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ヨシュア・ヴァルトシュタイン

▼概要
 √グラウベディヤールと呼称される未知の√、ドイツ南方の森にある、「悪魔が棲む」と噂される朽ちた教会を根城とする存在。蝙蝠の翼、未熟な山羊の角、爬虫類めいた尾など、見目には自称と違わず悪魔のように見える。
 無表情でぶっきらぼう、喉の奥で押し潰した声で呟くように吐き捨てる皮肉屋――という表面的な印象に比べれば、驚くほど素直で人に懐く。
 
 性格は非常に穏和で温厚。他者に寄り添い悩みや懺悔を聞き遂げることを好む、悪魔の自称よりも聖職者という方が近しい性質。
 自らを不信心者と呼称するが、信仰心に篤い言動が目立つ。常にロザリオを持ち歩き、司祭めいた服を纏い、住まう教会の門戸は誰を相手にも誰何なく開く。
 自称である「教会育ち」に違わぬ、悪魔らしからぬ貞潔な倫理観と品行方正な道徳心を持つ。外見の年齢より大人びた価値観と理性に対し、根底にある情動は些か幼い。
 誰に対しても総じて穏やかな態度で接するものの、女性と子供には殊に甘く、年上と男性に対しては幾分遠慮ない。心身に不調を来した者には老若男女の別なく献身的に世話を焼こうとする。
 
 後付けの肉体で生きる精神体に近しい性質。体の内側に臓器らしいものは脳・心臓・肺の他に存在せず、食したものは「消えて」いる。皮膚の下には血液代わりのマグマめいた赤熱する魔力が流れているが、これは現世の物質に触れると同時に失活し黒く凝固する。
 実体の食事を必要としているわけではないものの味覚は存在し、特に紅茶に拘っている。普遍的なものから希少なものまで茶葉を買い集めて並べている棚は専門店のような様相である。甘いものも好きで、専らシュトレンを食べていることが多い。
 本来の糧は未練、罪悪感、後悔。苦痛や絶望の悲鳴は当人曰く「嗜好品みたいなもの」。
 自身の悪魔的な性を強く厭い、現在は街の教会で告解を行うことすら憚られるような罪を抱え、「悪魔に魂を売りに来た」人間の懺悔を聞き遂げることで存在を繋いでいる。一方でそれだけでは体の維持すら儘ならず常に飢餓状態にある。栄養失調に近しい成長不全を起こしており、積極的に糧を得ていればより強大で大人びた姿を持つはずが、未だ年齢相応の青年の姿のまま成長が停止している。
 
 見目にはほとんど人間と変わらないものの内部構造は特殊。特に五感や感知能力に大きな差がある。
 夜目が利く代わりに色覚が鈍く視力も弱い。代わりに聴覚に優れ可聴域が広い。反響定位により周辺五十メートルほどの構造物を色まで含め正確に見通し、振動に鋭敏な足裏で接敵を事前に察知する。現在は喉元に仕込んだ超音波発生装置を用いて疑似的に蝙蝠に似た形で夜間の活動を可能にしている。
 蝙蝠のような不規則で小回りの利く飛翔を行う。本気を出せば反響定位を利用して高速で飛び回ることも出来るが、集中力を要し非常に疲弊するため滅多なことでは行わない。
 未だ魂のみで現世に留まることが出来ず、エネルギーの枯渇もしくは死亡相当の意識消失で消滅する。後付けの肉体ゆえに魔力を用いた即時再生も可能だが、痛覚が消えないことやエネルギーの消費量が極めて重いことから、「そのまま死んで蘇生する」ことを選択することも少なくない。
 
 強い信仰を宿した陽の光に弱く、基本的には夜の方が調子が良い。充分な糧を得れば日中でも活動可能だが、昼にも十全に活動が出来るほどに充足した場合、夜には過剰な力が身に満ちることになる。
 
 
▼「経典の魔」
 正真正銘の堕落の悪魔。声と言葉に関する権能を有する。
 非常によく響く甘く低い穏やかな声で他者の心に囁き、本来その場で取るべきでない行動へ誘導する。「魔が差す」の「魔」そのもの。限定的だが現実干渉を行うことも可能。
 洗脳のような強制力のあるものではなく、篤い信仰や堅固な意志によっては容易に阻まれる。特に死をも克服しうるだけの執着先(Anker)を持つ√能力者に対しては効力が顕著に弱まることを自覚している。
 万人に囁きかけるために「古今東西全ての人間が作り出した言葉」を瞬時に理解し、相手の母語を的確に判断する能力が備わっている。また戒律や規律・法律といったルールの理解に優れ、経典が呑み込んだ神話伝承についても現代に残存しているのと同程度の情報を有している。
 また「どう命令すれば良いか」を本能的に熟知しており、初見の機械やプログラムを動かすことにも長ける。人間の作り出した言語を理解する能力と併せ応用することでハッキングおよびプログラミングも可能。
 眷属である下等生物に変化することも出来、索敵や潜入、情報奪取などに強い適性を示す。
 
 ――と、サポートや裏工作に万能であるものの、他方で直接戦闘能力は非常に貧弱。他者を手ずから殺傷することに強い忌避感を抱くほか、膂力面においても一般的な成人女性とさして変わらぬ程度。
 戦闘時には主として幻覚・幻聴を引き起こす影の腕や下等生物である眷属たちを使用するほか、「悪魔の火矢」を用いて疑心暗鬼に陥らせることで同士討ちを狙う。
 
 権能の使用時にはリボンを外す。目が赤くなり、瞳孔も爬虫類と山羊を組み合わせたような十字のものとなる。
 
 
▼過去
 現在住まうドイツ南方の修道院付き教会に赤子の頃に拾われ、老齢の司祭、シスター、同じく孤児として教会に引き取られた八人の兄弟姉妹と家族のように育った。
 十歳になるまでは将来を嘱望され愛された「天使のような」子供であったが、十歳の誕生日に悪魔としての権能が成熟、兄弟姉妹やシスターを惑わし教会を魔の領域へと塗り替えた。
 その際、司祭に「お前は悪魔だ」と糾弾されたことにより己の背に翼が生えたことを知覚。兄弟姉妹たちの援けで押し入った信徒たちから逃げ出すも、司祭を含め悪魔に加担したとみなされた教会の面々は銃殺もしくは火刑に処された。
 
 イタリア北部の森まで一人彷徨い、のちに友人となる成り損ないの竜の仔と、その親である緑竜に救われた。付近の廃教会に身を寄せて三年を過ごすも、竜の仔が人間に殺害されたことを契機に怒り狂った緑竜が人間と敵対・封印されたことにより行く当てを失う。
 以降は荒れ狂う緑竜によって焼き払われた街の近く、元いた教会へ戻り、兄弟姉妹の魂の入れ物であった眷属たちと死して尚傍にいるヴァルトシュラートと共に生活している。
 
 教会の面々が死亡する際の未練や罪悪感、緑竜に焼き払われる街に満ちていた絶望や痛苦の悲鳴と回生の祈りは、生きるうちで最も滑稽で面白い見世物だった――と感じている。
 一方で強い悲哀や罪悪感を同時に抱えている。自らの本性が最も「面白い」と感じる他者の苦しみを笑うことを律した末、ほとんど笑うことが出来なくなった。
 
 
▼正体
 √グラウベディヤールにおける地獄の王、"諸悪の根源"と、人類の母になり得た夜魔の血脈を継ぐ悪魔――経典の魔「リリン」の末子。
 夢魔の原型であり新生児を襲うもの。人間に極めて近い美しい肉体の中にある剥き出しの魂は、正気を削るような醜い怪物である。
 有象無象の兄弟姉妹のうちで最も父に似る高位の悪魔。誘惑と命令の権能に優れ、夢魔としての洗脳に近しい魅了の権能を宿す。
 魂と引き換えの契約であらゆる願いを叶えるもの。契約には非常に忠実に働き、一度締結されたものは決して覆さないものの、同じだけの忠義を契約者にも求める。また契約の際には一切の手段を選ばず、見えないインクや口八丁で巧妙に条件を隠すことも少なくない。
 一方で「問いに対して黙秘することが出来ない」「誤魔化すことは出来ても明確な嘘は吐けない」「一度結んだ契約を不履行とすることが出来ない」「自らの手で他者を殺傷することに強い忌避感を覚える」など、能力の万能性に対し極めて強い制約がかけられている。
 弱点は「信仰」と「堅固な意志」。ロザリオや銀の弾丸などの魔除けそのものには何らの忌避も示さず、堕落に対抗しうる信仰や誘惑を跳ね除ける意志なくして悪魔を祓うことは出来ない。
 性根はなべて悪辣。悪魔といわれて大抵の人間が想像するような、嗜虐的で酷薄な性質だが、それらは全て「人間の想像」によって与えられたもの。
 実態は「悪」を体現するシステムのような存在。天なる父の善性を証明し、信仰を試す機構の如く、与えられた役割に忠実。
 
 人の思う通りの悪魔らしい行動を取り、契約の対価に魂を集め、本能を満たすことに疑念も持たぬ気儘な怪物。いかに人らしい皮を被ったところで、経典の魔であるリリンに人間らしい情動は存在しないが――。
 
 
▼欠落
 真実の欠落は『片割れ』。
 本来一つの存在として発生するはずだったが、男女のリリンとして分かたれて生まれた。そのため悪魔としての本能が機能不全を起こしている。
 教会に拾われ、信仰と惜しみない愛に育まれた悪魔は、機能しない己の半分を「愛情」によって埋めた。
 本来リリンに存在しないはずの極めて人間的な情動と悪辣な本能が衝突し続け、自身の存在を強く嫌悪する理由となっている。いかに相手を大切に思い幸福を祈ろうと、好意的に接する相手の大切なものを踏みにじり、悪魔に騙されたと泣いて後悔する顔を見たいと思考することは止められない。
 一方で当人の自覚のないまま一部の本能を情動によって克服し、悪魔としてはおよそ有り得ない、人間らしい言動を取ることも多い。
 
 望む道を歩むために信仰は必要ない。限りなく強い無辺の愛情によってのみ、悪魔は自らの悪辣な本能を殺し、人に近付ける――その善悪さえ分からずとも。

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