むをあるく version 1

2024/06/17 21:44 by 69969669
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むをあるく
人魚になって空を泳いだ
俺が泳いだんだ
釣り針が落ちてきた
俺のこと殺すんだって思ったら回ったときのひれがひっかかった
陸にあげられた
人魚は陸でも呼吸できるのか…驚いたな
釣り糸の先になにもいなかった
どうやらごみが流れてきただけらしい
からかわれた気分になった
なんだか恥ずかしくなって今すぐどっか行こうと足の針を
ん? 俺は今足って言ったか?
足だった ひれはなかった
5本指が水にふやけているだけだった
夢でも見たのか
夢に騙された
さらに恥ずかしくなって、針も刺さってないことだしとっととどっか行っちまおうと立ち上がった
どんだけ水に浸かってたのかは知らんが、服は重たいしふらついた
歩くのは、久しぶりだなぁ
砂浜を歩いている最中貝の破片や漂流物が足に刺さって血が出ないか心配だった怖かった
おばあちゃんが待ってるコテージについたからホースで足を洗ってから扉を開けた
おばあちゃんがお茶を淹れたんだ
ルイボスティーの匂いがした
よくわかるんだ
俺はいつからかルイボスティーを飲むと舌がしびれるようになった
大好きだったからもう飲めないのかと思った
コップに注いで氷を入れた
俺はなんで海にいるのか
俺のばあちゃんは海にでっかいコテージなんか持ってない
おばあちゃんはいない
そんな呼び方したことない、おばあちゃまとばあばだから
ルイボスティーを飲んだ
喉と舌が焼けた
当たり前だ
がぁ〜って声が出た
コップを思わず手放したら床に転がった
お茶がこぼれた
げえ〜っ
落ちた氷が足にあたってひんやりした
この痛みはびりびりというのだ
地味な攻撃に負けて屈み込んだ
う〜…う…ぐっ
こぼしたお茶が世界地図みたいだった
俺は世界地図を覚えてないけれどなにかの大陸のようだった
木の床にお茶が染みていった
細い隙間を通ってすごく大きくなった
ナスカの地上絵だ!
木と木の隙間をなぞると爪にお茶が入った
ルイボスティーの香りだ
あみだくじのようだ
なにも決めていないあみだくじで俺は遊んでいるのだ
おばあちゃんは、このコテージの持ち主であるあのばあさんは、一体どこでなにをしているのだろうか
こぼしたままでは誰しも怒る
ジャージを脱いで床をこすった
元々深い緑色のジャージがどんどん深い色になっていった
ばあさんが見たら驚いてしまうと思いコテージの中を駆け回って上着を探した
間取りを知らないから隅から隅まで見た
2階の窓に人影が見えた
おばあさんかな?と思ったらやっぱりそうだった
後ろ姿だけどわかった 初めて見たのに
彼女が体の向きを変えてこっちがわを向いた
顔は扉を開ける手元を見ているらしくて目は合わなかった
優しい顔立ちをしてるな
まずいと思い下の階に走った
濡れたジャージを構わず着て床に座り足の裏を見た
なんとなく見た
しわはどんどんなくなっていていつもの足だった
違うのはごみがちょっとだけついてるくらい
ばあさんが降りてきた
なにも言わずに一瞬見ただけだから俺の存在が見えてないのか心配で
あのう…どこ、いたんですか?あまりにも静かなもんで…心配しましたよ
と言った
ああ、その、ベランダにおりましたの
と彼女が素敵な口調でゆっくり答えた
あ、あの、お茶勝手にいただいちゃいました…
あと少し会話を続けなければならない気がした
美味しかったです
あら…ルイボスティーは苦手ではありませんでした?
このばあさんそんなこと知ってるのか
ええでも喉が乾いたときはなんでもいいのでございましてね
なんとなく後ろめたい気持ちになって変な喋り方になった
ふふっと笑った
そうでしたの…それならよかったんですけれどね
彼女が降り途中の階段を全て降りて奥の部屋に行く
さっき見た部屋だ
寝室
俺は彼女と俺の関係を知らないけれど、仲がいいのだろうか
俺のことを知っているのだからそうなのかもしれない
ふと、一瞬だけ俺を見たあの表情を思い出す
あ、帰ってたのねという顔 なのだろうか
そう思うことにした
ジャージは背中だけ濡れていて着心地が悪かった
彼女に濡れている部分を見られていなかっただけ良かった
あのおばあさんはきっとどうして濡れているのか風邪をひくから着替えた方がいい着替えを持ってくる体を温めたほうがいい、とうるさいのだろうから
それは優しさなのだ
優しいばあさんと綺麗な海とコテージ
ここはどこなのだろうか
知らないコテージだ
知らないばあさんだ
知らない海だ
俺は…
そういえば服装は俺のものだけど顔を見ていない
顔を触る
なんとなく自分のパーツだなって感じがした
よく考えたくなくてすぐに手を離した
髪も、これだけ重いのだ いつもと変わっていないのだろう
立ち上がってもう1度海を見ようと思う
ひどい立ち眩みがした
自分の体だ
いつもなら壁にもたれてため息をつくほどの現象が今は俺を安心させてくれた
おばけが怖いときに怖い母親が守ってくれるのと同じだ
少し歩いたら落ち着いた
これもいつも通りだ
先ほど通った扉を開けると変わらず大きな海が見えた
大きな海という表し方は間違いなのだろうか
広い海、広大な海
広いというのが一般的なのだろうか
大海
聞いたことあるな
馬鹿馬鹿しくなってきた
裸足ではまた怪我の心配をしてしまうと思い玄関にあったクロックスに足を潜らせた
サイズはぴったりだった
よく見たら俺が持っていたピンクのやつだった
これも俺のものなのだろうか
水を覗き込むと青だけがみえた
不思議なことに生物がいるように見えないのだ
指で触れてみた
海にはあまり行ったことがないから変なのかわからなかった
よく見たら海藻も貝もなにもなかった
小さなかにでさえ砂浜を歩いていなかった
なにもないのだ
コテージの側まで戻ってみた
小さな島だと気づいた
小さい、というのは日本や東京に比べての話だ
驚くほど小さくてコテージを囲うように砂があるだけ それだけなのだ
帰れるのか不安になってきた
どこに帰るのか
ここの近くに図書館はないだろうしインターネットもなさそうだから俺は退屈で死んでしまうと思う
いや、他の島と離れすぎてて連絡でもとらなければ死んでしまいそうな島だ
もしかしたらあるかもしれない
おばあさんに聞いてみようと再びコテージの中に入っていった
………………失礼……します…
寝室の扉は半開きだった
片手をかけて力を入れると椅子に座って新聞を読んでいるばあさんがいた
縁の色はわからないがビーズのチェーンをつけたフレームの細いめがねはばあばを思い出させた
あら
と彼女が言った
それは返事なのだ
それだけなのに彼女がどうかした?とも言った気がした
ええと、ここにインターネットはあるかなと思いまして
ありますよ?
まるで俺が変なこと言ったみたいだった
はぁ…すいません…失礼しました…
会釈をして扉を閉める
彼女が微笑んで小さく会釈するのが見えた
それにしてもなんだか気分がわるい
荷物があるのかわからない
その荷物にスマホがあるかわからない
インターネットがあふときいてどうする?
なかったらやることないじゃないかあ
パソコンとかも、あるのかやおれは普段から本は元歩いているはぶだけど
濡れたジャージにはまだなれていかい
おれはもうだめだ
床に寝転んだ
ひんやりてさオレの心はすこし落ち着いた
きぶんがわるおのななくおれはねむいのだ
目が覚めると汗だくだった
Tシャツの色が少し変わっていた
とんでもなく辛い
起き上がろうと力を入れると鼻の辺りが冷たくなってきて起きてはならない気がした
代わりに床は俺の熱でじとじとしてきた
汗が目に入った
ふ〜と大きな息を吐き出す
そしてそれよりたくさんの息を吸い込む
さらにたくさんの息を吐き出す
それを繰り返した
全然良くならなくて頭が回り続けるだけだった
視界も回ってきた
メリーゴーランドやコーヒーカップに乗っている気分で俺からしたらそれは悪いことだった
照明が回って星空になる
オレンジ色の光は強くても弱くても苦手なんだ
涙が出ているのか腹に小刻みに力が入った
涙と汗が混ざっている感覚がした
まつげが濡れている
頬を伝って耳に入った
なにもかもが気持ち悪くてここで死ぬ気がしてきた
命日だから苦しいのだ
影が来た
俺を殺す気なんだって怖くてさらに涙が出てきた
寝転がっているから眼球を液体が覆ってなにかよく見えなかった
白い布を掛けられた
怖い
白くて薄い布越しに影がいるから
まじで死ぬんだと思ってたら布を外された
婆さんがいた
コップが
彼女がハンカチをたたみながら首を少し傾けた
落ちたままでしたよ
彼女が微笑んだ
ああ…
優しい世界に戻されて判断が遅れた
すいません…
気持ち悪い笑みを浮かべてしまった気がした
いいのよ
彼女は微笑み直すと立ち上がって寝室に向かった
夜になっていた
だから証明がついていて、オレンジなのだ
この場所は
思わず声に出てしまい、自分で驚いた
彼女は寝室にいるから聞かれて変な目で見られる心配はないけれど自分の声が急にしたので、驚いたのだ
このコテージは少し知っている
間取りを知らないはずがなんだか知っている気がする
木造なのも知っている
くっついてるサウナが物置になっているのも知っている
玄関にゴルフ関連のものがたくさん飾られているのも知ってる
すごく大きな声で鳴く鳩時計がどうしても届かないだろう位置にあるのも知ってる
お風呂の電気のカバーを外すとなめくじがいるのも知っている
ベッドから俺は何回も落ちた
IHに手を置いて火傷した
木目が怖くて
階段の隙間が怖くて
…
ここはばあばとじいじの田舎の家だ
少し似ている
鳩時計はないしゴルフの飾りもないしまわりは砂と海だけれど
他にも探せば違うところはあるのだろうけど
似ている
それだけ
だからどうということはない
俺の嫌いな木目も目を隠してただの筋になっている
ここはなんなのか
世界について考えるのは嫌いだ
自分の見ているものがわからなくなるから
わからなくなるとそれがいつしかこうしたらどうなるのかに変わる
大きな声を突然だしたり側にいる人間を叩いたり
その内死んでしまうのではないかと考え…
ここは悪いところではない
それがわかることに感謝して考えるのをやめることにした
なにか
他のことを考えなければ
ここまで嫌になってしまう前になにか探そうと思った
2階にあがってみると本棚があった
が
残念なことに求めている本はなさそうだった
知らない難しそうな本ばかりだ
あのばあさんの趣味なのだろうか
彼女が椅子に腰掛けてあの新聞を読むときと同じめがねをつけて本を読んでいる姿は安易に想像できる
きっと彼女はランプの明かりなのだ
手元の小さな灯りで文字を読むのだ 孫がいるならば布団で顔を覗かせたそれに向かってわかりやすい言葉に置き換えて読んでやるのだ
窓から外を見るとやはりそこには砂と海があった
鍵を開けて手をかける
窓を開けるなんて簡単な動作なのにわけのわからない感覚になる
軽い力で窓は簡単に開いた
…静かだ
こんなに海が近いのに波の音が少しもしないのだ
不気味と思うが同時に神秘的、幻想的、などといった単語も浮かんできた
俺は今日の記憶しかないけれど
今日というかわからないけれど
俺はルイボスティーを飲んだときと汗だくで目覚めた今しか知らない
俺は前からここにいたのだろうか
彼女はどうなのだろうか
もし、彼女に1人きりの時間があったら…
彼女は自室で新聞を読むくらいだから1人でいることには慣れているのかもしれないけれど
なんだか側にいてあげたくなった
…うん 恥ずかしくて、怖いから、やめよう
彼女を不快な気持ちにさせてしまったら嫌だし
やめて、おこう
せっかくこんな素敵なところにいるのだからスマホを使用するのはやめておいた
あるかわからないし
床に座り込んでスマホについて考える
文明の機器は素晴らしいと思う
本も読めて人間と話せて絵が描けて音楽も聴けて…
昔はデジタルは馬鹿になるなんて言われてたな
今じゃ学校の授業でもタブレットを使うぐらい日常に入ってきている
ロボットが料理を運んできてくれたりする
かわいいものだ
ありがとうございますかわいいですねと言っても奴らはなにも言わずコマンド通りに厨房に戻るだけなのだが
どうせいるなら会話をしてほしいと思う
無機物がこちらを見つめているだけが気持ち悪いのだ
まぁ、人間に対してありがとうございますかわいいですねなんて言わないけれど
だんだん姿勢が悪くなっていたらしく気づけば俺は床を見つめていた
目がない床
もう俺のことを睨まないのだ
じいじたちのとこは周りには静かだけれど住宅街のような場所で人は少ないし自然もあるからよく散歩していたな
そう思うと何回も見たあの海がとてもしょうもないものに感じてしまった
これは悪いことだ
でも生物がいないのはつまらないと思う
さめに食われたりやどかりに噛まれるのは嫌だが小さな魚だけでも泳いでればいいのにと思う
熱帯魚とか
小さい頃熱帯魚を飼ったことがあるなぁ
初めての生き物はベタだった
ちゃんとした初めての生き物は
ザワークラウトの空き瓶に水とカルキ抜きを入れただけの簡単な水槽だった
女の子だった
ひれが短くてかわいくて多く餌をあげすぎて怒られたりした
ベタはたくさん飼った
魚をたくさん飼った
金魚すくいのでめきんとかめだかとか
ちゃんとみんな埋めたと思う
ちょっと遠い公園の桜の樹の下に埋めた
俺はそいつらのことを考えると泣きそうになる
名前は正直覚えていない奴もいる
けど覚えてる奴もいる
こんな家じゃちゃんと育てられないとわかったから生き物を買うのはやめた
時々死にかけの虫をケースに入れて眺めるくらいだった
虫は嫌いだけどひっくり返って静かに動くコガネムシを見ると助けたくなってしまうのだ
昆虫ゼリーの匂いも嫌いだけどそれがなければ死んでしまうのであげた
かわいい!と思う瞬間と気持ち悪いと思う瞬間があった
生き物は素敵だなと思う
考えたいときに考えたいことがなくなるのはよくあることだ
立ち上がって階段を飛ばしながら降りてキッチンに向かう
なんとなく水を飲もうと思った
窓を見ると外は明るくなっている
波の音は聞こえないが問題なく波打っているようだ
無限に続く海は怖いな
普通、海を覗くと底に石があったり海藻が生えていたりするのだがこの海にはそれがなかった
沈んだらどうなるのだろうか
俺はきっとこれから先も怖いもの見たさで海を覗くと思う
いつ俺が間違えるかわからない
落ちてしまうかもしれない
底がなければ通り抜けるのだろうか
海は嫌いだ
怖くなってしまう
海のないいつもの都会に帰りたいなぁ
そう思いながらコップを掴むと
コップが溶けて床にはねてしまった
…は?
足元がぐにゃりと歪む
俺の足は木の板を通り抜けた
なんで…!
ああ
全てが歪み始めてしまった
この世界が終わってしまうのか
そう思うと鼻を縛られた感覚になった
全てが崩壊していく
彼女の優しい笑顔を最後見たかった
彼女の本が宙に舞う
結局俺は彼女の好みを目に入れなかった
なんだか自分の知らないものを好きな彼女が好きになってしまったから
ページが溶けてしまう
体を動かすと無重力のようで気持ち悪かった
それよりも彼女の好きなものが消えてしまうのが嫌で
彼女の好きなものが消えてしまうと彼女自身が消えてしまう気がして手を伸ばした
無を歩きまだ形を保っているページを掴むと
まるで水に混ぜられた油のようにそれはばらばらに溶けてしまった
掴んだ感覚はしなかった
彼女に座っていた椅子も
新聞も
ベッドも
ばらばらの木材に変わり果てたり文字が浮いてしまったり布を破いて羽が飛び出てしまった
掴もうとするとさらにそれらは細かくなってしまう
きっと
彼女も消えてしまうのだ
なんならもういないかもしれない
周りは崩壊するものに溢れて俺は彼女を探し出せない気がした
無を歩く
なにもないを踏みしめて彼女を探す
名前も知らない
ばあさん!
そうとしか呼べない
この世界がこんなことになってしまうって知っていたら恥ずかしがらずに怖がらずに嫌がらずに名前を聞いておけばよかった
会話が足りなかったのだ
自分を恨んだ
くそ!
右の頬をつねる
最悪の癖だ
彼女に会いたい
無を歩く
俺はコンロを踏みつけた
瞬間にそれは溶けてしまう
破片が破片にぶつかりさらに細かくなる
破片に囲まれてどんどん視界は悪くなる
どのように動いてもどこかしらものに当たってしまう
思ったよりこの世界には物で溢れていたのだな
涙があふれる
涙は破片と一緒に宙を舞い、お互いをすり潰し合う
ああ、俺ですらこの世界を破壊するのだな
右頬を強くつねる
俺なんか!
叫ぶ
彼女のほうが!
よっぽど素敵なのに!!!
痛みすら感じない
これは
嫌だ認めたくない
粒子をかき分ける
泣いている暇などない
彼女に会いたいのだ
むを歩く
きっと彼女はまだいる
彼女に会いたい
最後にもう1度だけ、なにも言わなくていいから微笑んでほしいのだ
優しい彼女の笑顔が大好きなのだ
ばあさん!
思い出したかのように叫ぶ
声の力でものが溶けようとも叫ぶ
ばあさん!
彼女の名を知らないのだ
どこにいるんですか!
届いてほしい
彼女はまだいる
だって彼女がいないこの世界に俺は用はないのだからそれならば俺はもうもうここにいないはずだ
ばあさん…!
また涙が溢れてしまう
彼女に見られたら俺は恥ずかしくなってしまうだろうなぁ
もう1度あのレースのハンカチで目元を拭ってくれますか
ばあ、さん…!
まだ形を保っているものはたくさんある
きっと彼女もそのはず
そう信じて
歩き続ける
泳いでいるみたいだ
月はこんな感じなのだろうか
月に行くのは誰しも夢を見ていることだ
…
叫び始める
ばあさん!
どこに!
いるんですか…!
俺です!
彼女の耳が溶けていたらどうしよう
歩くのだ
俺はただひたすら むを歩く
むを歩く
むを歩く
むを歩く
夢を、歩く
嫌だ
認めたくない
こんなに素敵なものが夢だなんて
いつだって望むものは全て夢
俺だけじゃない
全ての生物が無機物すらもそうなのだ
夢が覚めてしまうと全てを忘れる
良いことも悪いことも忘れるのだ
でも俺はまだ覚えている
ここはまだ夢
夢を歩く
初めの釣り針なんてどうでもいいのだ
彼女のことを覚えていたい
優しい笑顔
そして
釣り糸の
その先に      

人魚になって空を泳いだ
俺が泳いだんだ
釣り針が落ちてきた
俺のこと殺すんだって思ったら回ったときのひれがひっかかった
陸にあげられた
人魚は陸でも呼吸できるのか…驚いたな
釣り糸の先になにもいなかった
どうやらごみが流れてきただけらしい
からかわれた気分になった
なんだか恥ずかしくなって今すぐどっか行こうと足の針を
ん? 俺は今足って言ったか?
足だった ひれはなかった
5本指が水にふやけているだけだった
夢でも見たのか
夢に騙された
さらに恥ずかしくなって、針も刺さってないことだしとっととどっか行っちまおうと立ち上がった
どんだけ水に浸かってたのかは知らんが、服は重たいしふらついた
歩くのは、久しぶりだなぁ
砂浜を歩いている最中貝の破片や漂流物が足に刺さって血が出ないか心配だった怖かった
おばあちゃんが待ってるコテージについたからホースで足を洗ってから扉を開けた
おばあちゃんがお茶を淹れたんだ
ルイボスティーの匂いがした
よくわかるんだ
俺はいつからかルイボスティーを飲むと舌がしびれるようになった
大好きだったからもう飲めないのかと思った
コップに注いで氷を入れた
俺はなんで海にいるのか
俺のばあちゃんは海にでっかいコテージなんか持ってない
おばあちゃんはいない
そんな呼び方したことない、おばあちゃまとばあばだから
ルイボスティーを飲んだ
喉と舌が焼けた
当たり前だ
がぁ〜って声が出た
コップを思わず手放したら床に転がった
お茶がこぼれた
げえ〜っ
落ちた氷が足にあたってひんやりした
この痛みはびりびりというのだ
地味な攻撃に負けて屈み込んだ
う〜…う…ぐっ
こぼしたお茶が世界地図みたいだった
俺は世界地図を覚えてないけれどなにかの大陸のようだった
木の床にお茶が染みていった
細い隙間を通ってすごく大きくなった
ナスカの地上絵だ!
木と木の隙間をなぞると爪にお茶が入った
ルイボスティーの香りだ
あみだくじのようだ
なにも決めていないあみだくじで俺は遊んでいるのだ
おばあちゃんは、このコテージの持ち主であるあのばあさんは、一体どこでなにをしているのだろうか
こぼしたままでは誰しも怒る
ジャージを脱いで床をこすった
元々深い緑色のジャージがどんどん深い色になっていった
ばあさんが見たら驚いてしまうと思いコテージの中を駆け回って上着を探した
間取りを知らないから隅から隅まで見た
2階の窓に人影が見えた
おばあさんかな?と思ったらやっぱりそうだった
後ろ姿だけどわかった 初めて見たのに
彼女が体の向きを変えてこっちがわを向いた
顔は扉を開ける手元を見ているらしくて目は合わなかった
優しい顔立ちをしてるな
まずいと思い下の階に走った
濡れたジャージを構わず着て床に座り足の裏を見た
なんとなく見た
しわはどんどんなくなっていていつもの足だった
違うのはごみがちょっとだけついてるくらい
ばあさんが降りてきた
なにも言わずに一瞬見ただけだから俺の存在が見えてないのか心配で
あのう…どこ、いたんですか?あまりにも静かなもんで…心配しましたよ
と言った
ああ、その、ベランダにおりましたの
と彼女が素敵な口調でゆっくり答えた
あ、あの、お茶勝手にいただいちゃいました…
あと少し会話を続けなければならない気がした
美味しかったです
あら…ルイボスティーは苦手ではありませんでした?
このばあさんそんなこと知ってるのか
ええでも喉が乾いたときはなんでもいいのでございましてね
なんとなく後ろめたい気持ちになって変な喋り方になった
ふふっと笑った
そうでしたの…それならよかったんですけれどね
彼女が降り途中の階段を全て降りて奥の部屋に行く
さっき見た部屋だ
寝室
俺は彼女と俺の関係を知らないけれど、仲がいいのだろうか
俺のことを知っているのだからそうなのかもしれない
ふと、一瞬だけ俺を見たあの表情を思い出す
あ、帰ってたのねという顔 なのだろうか
そう思うことにした
ジャージは背中だけ濡れていて着心地が悪かった
彼女に濡れている部分を見られていなかっただけ良かった
あのおばあさんはきっとどうして濡れているのか風邪をひくから着替えた方がいい着替えを持ってくる体を温めたほうがいい、とうるさいのだろうから
それは優しさなのだ
優しいばあさんと綺麗な海とコテージ
ここはどこなのだろうか
知らないコテージだ
知らないばあさんだ
知らない海だ
俺は…
そういえば服装は俺のものだけど顔を見ていない
顔を触る
なんとなく自分のパーツだなって感じがした
よく考えたくなくてすぐに手を離した
髪も、これだけ重いのだ いつもと変わっていないのだろう
立ち上がってもう1度海を見ようと思う
ひどい立ち眩みがした
自分の体だ
いつもなら壁にもたれてため息をつくほどの現象が今は俺を安心させてくれた
おばけが怖いときに怖い母親が守ってくれるのと同じだ
少し歩いたら落ち着いた
これもいつも通りだ
先ほど通った扉を開けると変わらず大きな海が見えた
大きな海という表し方は間違いなのだろうか
広い海、広大な海
広いというのが一般的なのだろうか
大海
聞いたことあるな
馬鹿馬鹿しくなってきた
裸足ではまた怪我の心配をしてしまうと思い玄関にあったクロックスに足を潜らせた
サイズはぴったりだった
よく見たら俺が持っていたピンクのやつだった
これも俺のものなのだろうか
水を覗き込むと青だけがみえた
不思議なことに生物がいるように見えないのだ
指で触れてみた
海にはあまり行ったことがないから変なのかわからなかった
よく見たら海藻も貝もなにもなかった
小さなかにでさえ砂浜を歩いていなかった
なにもないのだ
コテージの側まで戻ってみた
小さな島だと気づいた
小さい、というのは日本や東京に比べての話だ
驚くほど小さくてコテージを囲うように砂があるだけ それだけなのだ
帰れるのか不安になってきた
どこに帰るのか
ここの近くに図書館はないだろうしインターネットもなさそうだから俺は退屈で死んでしまうと思う
いや、他の島と離れすぎてて連絡でもとらなければ死んでしまいそうな島だ
もしかしたらあるかもしれない
おばあさんに聞いてみようと再びコテージの中に入っていった
………………失礼……します…
寝室の扉は半開きだった
片手をかけて力を入れると椅子に座って新聞を読んでいるばあさんがいた
縁の色はわからないがビーズのチェーンをつけたフレームの細いめがねはばあばを思い出させた
あら
と彼女が言った
それは返事なのだ
それだけなのに彼女がどうかした?とも言った気がした
ええと、ここにインターネットはあるかなと思いまして
ありますよ?
まるで俺が変なこと言ったみたいだった
はぁ…すいません…失礼しました…
会釈をして扉を閉める
彼女が微笑んで小さく会釈するのが見えた
それにしてもなんだか気分がわるい
荷物があるのかわからない
その荷物にスマホがあるかわからない
インターネットがあふときいてどうする?
なかったらやることないじゃないかあ
パソコンとかも、あるのかやおれは普段から本は元歩いているはぶだけど
濡れたジャージにはまだなれていかい
おれはもうだめだ
床に寝転んだ
ひんやりてさオレの心はすこし落ち着いた
きぶんがわるおのななくおれはねむいのだ
目が覚めると汗だくだった
Tシャツの色が少し変わっていた
とんでもなく辛い
起き上がろうと力を入れると鼻の辺りが冷たくなってきて起きてはならない気がした
代わりに床は俺の熱でじとじとしてきた
汗が目に入った
ふ〜と大きな息を吐き出す
そしてそれよりたくさんの息を吸い込む
さらにたくさんの息を吐き出す
それを繰り返した
全然良くならなくて頭が回り続けるだけだった
視界も回ってきた
メリーゴーランドやコーヒーカップに乗っている気分で俺からしたらそれは悪いことだった
照明が回って星空になる
オレンジ色の光は強くても弱くても苦手なんだ
涙が出ているのか腹に小刻みに力が入った
涙と汗が混ざっている感覚がした
まつげが濡れている
頬を伝って耳に入った
なにもかもが気持ち悪くてここで死ぬ気がしてきた
命日だから苦しいのだ
影が来た
俺を殺す気なんだって怖くてさらに涙が出てきた
寝転がっているから眼球を液体が覆ってなにかよく見えなかった
白い布を掛けられた
怖い
白くて薄い布越しに影がいるから
まじで死ぬんだと思ってたら布を外された
婆さんがいた
コップが
彼女がハンカチをたたみながら首を少し傾けた
落ちたままでしたよ
彼女が微笑んだ
ああ…
優しい世界に戻されて判断が遅れた
すいません…
気持ち悪い笑みを浮かべてしまった気がした
いいのよ
彼女は微笑み直すと立ち上がって寝室に向かった
夜になっていた
だから証明がついていて、オレンジなのだ
この場所は
思わず声に出てしまい、自分で驚いた
彼女は寝室にいるから聞かれて変な目で見られる心配はないけれど自分の声が急にしたので、驚いたのだ
このコテージは少し知っている
間取りを知らないはずがなんだか知っている気がする
木造なのも知っている
くっついてるサウナが物置になっているのも知っている
玄関にゴルフ関連のものがたくさん飾られているのも知ってる
すごく大きな声で鳴く鳩時計がどうしても届かないだろう位置にあるのも知ってる
お風呂の電気のカバーを外すとなめくじがいるのも知っている
ベッドから俺は何回も落ちた
IHに手を置いて火傷した
木目が怖くて
階段の隙間が怖くて

ここはばあばとじいじの田舎の家だ
少し似ている
鳩時計はないしゴルフの飾りもないしまわりは砂と海だけれど
他にも探せば違うところはあるのだろうけど
似ている
それだけ
だからどうということはない
俺の嫌いな木目も目を隠してただの筋になっている
ここはなんなのか
世界について考えるのは嫌いだ
自分の見ているものがわからなくなるから
わからなくなるとそれがいつしかこうしたらどうなるのかに変わる
大きな声を突然だしたり側にいる人間を叩いたり
その内死んでしまうのではないかと考え…
ここは悪いところではない
それがわかることに感謝して考えるのをやめることにした
なにか
他のことを考えなければ
ここまで嫌になってしまう前になにか探そうと思った
2階にあがってみると本棚があった

残念なことに求めている本はなさそうだった
知らない難しそうな本ばかりだ
あのばあさんの趣味なのだろうか
彼女が椅子に腰掛けてあの新聞を読むときと同じめがねをつけて本を読んでいる姿は安易に想像できる
きっと彼女はランプの明かりなのだ
手元の小さな灯りで文字を読むのだ 孫がいるならば布団で顔を覗かせたそれに向かってわかりやすい言葉に置き換えて読んでやるのだ
窓から外を見るとやはりそこには砂と海があった
鍵を開けて手をかける
窓を開けるなんて簡単な動作なのにわけのわからない感覚になる
軽い力で窓は簡単に開いた
…静かだ
こんなに海が近いのに波の音が少しもしないのだ
不気味と思うが同時に神秘的、幻想的、などといった単語も浮かんできた
俺は今日の記憶しかないけれど
今日というかわからないけれど
俺はルイボスティーを飲んだときと汗だくで目覚めた今しか知らない
俺は前からここにいたのだろうか
彼女はどうなのだろうか
もし、彼女に1人きりの時間があったら…
彼女は自室で新聞を読むくらいだから1人でいることには慣れているのかもしれないけれど
なんだか側にいてあげたくなった
…うん 恥ずかしくて、怖いから、やめよう
彼女を不快な気持ちにさせてしまったら嫌だし
やめて、おこう
せっかくこんな素敵なところにいるのだからスマホを使用するのはやめておいた
あるかわからないし
床に座り込んでスマホについて考える
文明の機器は素晴らしいと思う
本も読めて人間と話せて絵が描けて音楽も聴けて…
昔はデジタルは馬鹿になるなんて言われてたな
今じゃ学校の授業でもタブレットを使うぐらい日常に入ってきている
ロボットが料理を運んできてくれたりする
かわいいものだ
ありがとうございますかわいいですねと言っても奴らはなにも言わずコマンド通りに厨房に戻るだけなのだが
どうせいるなら会話をしてほしいと思う
無機物がこちらを見つめているだけが気持ち悪いのだ
まぁ、人間に対してありがとうございますかわいいですねなんて言わないけれど
だんだん姿勢が悪くなっていたらしく気づけば俺は床を見つめていた
目がない床
もう俺のことを睨まないのだ
じいじたちのとこは周りには静かだけれど住宅街のような場所で人は少ないし自然もあるからよく散歩していたな
そう思うと何回も見たあの海がとてもしょうもないものに感じてしまった
これは悪いことだ
でも生物がいないのはつまらないと思う
さめに食われたりやどかりに噛まれるのは嫌だが小さな魚だけでも泳いでればいいのにと思う
熱帯魚とか
小さい頃熱帯魚を飼ったことがあるなぁ
初めての生き物はベタだった
ちゃんとした初めての生き物は
ザワークラウトの空き瓶に水とカルキ抜きを入れただけの簡単な水槽だった
女の子だった
ひれが短くてかわいくて多く餌をあげすぎて怒られたりした
ベタはたくさん飼った
魚をたくさん飼った
金魚すくいのでめきんとかめだかとか
ちゃんとみんな埋めたと思う
ちょっと遠い公園の桜の樹の下に埋めた
俺はそいつらのことを考えると泣きそうになる
名前は正直覚えていない奴もいる
けど覚えてる奴もいる
こんな家じゃちゃんと育てられないとわかったから生き物を買うのはやめた
時々死にかけの虫をケースに入れて眺めるくらいだった
虫は嫌いだけどひっくり返って静かに動くコガネムシを見ると助けたくなってしまうのだ
昆虫ゼリーの匂いも嫌いだけどそれがなければ死んでしまうのであげた
かわいい!と思う瞬間と気持ち悪いと思う瞬間があった
生き物は素敵だなと思う
考えたいときに考えたいことがなくなるのはよくあることだ
立ち上がって階段を飛ばしながら降りてキッチンに向かう
なんとなく水を飲もうと思った
窓を見ると外は明るくなっている
波の音は聞こえないが問題なく波打っているようだ
無限に続く海は怖いな
普通、海を覗くと底に石があったり海藻が生えていたりするのだがこの海にはそれがなかった
沈んだらどうなるのだろうか
俺はきっとこれから先も怖いもの見たさで海を覗くと思う
いつ俺が間違えるかわからない
落ちてしまうかもしれない
底がなければ通り抜けるのだろうか
海は嫌いだ
怖くなってしまう
海のないいつもの都会に帰りたいなぁ
そう思いながらコップを掴むと
コップが溶けて床にはねてしまった
…は?
足元がぐにゃりと歪む
俺の足は木の板を通り抜けた
なんで…!
ああ
全てが歪み始めてしまった
この世界が終わってしまうのか
そう思うと鼻を縛られた感覚になった
全てが崩壊していく
彼女の優しい笑顔を最後見たかった
彼女の本が宙に舞う
結局俺は彼女の好みを目に入れなかった
なんだか自分の知らないものを好きな彼女が好きになってしまったから
ページが溶けてしまう
体を動かすと無重力のようで気持ち悪かった
それよりも彼女の好きなものが消えてしまうのが嫌で
彼女の好きなものが消えてしまうと彼女自身が消えてしまう気がして手を伸ばした
無を歩きまだ形を保っているページを掴むと
まるで水に混ぜられた油のようにそれはばらばらに溶けてしまった
掴んだ感覚はしなかった
彼女に座っていた椅子も
新聞も
ベッドも
ばらばらの木材に変わり果てたり文字が浮いてしまったり布を破いて羽が飛び出てしまった
掴もうとするとさらにそれらは細かくなってしまう
きっと
彼女も消えてしまうのだ
なんならもういないかもしれない
周りは崩壊するものに溢れて俺は彼女を探し出せない気がした
無を歩く
なにもないを踏みしめて彼女を探す
名前も知らない
ばあさん!
そうとしか呼べない
この世界がこんなことになってしまうって知っていたら恥ずかしがらずに怖がらずに嫌がらずに名前を聞いておけばよかった
会話が足りなかったのだ
自分を恨んだ
くそ!
右の頬をつねる
最悪の癖だ
彼女に会いたい
無を歩く
俺はコンロを踏みつけた
瞬間にそれは溶けてしまう
破片が破片にぶつかりさらに細かくなる
破片に囲まれてどんどん視界は悪くなる
どのように動いてもどこかしらものに当たってしまう
思ったよりこの世界には物で溢れていたのだな
涙があふれる
涙は破片と一緒に宙を舞い、お互いをすり潰し合う
ああ、俺ですらこの世界を破壊するのだな
右頬を強くつねる
俺なんか!
叫ぶ
彼女のほうが!
よっぽど素敵なのに!!!
痛みすら感じない
これは
嫌だ認めたくない
粒子をかき分ける
泣いている暇などない
彼女に会いたいのだ
むを歩く
きっと彼女はまだいる
彼女に会いたい
最後にもう1度だけ、なにも言わなくていいから微笑んでほしいのだ
優しい彼女の笑顔が大好きなのだ
ばあさん!
思い出したかのように叫ぶ
声の力でものが溶けようとも叫ぶ
ばあさん!
彼女の名を知らないのだ
どこにいるんですか!
届いてほしい
彼女はまだいる
だって彼女がいないこの世界に俺は用はないのだからそれならば俺はもうもうここにいないはずだ
ばあさん…!
また涙が溢れてしまう
彼女に見られたら俺は恥ずかしくなってしまうだろうなぁ
もう1度あのレースのハンカチで目元を拭ってくれますか
ばあ、さん…!
まだ形を保っているものはたくさんある
きっと彼女もそのはず
そう信じて
歩き続ける
泳いでいるみたいだ
月はこんな感じなのだろうか
月に行くのは誰しも夢を見ていることだ

叫び始める
ばあさん!
どこに!
いるんですか…!
俺です!
彼女の耳が溶けていたらどうしよう
歩くのだ
俺はただひたすら むを歩く
むを歩く
むを歩く
むを歩く
夢を、歩く
嫌だ
認めたくない
こんなに素敵なものが夢だなんて
いつだって望むものは全て夢
俺だけじゃない
全ての生物が無機物すらもそうなのだ
夢が覚めてしまうと全てを忘れる
良いことも悪いことも忘れるのだ
でも俺はまだ覚えている
ここはまだ夢
夢を歩く
初めの釣り針なんてどうでもいいのだ
彼女のことを覚えていたい
優しい笑顔
そして
釣り糸の
その先に