これは私たちが紡いだ希望の物語  No.1 2 / 2 version 6

2022/07/30 10:56 by someone
  :追加された部分   :削除された部分
(差分が大きい場合、文字単位では表示しません)
これは私たちが紡いだ希望の物語  No.1 2 / 3
「なんだよ、これ…」
気が付いた時には自身の姿が変化し、それまでの花森健人ではなくなっていた。その変化を見ると、甲虫を思わせる装甲が身体に纏わりついている。それは右腕に槍を思わせる突起を形成し、また鋭い爪も伸びて腕全体が一回り半は肥大していた。左足の装甲も、具足のようになっており、鉤爪が足の先端と踵に備わっている。そして変化の見られない左手で右顔面に触れてみると、仮面ともおぼしい大きなレンズが備わっていた。
そのレンズを以て視認できる前方から、こちらを見据える異形の怪物らの姿がより明確に視認できた。
ヴェムルアと呼ばれた悪魔はどういうわけか隻腕となっていたが、獅子のたてがみのように逆立つ髪を靡かせ、その鋭利な眼を健人に向けている。ヤギを想起させるその姿、身体に震わせ、強い怒りを露にしていた。その傍らでクモの異形は黒い四つ目の付いた顔を僅かに俯かせ、肩を竦めている。その四肢に備え付けられた節足が暗い中で怪しく蠢く。
「だから自分の仕事以上のことなんてするもんじゃない」
「ほざいている場合か。始末するぞ」
「…全く、仕方ありませんな」
毒づくクモを無視し、悪魔が左腕を掲げた。その左手から夜のそれ以上の暗闇が吹き上がり、そして周囲に降り注いだ。世界がより黒く塗り変わっていく。そこはそれまであった、只の田舎道ではなくなろうとしていた。健人は自身に起こる超常的な事象に目を見開いて息を飲む。しかし我に返り、竦み上がって震える脚を、強引ながらも動かしてそこから逃れようと駆けだした。脚の運びが軽い。一足一足が飛んでいるようだ。それまでの自身の身体とは明らかに動きのしなやかさが違った。だが、その運動機能を以てしても、暗闇に包まれゆく世界の外に出ることは叶わない。
「——っ!なんの冗談だよ、おい!?」
怯え、震えと共に叫ぶ健人だったが、直後に衝撃と共に自身の身体が吹き飛ばされるのを感じた。反射的に衝撃を感じた方を見ると、そこに居たのはアハトと呼ばれたクモの姿。その節足の動きも加わった蹴りが、健人の鳩尾を捉えたためだった。直後に背後に現れたヴェムルアが、棍のような獲物を健人のこめかみ目掛けて振るう。
”右から来るぞ!”
瞬間、何処からともなく響く声と共に反応し、咄嗟に身を竦ませながらも肥大した右腕で棍の一撃を防いだ。しかし及び腰であった故か、衝撃を殺しきれずに大きくよろめき後退する。異形二体はそこを逃さず、追撃にしてきた。襲い来る二体の姿に、恐怖のまま動くことができない。その時先の”声”がまた響いた。
”キーホルダー握れ、早う!”
「——っ…!」
咄嗟に左手を動かし、胸元を握る。首から下、シャツの中に着けていたキーホルダーを掴むと、再度赤い光が発し、暗闇の世界の中で閃いた。叫びながら身を丸め、強く目を閉じる。
咄嗟に左手を動かし、胸元を握る。シャツの中に着けていたキーホルダーを掴むと、再度赤い光が発し、暗闇の世界の中で閃いた。叫びながら身を丸め、強く目を閉じる。
「捕えてすぐここに引きずり込む手はずではあったが、こんなことは想定外だ…!」
「…それも大概にしてもらいたい」
耳に届く異形二体の声。それを知覚する意識はまだあった。健人は恐る恐る目を開けると、そこにあったのは大きな白い腕と二振りの太刀。自身の背後から伸びて異形らの攻撃を防ぐそれに、すぐ背後を振り返る。大きな白銀の体躯を持つカラスがこちらを向いて言った。
閃光が収まると共に、耳に届く異形二体の声。それを知覚する意識はまだあった。健人は恐る恐る目を開けると、そこにあったのは大きな白い腕と二振りの太刀。自身の背後から伸びて異形らの攻撃を防ぐそれに、すぐ背後を振り返る。大きな白銀の体躯を持つカラスがこちらを向いて言った。
「早う動け!死にたいんか!!」
その言葉に慌てて三者の間を抜け出して逃れようとする健人を、尚もヴェムルアとアハトは追う。しかしカラスの巨体もまた、健人の動きに追随していた。
「何でこっちに来るんだよ!?お前もあいつらの仲間か!?」
「お前が宿主だからじゃ、あいつらと一緒にすなや!」
自身に起きた不可思議な現象を問うも、訳の分からない言葉が飛んできた。宿主ってなんだよ、何がどうなってる…!?
「それより時間がない。早う奴らを退けんと、ここから戻れんくなる…!」
「退けるって…」
「ほいじゃからそのために、お前が戦わんとどうしようもない!」
「そんな…」
瞬間、ヴェムルアとアハトが健人に迫る。カラスの太刀が大きく薙いだ一閃によって、襲い来る敵二体を身体ごと弾きはするも防戦一方。カラスは尚も苛烈さを増す敵の攻撃を弾き続けるが、あまりにも突拍子もない事態に、健人たちは戦うための体勢を取ることも困難だった。
「…覚悟決めい!」
「なんの!?」
「生きて足掻くための覚悟じゃ!!」
背を向けこちらを守るカラスからそんな言葉が飛んでくる。それは先の赤い光の中で聞いた声と同じもの、同じ言葉。全身の強張りはその度合いを増す一方で、また即座に頷くこともできなかった。だが、泣きながらでも未だ世界に在り続ける理由がある。そう思い構えようとした瞬間だった。

「その必要はない、あの女の下へ送ってくれる!」

ヴェムルアが、そう言った。カラスの太刀と巨体を搔い潜りながら、確かに言った。”あの女”——一瞬誰の事かと思ったが、花森健人には直感的に一人だけ浮かぶ人が…いる。ヴェムルアはそのまま棍を健人に向かって振り上げるも、直後に垣間見るは見開かれた健人の怒りの瞳だった。振り下ろされる棍の先を、肥大した右腕——槍腕で防ぎ、そのままヴェムルアへと問う。
ヴェムルアが、そう言った。カラスの太刀と巨体を搔い潜りながら、確かに言った。”あの女”——一瞬誰の事かと思ったが、花森健人には直感的に一人だけ浮かぶ人が…いる。ヴェムルアはそのまま棍を健人に向かって振り上げるも、直後に垣間見るは見開かれた健人の怒りの瞳だった。振り下ろされる棍の先を、肥大した右腕——槍腕で防ぎ、健人はそのままヴェムルアへと問う。
「…誰の事だ?」
「なに?」
「あの女って誰の事か聞いてんだ!!」
そして棍を往なした槍腕、その切っ先ヴェムルアを貫かんと振り上げられた。
そして棍を往なした槍腕直後にその切っ先ヴェムルアに突き立てんと振り上げられた。
      

「なんだよ、これ…」
気が付いた時には自身の姿が変化し、それまでの花森健人ではなくなっていた。その変化を見ると、甲虫を思わせる装甲が身体に纏わりついている。それは右腕に槍を思わせる突起を形成し、また鋭い爪も伸びて腕全体が一回り半は肥大していた。左足の装甲も、具足のようになっており、鉤爪が足の先端と踵に備わっている。そして変化の見られない左手で右顔面に触れてみると、仮面ともおぼしい大きなレンズが備わっていた。
そのレンズを以て視認できる前方から、こちらを見据える異形の怪物らの姿がより明確に視認できた。
ヴェムルアと呼ばれた悪魔はどういうわけか隻腕となっていたが、獅子のたてがみのように逆立つ髪を靡かせ、その鋭利な眼を健人に向けている。ヤギを想起させるその姿、身体に震わせ、強い怒りを露にしていた。その傍らでクモの異形は黒い四つ目の付いた顔を僅かに俯かせ、肩を竦めている。その四肢に備え付けられた節足が暗い中で怪しく蠢く。
「だから自分の仕事以上のことなんてするもんじゃない」
「ほざいている場合か。始末するぞ」
「…全く、仕方ありませんな」
毒づくクモを無視し、悪魔が左腕を掲げた。その左手から夜のそれ以上の暗闇が吹き上がり、そして周囲に降り注いだ。世界がより黒く塗り変わっていく。そこはそれまであった、只の田舎道ではなくなろうとしていた。健人は自身に起こる超常的な事象に目を見開いて息を飲む。しかし我に返り、竦み上がって震える脚を、強引ながらも動かしてそこから逃れようと駆けだした。脚の運びが軽い。一足一足が飛んでいるようだ。それまでの自身の身体とは明らかに動きのしなやかさが違った。だが、その運動機能を以てしても、暗闇に包まれゆく世界の外に出ることは叶わない。
「——っ!なんの冗談だよ、おい!?」
怯え、震えと共に叫ぶ健人だったが、直後に衝撃と共に自身の身体が吹き飛ばされるのを感じた。反射的に衝撃を感じた方を見ると、そこに居たのはアハトと呼ばれたクモの姿。その節足の動きも加わった蹴りが、健人の鳩尾を捉えたためだった。直後に背後に現れたヴェムルアが、棍のような獲物を健人のこめかみ目掛けて振るう。
”右から来るぞ!”
瞬間、何処からともなく響く声と共に反応し、咄嗟に身を竦ませながらも肥大した右腕で棍の一撃を防いだ。しかし及び腰であった故か、衝撃を殺しきれずに大きくよろめき後退する。異形二体はそこを逃さず、追撃にしてきた。襲い来る二体の姿に、恐怖のまま動くことができない。その時先の”声”がまた響いた。
”キーホルダー握れ、早う!”
「——っ…!」
咄嗟に左手を動かし、胸元を握る。シャツの中に着けていたキーホルダーを掴むと、再度赤い光が発し、暗闇の世界の中で閃いた。叫びながら身を丸め、強く目を閉じる。
「捕えてすぐここに引きずり込む手はずではあったが、こんなことは想定外だ…!」
「…それも大概にしてもらいたい」
閃光が収まると共に、耳に届く異形二体の声。それを知覚する意識はまだあった。健人は恐る恐る目を開けると、そこにあったのは大きな白い腕と二振りの太刀。自身の背後から伸びて異形らの攻撃を防ぐそれに、すぐ背後を振り返る。大きな白銀の体躯を持つカラスがこちらを向いて言った。
「早う動け!死にたいんか!!」
その言葉に慌てて三者の間を抜け出して逃れようとする健人を、尚もヴェムルアとアハトは追う。しかしカラスの巨体もまた、健人の動きに追随していた。
「何でこっちに来るんだよ!?お前もあいつらの仲間か!?」
「お前が宿主だからじゃ、あいつらと一緒にすなや!」
自身に起きた不可思議な現象を問うも、訳の分からない言葉が飛んできた。宿主ってなんだよ、何がどうなってる…!?
「それより時間がない。早う奴らを退けんと、ここから戻れんくなる…!」
「退けるって…」
「ほいじゃからそのために、お前が戦わんとどうしようもない!」
「そんな…」
瞬間、ヴェムルアとアハトが健人に迫る。カラスの太刀が大きく薙いだ一閃によって、襲い来る敵二体を身体ごと弾きはするも防戦一方。カラスは尚も苛烈さを増す敵の攻撃を弾き続けるが、あまりにも突拍子もない事態に、健人たちは戦うための体勢を取ることも困難だった。
「…覚悟決めい!」
「なんの!?」
「生きて足掻くための覚悟じゃ!!」
背を向けこちらを守るカラスからそんな言葉が飛んでくる。それは先の赤い光の中で聞いた声と同じもの、同じ言葉。全身の強張りはその度合いを増す一方で、また即座に頷くこともできなかった。だが、泣きながらでも未だ世界に在り続ける理由がある。そう思い構えようとした瞬間だった。

「その必要はない、あの女の下へ送ってくれる!」

ヴェムルアが、そう言った。カラスの太刀と巨体を搔い潜りながら、確かに言った。”あの女”——一瞬誰の事かと思ったが、花森健人には直感的に一人だけ浮かぶ人が…いる。ヴェムルアはそのまま棍を健人に向かって振り上げるも、直後に垣間見るは見開かれた健人の怒りの瞳だった。振り下ろされる棍の先を、肥大した右腕——槍腕で防ぎ、健人はそのままヴェムルアへと問う。
「…誰の事だ?」
「なに?」
「あの女って誰の事か聞いてんだ!!」
そして棍を往なした槍腕は、直後にその切っ先をヴェムルアに突き立てんと振り上げられた。