0 バットエンド Redemption(償い)

路地を駆け抜ける。アリウスの道はもう忘れてしまったと思っていたが、私の身体はこの道を覚えていた。執行官としての役割を果たす為、本能的に叩き込まれた感覚が皮肉にも活躍しているのだ。
 陰鬱な廃墟の間から、陽光が見えた。あと少し……あと少しで私は帰れる。あの暖かな光の中に。あと少しで戻れる。あの北極星へ。
 帰れる――帰らねば。
 先を焦る私の足は――銃口を向けるアリウスの生徒たちの前に躍り出ていた。
「あぁ、成程……」
 やけに路地裏に警備員が多い訳がようやく分かった。キツネ狩りのメソッドだ。
 私が散々使って来た手の一つ。どうやらアリウスは私に慈悲を払うつもりはないようだ。
 生徒たちは無感情的に引き金を引いた。装填されているのは噂で聞いた【ヘイローを壊す銃弾】なのだろう。
 あぁ、死ぬのだ。私はアリウスに生まれ、アリウスに殺されて死ぬ。
 でも、死ぬ事に恐怖は無かった。今、私が怖いのは。
「……レイサさん」
 あの北極星を、導きの星を守れなくなる事だけ。きっと心配させてしまう。悲しませてしまう。
 結局のところ、私は最後まで彼女の事が好きらしい。
 銃弾が私を貫いてもなお、私は彼女の笑顔を思い浮かべていた。

「……死んだのか?」
 アリウス生徒はガスマスクでくぐもった声を震わせていた。彼女らは銃口から出ている硝煙に現実味を抱けずにいる。
 アリウスの生徒たちは体の震えを抑えながら、守月スズミを見下ろす。
 ルビーの様な綺麗な赤の、しかし無機質な冷たい瞳が生徒たちの目と合った。
「おぇ……!」
 生徒の一人は死んだ目を直視した途端、思わずマスクを外して吐き出した。酷く荒れ果てた大通りに胃酸のツンとした匂いが立ち込める。
「殺したんだ。あぁ、殺したんだった……」
 一人は呆然と呟いている。少女たちは、殺人の感触を受け止めれずにいる。
「……あぁ、なんという空しさ。すべては空しい」
 ――実弾に過ぎない。銃弾は罪悪感を持ち合わせない。
 彼女たちは必死に頭で考えていた。いたが……スズミの目と合ってしまった途端、彼女らの言い訳は霧散してしまった。
 一部隊の殺人者は呆然と立ち尽くす。誰一人も転がる死体から目を背けれずにいた。

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