--- Title: お題で綴る『物語』 Author: miorim Web: https://mimemo.io/m/ydN6wox1wrlp7qE --- 「夢っていってもねぇ…」 (卵サンドの最後の一切れを口に運びながら、冬の高い青空を見上げて呟く) 『まぁ、そう簡単に見つかるものじゃないよね』 (持参した手作り弁当の最後の卵焼きにぱくつき、表情を緩ませながらそう応える友人はしかし)「そっちは決まってるじゃん。シェフになるっていうさ」 (そう。明確に決まっている夢がある。流石にこの年になって『夢』を大きくテーマに掲げた進路指導の講義があったからと、それに影響され熱に浮かされたようにランチタイムを『夢トーク』に消費する生徒は少ない。ぱっと頭を切り替えて近年巷を騒がす大物芸人についてのニュースを始め様々な話題で盛り上がっている。3年生ならともかく2年生ならさもありなんといった風情である。しかしわたしは違っていた) 『私の場合、マンガとかドラマの影響を受けただけなんだからそう大したものでもないんだけどね。元々料理が好きだったし』 (確かに夢というのは内的宇宙から自然発生するものではなく、どちらかといえば外的要因に由来するものが多いと思う。といってわたしもこれまで色々な刺激を受けてきたのだが、これという確かな夢は持てていない。それでもわたしは『夢』に憧れを抱いている。それはわたしの一種の『ヒロイン願望』のようなもの…言い換えれば『特別な何かになりたい』という強い気持ちに起因しているのだった) (――午後の授業でも、掃除の時間になってもその〝ぐるぐる〟は続いた。中庭で竹箒を手に再びぼーっとする) 『どうした?変な顔して』 (ぽん、と肩を叩かれる感触に意識を現実に戻すとよく見知った顔。幼馴染の男の子だった) 「変な顔って…。別に、ちょっと考えこんでただけだよ」 (目を細めてじろりと彼のほうを見やる。彼は気にした風でもなく肩を竦めた) 『ふぅん』 (いつもならここでさらっと別れる。幼馴染といはいってもわたしと彼の関係はそんなふうにドライなものだった。が、彼はそれから十秒ほど何かを言いたげに視線をわたしと虚空に交互に移していた) 「何」 (短く問うわたしに彼は少し慌てた様子でポケットから折りたたまれた手紙を出し) 『いやその。これ…』 (と、言う割にはわたしに渡すでもなく手にとったままで) 「え。何、ラブレターとかじゃないよね?あはは、冗談きついから!」 (もじもじしている彼をからかうように言うと、彼は少しふくれっ面で) 『ち、違うって、俺じゃなくって…!』 (そうつっかえつつも手紙の差出人についてわたしに告げる。中身については触れないが、きっとそういう色を帯びたそれなのだろうことは想像がつく。初めて貰うことになるのだが、想像していたよりも色めきだつ感じはない。むしろ『今どき?めずらし!』という感覚のほうが強い。別に貰って嫌な相手ではないのだが、かといって別段興味関心のある相手というわけでもないからだ) 『どうする?』 (聞かれてわたしは考える。というよりまだ貰って中身を読んでいないのだが。と思いつつも、その問いかけの意味そのものは理解できる。作法は分からないが、流石に無視をするというのは無いだろう。生まれて初めて貰ったラブレターに対してそこまでお高くとまれるほどには図太くはない) 「そりゃ、会って話すしかないんじゃない?スルーするわけにもいかないでしょ」 (言って、わたしは彼にくるりと背を向けて竹箒を所定の位置に置くために歩き始めた。当然のようについてくる彼。そこは流石に長年の付き合いなのだ) 『別に…』 (やや煮えきらない口調の彼の言葉を背中で聞く。が) 『スルーしてもいいんじゃ?』 ――「は?」 (用具置き場の直前、聞き間違えたのだろうか、というほどのあり得ない言葉にわたしは反射的に振り返った) 「どしたの。らしくないこといって。友達の恋愛事なんてどーでもいい…ってコト?」 (若干鼻白んで問うわたしに対し、彼は何故かむっとした口調でかぶりを振る) 『そうじゃなくって!』 (何に対しての憤りなのかは分からないが、少し顔を赤くしてなおも続ける) 『大事な友達なんだし、良いやつだし、幸せになってほしいなと思うよ。でもさ―』 (――続く彼の言葉でわたしは気付かされた。ずっと、そうずっと。わたしが彼という『物語』の中で『ヒロイン』だったこと。わたしの願望はわたし自身が知らないうちにある意味叶っていたということに) 「そっか」 (わたしは小さく相槌を打ってから小さく息を吸って彼の想いにこう受け答えた) 「……気持ちは嬉しいけ」 (『けど』を言い終わらないうちに泣きそうになる彼が口をはさむ。そんなにだったかと今更ながらに驚くわたし) 『…俺じゃだめかな。何か気に入らないとこがあるなら言って欲しい』 (半分涙声で言う彼に対し、わたしははっきりと首を振った) 「勘違いすーんな。気持ちは嬉しいけど……こんなシチュエーションじゃやだ。もっとちゃんとしてほしい」 (そう。いくら『わたしたちらしい』としてもこんなところででなし崩し的に『ヒロイン』になるなんてごめんだ。どうせやるならちゃんとわたしの『ヒーロー』になってよね。涙目でもいいから、さ)