どうしたっていうんだろうそんな顔をして) …何?私、何か忘れてるの? (雪の華、というには些か控えめさに欠ける結晶を『えい』と苛立ち紛れに傘の布地の裏側から叩いて舞わせる) 「別に。覚えていないのならいいんだ。うん」 ――え、何?気になるよ (改めて問う私を置いて、スタスタと歩を進めるナオ。つい先程振り始めたばかりということもあり、朝の通学路はほぼほぼすっぴん。雪化粧と呼ぶには程遠く、ナオの足取りも軽い。) (そのナオを更に追い抜くように、この寒空にはそぐわない黄色い薄手のパーカーを着た小学生と思しき男の子が何かの童謡に出てくる犬のようにテンション高く快哉を叫びながら駆け抜け、その後ろから『待ってよアオくん~』と間延びした声をあげながら、白い息を弾ませ、うさみみつきのフードを被ったもこもこの白いコート姿の女の子が追従していくのを茫洋と見守った。) 「君たちとは逆だね」 (背中を向けたまま、だが対象は明らかに私と分かるようにナオは言った。ますます混乱する私) 君……たち? (『君』というのは明らかに私のことであろう。ナオはいつも私のことを名前で呼ぶのだが、代名詞で呼ぶときには大抵『君』を使用するからだ。しかし、『たち』とは当然ながら複数形を表す言葉で。) 私たち…って誰のこと?私…とナオってことじゃないよね。 (当然だ。それなら二人称の呼称は使わない。ナオとは違う誰かと私はペアにされていて。それも文脈的には) 男の子…だよね。逆ってことは…。 (考えを巡らせる私が足を止めるのに合わせて、ナオも立ち止まった。しかしナオはこちらを振り向くことはなく、無言で手にした傘をくるくると回転させている。先ほどの私のように。) 「君は、雪が降るといつもあんなふうに…っていっても最近はあそこまでじゃなかったかな。でも、はしゃいでた。子犬みたいに」 (風が六花を舞わせ、ナオの通学靴に冠雪する。先ほどよりも冷気が強さを増し、心なしか視界もやや白みを濃くしていた) そう…だったかな? (はて、と再び首を傾げる私。だって雪だからってそんなにテンションあがるわけでもないし、騒いだりもしない。でも、ナオの言葉は揶揄う調子もなく淡々としていた) 「…うん」 (傘の布地が肯定を表すように大きく縦に揺れた。そしてナオはこちらを振り向くと、慈しみと憐れみと、それでいてどこか無味無臭な、泣き笑いのような矛盾だらけの表情でこの十字路を指差した) 「ちょうど、あそこだったんだ」 (そこは私の住んでいる住宅地エリアから、学校のある駅近のエリアへ移動するための十字路で、信号が青になっていたためか、すでに横断歩道を渡り終えた黄色と白の背中が遠ざかって白闇に融けていくところだった) …なに、が? (と私は少しの頭痛による不快感と共に顔をしかめながらナオに聞いた。思い出せない。…思、出せな、い。)