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4.5.悪魔と神父
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"餌"を食わせに放った使い魔ーー影魔の生体反応が消えた。 黒コートの男がそれを察知し、自らが行動を起こしたのは、花森健人が今一度彼らの襲撃を受けた日から数えて3日前のことだった。 「とんだイレギュラーだな」 黒コートに声をかける人影。町外れの廃墟ビルの一室で対する両者の目は、互いを認めることはない。 「早速嗅ぎ付けたか」 「孤高を気取る貴殿と私とでは違うよ。"悪魔"殿」 「…なら情けでもくれるか?クソ"神父"」 黒コートはその精悍な顔を、あくまで虚空に向けつつ、現れた壮年の神父の尊大さを皮肉った。だが神父は構わず言葉を続ける。 「思考まで弛んだと見える。兵が死ぬわけだ」 「御託はいい、要件を言え」 「貴殿、当てはあるのか?」 解答の判りきった問いだ。黒コートは窓際から鼻を鳴らす。対して神父は部屋中央のソファに音を立てて座った。袖から一枚の羊皮紙を取り出すと、デスクの埃の上に置く。 「たれ込みだ。"閣下様"の差し金だよ」 「回りくどい真似を」 「全くだ。だが"これ"は無視できん」 瞬間、黒コートは僅かながら羊皮紙に意識を向けた。神父は目の端でその仕草を捉えつつソファから立ち上がる。 「そして事は貴殿の管轄で起きた。ならばエヴルアーー」 「俺の領分だ。管轄だ咎だ、ハナから知ったことか」 交錯する視線と沈黙。神父に向き直ったエヴルアの黒コートがたなびいた。互いに憮然ながら、その目は相手を射殺さんとしている。 「厚顔無恥とは良く言ったものよ」 捨て台詞にそう告げて、神父は姿を消した。 部屋にはエヴルアと、デスクの上にある羊皮紙だけが残った。 その折り目を解き、"差し金"の内容を改めると、エヴルアはその目を見開いた。 "此度の影魔殺しは、彼の秘宝携えし者による" "早急に確保されたし、秘宝の破壊は禁ず。猶予はない" 確かにこれは無視しようがない。廃すべき障害。どういう星の巡りか、知ったことではないが、野放しなのは気に入らない。 羊皮紙に結び付いた"対象"の絶望を、エヴルアは確かに記憶する。 羊皮紙に触れた右手から香る無力と絶望、そして諦観。どこにでもある話。どこにでもいる人間のそれ。それらを冷ややかな面持ちで嗅がせながら、彼は思案した。 踊らされている。神父らに事を周知させ、かつこちらの対処を急かしておきながら、"破壊ではなく、確保"。エヴルアは不遜に眉根を寄せ、静かに独り言ちる。 「踊りはしよう。だが好きに踊らせてもらう」 そして彼は、そのまま廃墟ビルを後にした。
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