No.1 4/4 (Update) version 3

2021/10/16 21:14 by someone
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No.1 14/4 (Update)
”疾雷(しつらい)”―――その強靭な身体における特殊な神経・筋肉の活動電流を一時的に増加させることで、反応速度、運動量等を飛躍的に上昇する技である。だが身体的負担は大きく、この危険性を孕んだ能力のコントロールが可能なのは、雷の属性が宿った輝石と呼ばれる核を有した者のみのはずだった。即ち使用できる者は、本来この烏をおいて他にいない。
「……はぁっ、はぁっ…」
白銀の荒い息遣いが辺りに響く。しかし肩を揺らしながらもその白い身体は反転し、烏に更なる攻撃を加えようとしていた。
「……あぁぁ!」
斬りかかってくる白銀の太刀に、声を上げながら尚も烏は応戦するも、深手を負った力ない二振りでは既に抵抗しきれず、やがてのその身は崩れるように仰向けに倒れこんだ。ここまでか…嗚呼、間抜けな話だ―――こんな亡者と堕ち、獲物とするはずの命に返り討ちに遭って死ぬとは…なんと下らない末路か。そのまま白銀は烏に馬乗りになった。太刀を逆手に持ち替え、その黒い身体に突き立てんとするも、白銀はそこから動くことができず、その淡い光の眼は烏の赤目と再度合う。
”シネ、コロシテヤル、クソガ、キタネエ、イタイダロウガ―――!”
”だめだよ…ころしたり、きずつけたりなんて…やめよう…うらみつらみでいきるのは―――!”

異形としての互いの面には、依然変化こそ見られない。しかし両者ともに見せる挙動、その"表情"には先程のような怜悧な鋭さは無かった。白銀が逆手に構えた太刀が震える。
”食らうために垣間見たこの魂は、虚無と苦悶に満ちていた。ある種俺と変わりはしない”
そのような魂など何度も葬ってきたが、何を今さらこんなことを考えているのか…烏は自身を自嘲の笑みを零す。その瞬間———
「…ァァァああアアあああアア!!!」
白銀は堰を切ったように叫び声を上げ、烏の頭部を掠めるように太刀を突き立てた。脳裏に移ったのは、恨みで生きたくないと伝えようとしても、冷たく嗤われた子供の記憶。その怒りのまま、烏を踏みつけて立ち上がり蹴りつける。
「嗤ウな!ワラうなァ!虫唾が走ル!失セろヤ!なぁ!」
狂乱しながら叫び、泣き喚きながら烏を蹴りつける。本来の自分ではない誰かがやっていることだと思いたい。しかし胸に在った光は失せ、白銀だった姿は他の誰でもない、花森健人のそれに戻っていた。その狂った叫びに、距離が多少離れているとはいえ辺りに住む住民が気付いたのだろう。人の気配を感じた。そこで思考が半ば強制的に働く。逃げなければ…狂乱に引きつった表情のまま、一方でそんな自己防衛的な思考が働いた自分を滑稽にさえ感じながら、健人はその場から逃れようと立ち去った。

走る。ただ泣きながら走る。”何がどうというわけじゃない…ただ、全てから逃げ出したい―――”花森健人を突き動かすのは、その感情だけだった。自分に何があったかなんて、思考する余裕すらない。ただ、いつもそうだ。いつも逃げてる。逃げることからさえも逃げてる。だけど、何処へ…?行きつく先は、狂気?虚無?嘲笑?病院?保護室のトイレ?幻覚?妄想?もうどこでも良かった。ただ”ここ”が嫌だった。ここが―――”自分が居る場所”が常に嫌で仕方ない。脚がもつれそうになる。しかしよろけながらも走ることはやめられない。止まれば、追いつかれる。現実に…自分自身に…
あの白銀の姿に変身している間は無我夢中で、それを忘れられた。自分の無力、無価値、無意味さを置いていくことができた。あの烏に襲われて、自己防衛として戦ったのはそうだ。殺されて死ぬくらいなら、殺そうとさえ思った。変身して戦っていた時、寧ろ自身にあったのはその思いだけだった。だが逆手に持った太刀の動きを、人間としての健人が制止した。変身が解け、元の花森剣人に戻った時…現実に引き戻され、泣き叫んでいる自分が居た。殺意に染まっている方が、まだマシだったかもしれないとさえ、思う。あの灯台の光に置いていったものを、今は思い出すことはできなかった。      

”疾雷(しつらい)”―――その強靭な身体における特殊な神経・筋肉の活動電流を一時的に増加させることで、反応速度、運動量等を飛躍的に上昇する技である。だが身体的負担は大きく、この危険性を孕んだ能力のコントロールが可能なのは、雷の属性が宿った輝石と呼ばれる核を有した者のみのはずだった。即ち使用できる者は、本来この烏をおいて他にいない。
「……はぁっ、はぁっ…」
白銀の荒い息遣いが辺りに響く。しかし肩を揺らしながらもその白い身体は反転し、烏に更なる攻撃を加えようとしていた。
「……あぁぁ!」
斬りかかってくる白銀の太刀に、声を上げながら尚も烏は応戦するも、深手を負った力ない二振りでは既に抵抗しきれず、やがてのその身は崩れるように仰向けに倒れこんだ。ここまでか…嗚呼、間抜けな話だ―――こんな亡者と堕ち、獲物とするはずの命に返り討ちに遭って死ぬとは…なんと下らない末路か。そのまま白銀は烏に馬乗りになった。太刀を逆手に持ち替え、その黒い身体に突き立てんとするも、白銀はそこから動くことができず、その淡い光の眼は烏の赤目と再度合う。
”シネ、コロシテヤル、クソガ、キタネエ、イタイダロウガ―――!”
”だめだよ…ころしたり、きずつけたりなんて…やめよう…うらみつらみでいきるのは―――!”

異形としての互いの面には、依然変化こそ見られない。しかし両者ともに見せる挙動、その"表情"には先程のような怜悧な鋭さは無かった。白銀が逆手に構えた太刀が震える。
”食らうために垣間見たこの魂は、虚無と苦悶に満ちていた。ある種俺と変わりはしない”
そのような魂など何度も葬ってきたが、何を今さらこんなことを考えているのか…烏は自身を自嘲の笑みを零す。その瞬間———
「…ァァァああアアあああアア!!!」
白銀は堰を切ったように叫び声を上げ、烏の頭部を掠めるように太刀を突き立てた。脳裏に移ったのは、恨みで生きたくないと伝えようとしても、冷たく嗤われた子供の記憶。その怒りのまま、烏を踏みつけて立ち上がり蹴りつける。
「嗤ウな!ワラうなァ!虫唾が走ル!失セろヤ!なぁ!」
狂乱しながら叫び、泣き喚きながら烏を蹴りつける。本来の自分ではない誰かがやっていることだと思いたい。しかし胸に在った光は失せ、白銀だった姿は他の誰でもない、花森健人のそれに戻っていた。その狂った叫びに、距離が多少離れているとはいえ辺りに住む住民が気付いたのだろう。人の気配を感じた。そこで思考が半ば強制的に働く。逃げなければ…狂乱に引きつった表情のまま、一方でそんな自己防衛的な思考が働いた自分を滑稽にさえ感じながら、健人はその場から逃れようと立ち去った。

走る。ただ泣きながら走る。”何がどうというわけじゃない…ただ、全てから逃げ出したい―――”花森健人を突き動かすのは、その感情だけだった。自分に何があったかなんて、思考する余裕すらない。ただ、いつもそうだ。いつも逃げてる。逃げることからさえも逃げてる。だけど、何処へ…?行きつく先は、狂気?虚無?嘲笑?病院?保護室のトイレ?幻覚?妄想?もうどこでも良かった。ただ”ここ”が嫌だった。ここが―――”自分が居る場所”が常に嫌で仕方ない。脚がもつれそうになる。しかしよろけながらも走ることはやめられない。止まれば、追いつかれる。現実に…自分自身に…
あの白銀の姿に変身している間は無我夢中で、それを忘れられた。自分の無力、無価値、無意味さを置いていくことができた。あの烏に襲われて、自己防衛として戦ったのはそうだ。殺されて死ぬくらいなら、殺そうとさえ思った。変身して戦っていた時、寧ろ自身にあったのはその思いだけだった。だが逆手に持った太刀の動きを、人間としての健人が制止した。変身が解け、元の花森剣人に戻った時…現実に引き戻され、泣き叫んでいる自分が居た。殺意に染まっている方が、まだマシだったかもしれないとさえ、思う。あの灯台の光に置いていったものを、今は思い出すことはできなかった。