--- Title: 「異世界平和」試し書き Author: abisu Web: https://mimemo.io/m/qLXOlJPWk7GzQ19 --- 1 「この惨劇はお前の仕業か?」 辺りを蔓延る屍と鉄の匂い。 その中心に立つ人物に武蔵は問う。 「そうさ!素晴らしいだろ、この香り!この血生臭さ!」 男は高らかに笑いながら言葉を続けた。 「お前も混ざるか?」 男の腕からは血が滴り、残忍さが伝わってくる。 そして顔に浮かぶ笑みは、狂気を醸し出している。 周りには人どころか、森にも関わらず獣の一匹すら近づかないこの異質感。 だが武蔵は、そんな空気に対して動揺の一つ見せず、一言呟いた。 「……混ざってんな」 その声は小さく、魔法使いの男には届かなかった。 「あ?聞こえねぇよ」 「この真っ赤な血の池に、ドス黒いあんたの血が混ざってるって言ってんだよ」 腰に下げた刀の鞘に手を掛ける。 それを見て、男は構える。 「はっ、おもしれぇ!」 武蔵が踏み込む。 「掛かってこいよォ!」 男目掛けて突き進む武蔵。 だがその表情は見えない。 空を切り、ただひたすらに進む。 (俺は魔法使いだから接近戦は苦手だと、アイツはそう思っているのだろう。が、俺はソレをしない、むしろ逆手に取ってやる。近づいてきたところを殴り飛ばしてやらァ……!) その時、武蔵が鯉口を切った。 (なるほど、刀で真っ二つに切るつもりか。甘ぇなァ!たかが一閃、交わしてカウンターぶち込んでやる) 魔法使いの男は身構える。 案の定、武蔵の手が刀の柄に伸びる。 そのまま、武蔵が刀を握りしめた。 (来るッ!) 僅かな動作で武蔵が横に切ると判断した男。 素早く身を屈める。が、直後に違和感を覚えた。 (頭上に風の流れが……来ない⁉) 男はハッとした。 刀が横切った感覚がなかった。 そう。武蔵は刀を握ったまま、抜いていない。 「隙だらけだよ、雑魚」 身を屈めている男の顎に、武蔵の膝蹴りが迫った。 (マズッ⁉) 反射的に飛び上がって避ける男。 しかし休む間もなく、追撃の予感が迫る。 武蔵の刀が抜かれた。 (今かよ!) 腹を切られる男。 さらに、抜刀の勢いのまま、左足を回す。 着地した左足を軸に、今度は右足を回した。 「ぐはっ‼」 武蔵の回し蹴りは見事に男を吹き飛ばす。 気づけば、男は血の池から追い出されていた。 今や池の中心に立つのは武蔵だった。 男は膝を付き、腹に手を当てた。 「はぁ、はぁ……回復っ、魔法……ッ!」 (ははっ、何てヤツ。この一瞬で、俺に回復魔法を……) 恐怖心からの疲労に襲われつつ、男はゆっくりと顔を上げる。 目に映るのは、刀を鞘に納める武蔵の姿。 その佇まいは、格の差を伝えている。 (俺は……コイツには勝てない) 「バケモノめ……!」 そう呟き、恐る恐る立ち上がる男。 「おい死にぞこない」 武蔵の声に、男は静止する。 「隙をやる。生きるか死ぬか、選べ」 その言葉を聞くと、男は震えながらもそそくさと立ち去った。 男が立ち去った後、武蔵は足元の血を見つめた。 そして、傍に転がる屍を見つける。 武蔵はしゃがみ込んだ。 「ごめんな、仇を逃がしちまって。殺ろうと思えば殺れたんだけど……」 言いながら、瞼を閉じさせる。 「罪なき人の純血に……罪人の血を、混ぜたくなくてね」 そういって、手を合わせた。 2