無題3

ああ、一心同体とはなかなかどうして厄介だ!
片割れを眺めて、俺はそう思う。
何をするにもニコイチ、同じ。双子と言うだけでひとまとめ。
ホント、そういうの、やめてほしい。

「手間がかかる奴だよ、まったく…」
「え、なに?」

弟だからって、おつむの世話までしきれないんだよ!

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「おい白!仕事!!!」
「え~~~~めんどくさい、黒がやってよ」
「俺の睡眠時間削らせるな!!!!!お前がやれば終わる話だろ!!」
「だって~~」

うだうだうだうだ、この時間さえも惜しいのに!
今日も今日とて死体処理。俺は疲れに疲れた体を叩き起こして、布団に埋まる白色を揺さぶってやる。同化したって無駄だ無駄、わからないはずないだろう。
本日も仕事は立て込み気味で、九時間睡眠を決め込むためには白の協力は不可欠だ。お俺だってこんなことはしたくないさ、だってコイツは大体お荷物なんだからな!
それでも、猫でも犬でも手は欲しい。喉から手が出るほど欲しい。俺の睡眠時間の為なら、どんな手でも惜しいのさ。
だから、起きろ!
恨めしそうに赤い瞳がこちらを咎める。そんな顔しなくても、絆されそうになるのをぐっと堪えて、追い打ちに飯抜きの警告をした。

「行きます、行きます~ってば…そんなガミガミ言わなくてもぉ、お母さんじゃあるまいし」
「誰がオカンだスカポンタン!!!!!!!!!」
「はいはいいいから行きますよ~」

布団と共に玄関に降り立とうとする彼を止めれば、そういう所がお母さんなんだよ、と俺が悪いみたいな言い方にちょっと腹が立つ。
それなりに苦労しているのは果たして誰の所為だかな!

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双子と言っても、全部が似ているわけじゃあない。
俺は寝るのが大好きで、アイツは遊ぶのが大好きだ。アイツの瞳はルビーだが、俺の瞳は深海だ。
顔もそこまで似ていない。髪の色が違うんだ、間違われることもまああるまい。
こんな感じで、否定なんていくらでもできるほど、俺とアイツは似ていない。
じゃあ、逆に何が似ているか?
さて何の話だか。似てようが似てまいが、アイツは俺の弟に違いない。
かわいいかわいい、大切な弟で。
ああ、それはそれは______
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路地裏。

「うッわ」
「これはまた」

容赦なく切り付けられた男の脚がゴミ箱の蓋からはみ出ていた。適当すぎるだろ、アイツ。
血はとうに酸素を吐き終えて、汚い黒と生気のない白のモノクロームが彼の最期を彩っている。俺たちにぴったりなお膳立て、どうも、ちっとも嬉しくないんだが。軽く揺らしてみれば底に固まった様な何かを感じる。大方処理のしていない血が溜まった結果がこれだろう。
中の惨状は、見たくも見せたくもない。

「どうするぅ~?」
「…箱ごと片付けないと、嗅ぎつけられてもしてみろ」
「は~い」

鼻をつんざくような血肉の腐っていく異臭に、片割れが眉を顰めてゴミ箱を見る。
重さはそこそこある上に、結構デカいし、目立ちがち。「手伝いましょうか」なんてお人好しに声をかけられればまーた仕事が増えるのだ。ひたすらにめんどくさい。
たった一つのゴミ箱にここまで頭を悩まされることになるとは、夢にも何にも思わなかった。
いや、これはあのアホ毛野郎が悪い。

「荷台に乗せる?」
「いや…海に流すのが早いだろうけど」
「結構遠いよね」

考えるほどに眠くなる。白はでろんと出っ放しの脚を入れるのに躍起になっている。切断した方が早いのだが、生憎そんな道具はない。
ゴミ袋に入れればなんとかなるのではあるまいか、いやいや車か何かで運ぶのか、もうバレそうにないしここに置いておいても構わないのでは…それは職務怠慢だ。
ああ眠い、眠い、めんどくさい!

「手伝いましょうか」
「ああどうも、人手が足りなくて」

足りなくて、

待て。

「……黒ぉ」
「……………」
「…どうしました?」

飛び上がって、逃げてしまおうと思った。
そんな衝動と衝撃を抑えて、俺は男を睨みつける。
焦げ茶の髪に青い瞳と、人がよさそうな笑顔を湛えて、
パーカーを被った彼はそこにいた。

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「なんですか」
「いやァ、口が多いとはよく言われるんですが」

へらへらと締まりない口からは覇気もクソもない声が押し出される。白は俺の後ろに回り込んで、ぐ、と袖を引っ張ってきた。多少の不安に、多量の混乱。弟さんですか、と問いかけられるがそんなの答える義理もない。
面倒だけど、やるしかない。

「マネキンでしょう?俺も友達が演劇やってるんで、処理困るのわかるんですよ」

ゴミ箱を指されて、一言。
作り物のような白い肌は、それを肯定するように鎮座している。もちろんはいしか選べない。いいえと答えるのは、死体であると白状している様なものだ。
だけど、これ、使えるのではないか?
こういう事に関しては白の方が頭が回る。その考えに気づくのも遅くはなかったらしく、ちょこちょこと俺の前に、屈託無い笑顔で踊り出た。

「そうなんです!俺ら、近くのお店のデザイナー見習いで!」
「で、廃棄されたマネキンをどうにかしようと思ったんですけど、結構重くて」
「だからどうしよっかなー、と思ってたんです〜!」

こういう時のおべっかに関して、白のコミュ力は異常と言えよう。俺は愛想が良くないので率先してくれるのは嬉しい所だ。適当に話を合わせて、暗にマネキン運びの手伝いを要求する。
向こうから声を掛けてきてくれたんだから、俺らは悪くないぜ、なあ?

「…んー、車なら出せますけど」
「え〜!そんな悪いですよ〜〜!!」
「首突っ込んだのは俺なんで、困った時にはなんとやらですよ」

…そんなことわざ、あっただろうか。
本心からか上面だけか、感謝を述べる片割れを他所に男は俺に目を向ける。
どこか懐かしさとも切なさとも、
劣情とも、愛情とも、
なにものとも言い難いその感情に、俺は息を詰まらせる。
そんなことは何もなかった様に彼は宙に目線を向けて、また俺たちに目を配らせる。先程感じたぐちゃぐちゃの何かは、もう何も感じなかった。

「お名前、教えてもらっても?呼び方がなければ困るでしょ」
「えっと、俺は白で〜す」
「黒です」
「黒、白、わかりやすいっすね」

双子なんだよ、と俺の腕を抱きしめて弟は嬉しそうに言う。それが双子である事を誇れる喜びからか、面倒な事を考えずによくなったからかは分からない。可愛いからどっちでもいいんだが。
軽い笑い声が響いた後、彼は息を吸う。

「俺の名前はルーポです。L、U、P、Oでlupo、
オオカミって意味ですよ」

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「こっちの方に停めてるんで」と言うもので、その停めている場所まで足を歩ませる。
賑わい様は4連休の真っ最中ならでは、カップルもファミリーも勢揃いだ。ああ、こうしている間の時間さえ惜しいと言うのに、どうして俺はこんな街中を歩かにゃならんのだ。
夕方4時の太陽は、ゆっくりと赤を空に溶かしていた。ルーポと名乗る男の瞳に反射して、ゆらりと紫に揺れていく。

「ちなみに、どんな服とか作ってるんですか?」
「あー!俺らはまだ練習ってか、デザインも何もさせてもらえてないってかあ」
「要するに小間使いですよ」
「へえ」

聞いた割には心底どうでも良さそうな返事。気の抜けた返事。まるでそこに居るのに居ない様な、上の空の返事。
俺たちの少し前を歩く彼の背中に、お返しとばかりに白は一つ問いかける。

「じゃあ、ルーポさん?はどんな仕事してるんですか?」
「俺は別に」
「別に?」
「大した事してませんよ」

口先だけでは笑っていても、内心焦り気味なのがバレバレだ。落ち着きのなくなった両手は宙を掻いて力を無くす。
俺と白は目線を交わす。アイコンタクトなんて日常茶飯事、さらに根掘り葉掘り聞いてやろうじゃないか。
ワンチャン手を汚さなくても何とかなるかもしれない。気が弱い奴は脅せば搾取できる。搾取すれば反抗しない。反抗しなければ搾取できる。つまり、ループ。
弱肉強食の社会において、弱みは見せた方が負けなのだ。

「年収〜!年収とかどれくらいなんですか〜!」
「え?いや、それは」
「じゃあどんな職種?IT?まさかフリーターとかじゃないでしょ(笑)」
「あ〜〜、と」

忙しなく首に掛かっている紐を触り始める。
人間というのは追い詰められると、弱みを頻りに隠す癖がある。顔に自信がないなら顔を背けるだろうし、口に自信がないなら口を噤むだろう。
つまり、その指先に絡まる糸。
その糸こそ、弱みであり、彼の仕事の一端と言えよう。

「ルーポさん、これ見て下さいよ」
「はい」
「もーらい!」

気を逸らした隙に、白い指がその糸を取り上げる。情けない声と、共に夕焼けを照らすそれは露わになった。
キラリと光って、カシャリと落ちる。
見間違いようはなかった。生きているうちで、一度は目にかける様なものだ。

「………十字架?」

それは、関わってはいけない奴。

「あ、えーーーーー、と………」

ただのお洒落ならこんな難しい顔はしない。
ただのお洒落ならこんなに渋る必要はない。
宗教という物は、時に人を狂わせるのだ。

「……俺は否定しないけどねえ」
「人それぞれだし」

そんな訳ないだろバカ。神様なんて信じた時点で負けなんだ。
俺たちが神様なんて一度でも見出したことはあるだろうか。ああいや、種族的なものじゃなくて、概念的に。
神様なんて居るのなら、俺たちにはバチしか当たらない。それでも神様が居たのなら、間抜け野郎と笑ってやろう。
彼はその祈り具を拾い上げる。まるで宝石を拾う様に、大切に、大切に。

「………そうですか」

安心したような笑みを見せる彼に、作り笑いと称した笑顔を返してやった。
もし死体を運ばせたとバレたとしても、これをダシに使えるのは大きな利点と言っていい。
完璧だ。睡眠時間も確保できる。まだ十二分に確保できる。
足取りは軽やかに。
鼻歌は高らかに。
笑い声は華やかに。

俺たちは、地獄の一丁目へと足を踏み入れていた。

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「ここです」

着いた先は、先程の喧騒とは打って変わって、静寂の漂う路地裏であった。俺たちと彼が出会った様な、そんな薄暗い路地裏だ。
さあさと背中を押されるがまま進んでいくはいいが、奥になるにつれ狭くなるばかり、車など到底入るわけがない。

「………車は?」
「まさかトミカとか持ってくるわけじゃないよねえ」

それはないだろ、と内心思いつつ、背中の彼に振り返る。

ば ち 。

布とコンクリートの擦れる音。
小さく呻く声と電撃が聞こえたと思えば、片割れの白色は見当たらなくて。
足元を見れば、そこに。

「キミだ」

身構える。
片手にスタンガンらしきものを持った彼は、相変わらず笑みを、
違う!
張り付いた様な笑み!
その笑みは、まさに人形そのものの、作られてそのままの胡散臭い笑み!

「キミに用がある」
「ふざけるな」
「俺が要求する事さえしてくれれば危害は加えない、キミにも弟さんにもな」

手荒な真似はしたくないんだ、たった一つで構わない、と口々に信じられない言葉が飛び出してくる。
先制攻撃は、危害と言うんじゃないだろうか?
ポケットに手を突っ込む。ああ、俺だって黙っちゃいられない。可愛くて可愛い弟が目の前で突っ伏してるだなんて、
その相手が俺じゃないなんて、許せる訳が!
その冷たい刃を、手に取った。

振り下ろす。

押し倒す。

喉元に、突き付ける。

「500点満点なら499点やろう」
「殺す」
「そうか」

相も変わらずクソみたいな顔、腹が立つ!
その目玉目掛けて、俺はナイフを突き立てた。

「実はなあ」

ば ち ん 。

「慣れてるんだ、ごめんな」

背中から鈍く感じる電流と共に、俺の意識は遠のいた。

————————

俺は、アイツを視界に捉えたまま目を覚ました。

「おはようネロクン!ご機嫌斜めかな?それは結構」

"次からは靴も見ておく事をオススメするぞ!"
そう言って革靴のつま先から出ているスタンガンを見せびらかす。青いジャケットにブローチ。少し前までのラフな服装とは一転、フォーマルと言える服装だ。
今すぐにでも噛み付いてやりたかったが、両手両足を傷の付いた枷が塞いで動けなくしていた。

「白は」
「お姫様はベッドでグッスリだ!正直な所キミ以外に用はないからな」
「なんでだよ」

何もした覚えはない。恨み辛みがあるとするのなら、俺と白どちらにも言える筈だ。
なぜ、俺だけ?

「キミなあ」

がつん。
靴底と打ちっぱなしのコンクリートのぶつかる音。

そして。

「俺の弟にそっくりでなァ〜〜〜〜〜〜♡♡♡♡♡♡♡♡」

どうして?
どうしてこうなるんだ??????
俺は、緩み切った彼の表情筋に唖然とする他なかった。

「………………はい?」
「頼む!!!!ちょ〜〜〜〜〜ッッッとだけでいいから!!!ちょっと!!!!先っちょだけでいいから!!!!!」
「何が先っちょなんだよ!!!!?!?」
「慰めてくれ!!!!!!!!!!!!!!!!」
「何を!!!!!!!!!」

まさかコイツ、ガチのブラコン、いや近親相姦野郎!?俺もそうだと言ってしまえばおしまいだが、そこはそれとして。
処女だけは喪失したくない。男の矜恃にかけて、処女だけは!!

「俺に『お兄ちゃんがんばったね〜〜〜♡♡♡いい子だね〜〜〜〜よちよち〜〜〜♡♡♡♡♡明日からもお仕事がんばってねお兄ちゃん〜〜〜〜♡♡♡♡♡』って抱き締めて撫でて下さい!!!!!!!!!!!!!!!!」

完膚なきまでの土下座に、俺は溜飲がt単位のものを落とすが如く下がっていくのを感じ取れた。

「お兄ちゃんがんばりまちたね〜〜♡♡よちよち〜〜〜〜♡♡♡」
「お兄ちゃん!!!!!!!!!!がんばった!!!!!!!!!!!!」
「膝枕されながらデカい声で喋らないで下さいお兄ちゃん♡」

協力する旨を伝えたら、簡単に枷は外してくれた。
本当に危害を加える気は一切ないらしく、何を隠し持っているか分からない俺に全力で甘やかされている。今までの威厳も、不気味さも、何もなかった様に、全力で甘やかされている。

「おちごとがんばって偉いでちゅね〜〜〜♡♡♡えー、と……」
「シルヴィオだ……………………………………」
「シルヴィオお兄ちゃん♡♡」
「ワーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!おれめちゃくちゃがんばってるんだぞ!!!!!!!!」
「風圧が凄いので喋らないで下さいお兄ちゃん♡」

話を聞くに、彼、もといシルヴィオは弟にめちゃくちゃ嫌われているらしい。
丁度街中で見かけた俺と弟の姿を重ね合わせて、金でもなんでも積んでやるから何とかして慰めてもらおうと思ったとか。手荒な真似は反省している、と告げる彼は、今もまさに俺の腰を抱き締めて離さない。離して欲しい。

「あ゛〜〜〜〜…………………かわいい………かわいいなあ…………ほんと……………」
「中身違うのだけはちゃんとして欲しいんですけど」
「わかってる……………………………」

ふと、あたまに疑問が過ぎる。

「………鬱陶しいから、嫌われてるんですか?」

不意に、彼の動きが止まった。
まるで凍りついた様に、射抜かれた様に、止まった。

「…………聞きたいなら、聞かせてあげようか」

そう言って、こちらを見る彼の眼は、あまりにも、寂しくて。

「俺はなあ」

まるでなんでもない話をするが如く、一つ目の言葉が結ばれる。俺はその諦観する様な遠い眼差しから、目を離せずにいた。

「弟と、20年は会っていなかった」

それがどれほど残酷な事であるかは考えたくもない。息を飲んで、その先に続く言葉をただ俺は待ち続ける。

「弟が俺を兄だと認識した時には、もう弟としてのアイツなんてどこにも生きていなかったんだ。
あるのは、ただ神妙なツラをして『神様』と呟く男だけだ」

キミの弟が奪ったロザリオさ、と俺に促す。あの祈り具はどうやら彼の弟のものらしい。長い長い年月を経て、弟は立派に不確定事象を信じる野郎になってしまったワケだ。

「……だから、こうやって神を信じない限り生きていけなくなった彼に『もっと早く迎えにきてくれたら』、って言われるのさ。
本当だよ、俺は兄にも友にもなれやしなかった」

自嘲の意味を含んで、渇いた笑いが響き渡った。

だから何、と俺は思った。
だから素直に、口に出してみただけの話だ。

豆鉄砲を喰らった鳩の顔が、こちらをまじまじと見つめてくる。

「兄にも弟にもなれなくたって、愛してる事に変わりはないでしょ」

俺だってアイツと似てる所なんてほとんどない。同じ腹から生まれたかさえ怪しいのだ。双子とか兄弟とか、正直信じろと言われてもちょっと厳しいかもしれない。
だけど、それが何?

「俺は白の事を、弟じゃなくたって、愛してるよ」

それだけの、単純な話。

ああ、その双眸を丸くして、2、3回瞬きをする彼の、なんと驚く表情だろうか。
そうして。

「………そうだな」

一つ。

「取引をしよう」

彼はこう言った。

「俺はキミに貸しができた。だからそれを返さなければならない」
「いつか返してもらいますよ」
「いいや?返せないかもしれないほど、ちょっと考えさせられた貸しだ」

へらへらと笑うツラは、外で彼と話をしていた時には感じられなかった眼光を湛えている。
正直、素性を知れば威厳もクソもなくなる。アレは世界に対する嫌悪の目で、弟の願いを叶えたいだけの切実な目だ。
俺も、大概そんな感じだから。

「キミの弟に蝿が飛んできたら撃ち落としてあげよう」
「その心は?」
「キミもそういう考えの人間だろ?」
「乗った」

そして、俺は一言付け足してやる。

「誰にも渡せないかわいいヤツだからな」
「同感だ」

ブラコンとか言わせとけ。
俺は愛すべき彼を愛してるだけだ。

————————

ドアが開く。

「やあ!王子様がお目覚めの様だぞプリンセス」
「俺女じゃないんだけど」
「ものの例えというヤツさ」

ニコニコと機嫌良さげに笑う彼の顔を見るとこっちまで気分が安らいでくる。
いいガス抜きができただろう。winwinの関係、というものだ。とても宜しい。

「………ところで」

徐に、口を開く。

「キミも大概、怖い忠犬だ」
「そうかもね」

手首にざっくりと切りつけられた痕をみて、青の瞳を瞬かせる。"そうかもねじゃなくて、そうだろう"なんて冗談めかす男の目は、一瞬たりともこちらから離れる事はない。

「次から黒に手ェ出したら、俺が許さないからね」
「肝に銘じておくよ」

双子と言っても、全部が似ているわけじゃあない。
俺は遊ぶのが大好きで、黒は寝るのが大好きで。黒の瞳はサファイアで、俺の瞳は夕焼けで。
顔もそこまで似ていない。髪の色が違うんだから、間違われることもほとんどない。
こんな感じで、否定なんていくらでもできるほど、俺と黒は似ていない。
じゃあ、逆に何が似ているか?
さて何の話だろ。似てようが似てまいが、黒は俺の兄に違いない。
素敵で優しい、大切な兄で。
ああ、それはそれは

「誰にも渡せない、かわいいヤツなんだから」

モノクロキョウダイシンドローム。

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9/23
白 黒

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「Mio fratello〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡」
「だァ〜〜〜〜〜〜うるせェ近寄ンな顔見せンな息すンな!!!!!!!!!!」

やはり俺の弟はかわいいのだ!!!!!!
一連の流れを経て、俺は考えを改める事にした。確かに弟は弟でないのかもしれない。ただ顔が同じなだけの、本当に全く違う別人なのかもしれない。
あの時話したおはようも。
あの時過ごしたおいしいも。
あの時言われたさよならも。
全部、俺が弟だと思っていた別の人間かもしれない。

「……なあ」
「ンだよ………………」

心底憎らしい、という顔で俺を見ているのが、なんだかとっても愛おしいのに、なんだかとっても寂しくて。
だから、そっと抱きしめて。

「俺はお前の事、愛しているからな」

俺は、兄弟なんて持った事がない。
でなくても、愛する人なんて持った事がない。
だから、本当は愛せてる自信なんて何一つないんだ。

だけど、絶対、愛してる。

「………なんかあったの」
「いいや?」
「絶対なんかあったろ、なんだァ?ま〜〜た昼ドラとか見て変な倫理観植え付けられてんのか?ガキかよ」
「そんな事一回もなかったと思うんだが…」

長い長い溜息が、響き渡る。

「オレはお前の事、これっぽっちも愛してないから」

まあ、そうだよな。
耳元に感じるその空気の震えは、事実と共に冷たい何かを俺の心臓に突き付けて。

だけど。

「兄貴は、うまくやってんじゃねーの」

心の底から、あったかい。

————————

END

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