0 君と私の物語 みんなに公開
ーーエピローグーーサイゴノオモイデ
俺なら空くらい飛べそうじゃない?
そう彼は言って空に飛び立った。
やっぱり空なんて飛べるはずなくて
真っ逆さまに落ちていく君を ただ
眺めることしか私はできなかった。
3月10日 彼の命日。
彼が空を飛んだ日。
私と君との最後の思い出をここで振り返らせてくれないか。
これは私と私の最愛の人の 約1年の物語。
なるべく簡潔に書こうと思うので 出来たら読んでくださいね。
ーー1章ーーイマノジブン
皆さん初めまして。碧です。ちなみにこの物語の主人公的存在です。多分。まぁそんなことは置いといて、私いま美容室に来てるんです。何故なら髪を切るため。本当は染めたかったんだけどお金もないし仕事もあるしで髪を切るだけにしました。そして今日は3月10日 彼…ハルの命日。私は彼が居なくなってから毎年3月10日に髪を切る。他の日にも切るけどこの日は必ず切る。なんでかって?それはハルとの思い出の日だから。思い出の日というか私が失恋した日。という方が正しいのだけれど。
3年前の今日彼は死んだ。
《俺なら空くらい飛べそうじゃない?》 彼の口から聞いた最後の言葉。
〝自殺〟 そう聞いてみんなは何を思い浮かべるだろうか。
リストカット?OD?首締め?飛び降り?
彼は世間的に見たら「自殺」という形で亡くなったけど、私は 空を飛ぼうとしてそれに失敗して亡くなった。という捉え方をしている。 この考え方ははたから見たら現実逃避らしい。 そんなことはないと思うけど。
まぁそんなことは置いといて
毎年3月10日は 彼のことを考えるようにしてる。普段から考えることもあるけどこの日だけは彼との思い出を振り返る。
さて。今日も振り返るか
ーー第2章ーーキミトノデアイ
ゴホッゴホッ…ハァハァ…いつこの苦しみは終わるのだろう
静かにしていても殴られ蹴られ
反発しても殴られ蹴られ
誰も助けてくれない
誰も…私の事を分かってくれない
人間は信用出来ない…
そう思ってた あの時までは
「君…!そこで何してるの?!大丈夫?!」 突然私の耳に入ってきた声。大きな声出さないでくれないか。頭に響く。 そう思いながら体を起こそうとするが、体が思うように動かない。あーこれ。骨折れてんなぁ…そんなことを考えていると、声をかけてきた男性に抱き起こされた。
「こんな寒くて雨も降ってるのにこんな薄着で何やってるんですか?!死にたいんですか?!」彼はそういって私を立たせようとしたが、私の体が動かないことを察して、いわゆるお姫様抱っこをしてきた。
「なにするんですか…」やっとの事で声を振り絞り何とか降りようとした。だけど
「こんな状態の女の子を放っておけるほど冷たい人間じゃないんです俺は。病院行きますよ」と言った。
「やだ!病院だけは…」私は断固拒否した。病院にいけば身元がバレてまたあの生活に戻ってしまう…それだけは何としてでも避けなければ…
そこで私の意識は途切れた
目を覚ますとそこは病院だった。
自分の腕にぶっ刺さってる点滴の針と手と足に巻かれた包帯が見ていて痛々しい。
ーーー逃げなきゃ、 そう思って起き上がろうとすると、例の男性に抑えられた。
「まだ寝てなきゃダメだから!!…ねぇ。良かったらでいいんだけど、なんでそんなに病院を嫌うのか、教えて…くれる?」
この時私は、何故かすんなり私が親にいじめられてること。せっかく逃げてきたのに病院に行ったら身元がわかってまた引き戻されてしまうこと。…最近、息がし辛い事を伝えた。
「そっか…っ…辛かったねっ…ごめっ…俺が泣いていい話じゃないと思うし俺が泣いて解決する話じゃないと思うんだけどっ…なんかっ…昔の俺と少し似てたからつい…」 彼は私を抱きしめてしばらく泣いていた。
何故彼は泣いたのか私には理解ができなかった。もしかして私の話をしたから彼のトラウマを掘り起こしてしまったのだろうか。それなら謝らなければ。
「ごめん…なさい」 「え…?」
「だって…泣いてるから…」
「まったく…謝らなくていいんだよ!」
なんか怒られた。何故怒られたのか分からなくてキョトンとしていると、また男性が口を開いた。
「もう君はひとりじゃない。家に帰りたくないなら俺の家に来ればいい。と言っても、俺だけの家じゃないんだけど。児童養護施設って所。1回は名前くらい聞いたことあるでしょ?」
ーーー児童養護施設、名前は聞いたことあるけど、そんなの救いの手がさしのべられた人達しか行けないところだと思ってた。そんなの。私には無縁のものだと思ってた。
多分だけど今私はそこに誘われた…?
「…行ってみようかな」 聞こえるか聞こえないか分からない声で私が言うと
彼は優しく笑った。
ーーー3章ーーーキミハダレ?
あれから約1ヶ月の時が過ぎた。
私の体は驚異的なスピードで回復して行った。時々フラッシュバックに襲われ、新たな傷を作ることもあったけど、それも順調に回復していた。 あれから1ヶ月。この1ヶ月間ほとんど毎日病室に足を運んでくれた彼。 何故か彼は私の名を知っていて、退院したら直ぐに施設の入所手続きをしてくれるらしい。 赤の他人である私にここまでしてくれる彼は一体何者なのか。今まで何度名前を聞いても『答えるほどの名前はないよ』と 教えてくれなかった。 なんで教えてくれないのか不思議に思いつつも毎日来てくれる彼に惹かれていたのはここだけの話。もしかしたら私の恋は既に始まっていたのかもしれない。
3月23日 私は退院した。 行くあてのない私はどうしたらいいのか分からず病院の前を行ったり来たり。 こういう日に限って彼は来ない。 どうしたものかと思っていると、病院の前に1台の車が止まった。 その車から出てきたのは 優しそうな30代くらいのおば…お姉さんと彼だった。
『いや〜遅くなってごめんね!華ちゃん!』と彼が駆け寄ってきた。
「その名で呼ばないでくださいと何回言ったら分かるんですか…」
これを読んでる人はきっと「華ちゃんって誰だよ」ってお思いだろうが、まぁのちのち分かるからここはスルーしてくれ。
そんなこんなで彼に言われるがまま車に乗り込んだ私に『こちら、華ちゃんが通うことになる施設の責任者的な人ね!』と説明してくれた。
お姉さんの名前は汐(しお) 彼女も施設で育ったらしい。育った施設に恩返しがしたいと責任者をやっているそう。 お姉さんはとっても優しい声で
『気軽に汐ちゃんって呼んでね!あ、あとおばさんじゃないわよ!お姉さんだからね!』と私に自己紹介してくれた。
私から見たらおばさんだよ…と思っていると彼が『ほら!華ちゃんも自己紹介して!』と車を運転しながら言ってきた。
私は渋々「早川華…です。でも華って呼ばないでください。親につけられた名前なんて要らないんで。」と早口で答えた。
すると汐ちゃんが『あなた…そんなに親が嫌いなのね笑 どこかの誰かさんにそっくりだわ笑』と笑った。 意味がわからずきょとんとしている私に汐ちゃんは『ほら、今車を運転してくれてるこの子も施設に初めて来た時、「俺に名前はありません」って言ったのよ。』と説明してくれた。彼は『まだそんなの覚えてんのかよ…』となんだかいじけていた。
なるほど…だから彼は名前を教えてくれなかったのか。
私の中でようやく謎が解けた。
「じゃあ彼に名前はないんですか?」と汐ちゃんに聞くと、
『あるわよ?彼は「ハル」っていうの。春に施設にやって来たからね。安直だけどいい名だと思わない?』
と汐ちゃんは自慢げに言った。
彼の名前…やっと知れた彼の名前。ハル。いい名前だと思った。
私は聞こえるか聞こえないか分からないような小声で
「ハル…救ってくれてありがと」
と言った。 名前を知れたら1番に言おうとしていたことだ。
まだ心が楽になった訳じゃない。まだ幸せとは言えないけどあの時救ってくれたのは 地獄から救いあげてくれたのは 間違いなく ハルだ。
ハルの目から涙がこぼれ落ちたような気がした
ーーー第4章ーーーオモッテタノトチガウ
病院から車を走らせること約30分。 大きめな家の前に車は止まった。想像していた施設とはかなり外見が違った為、戸惑っていると、ハルが「施設っぽくないでしょ?」と微笑んだ。
汐ちゃんが「そこがいいのよ!」と自慢げに言うと、「まぁここは施設っぽくないから、他人を気にする年頃の子には合ってるのかもな」とハルが言った。
ハルと汐ちゃんに連れられて家の中に入ると、小学生~高校生位までの子が居た。
子供と遊んでた高校生らしき子が、汐ちゃんとハルに駆け寄って、「おかえりなさい!この子が新入りちゃん?」と元気よく言った。
「初めまして、」と頭を下げると
「そんな畏まらないで!よろしく!」と答えてくれた。しばらくその子と2人が話したあと、
施設の子を集めて私の紹介をしてくれた。
「この子が今日から入る子です!みんな優しくしてあげてね!」と
汐ちゃん。
「早速だけどこの子の名前決めまーす!」とハルちゃん
すると、1人の男の子が、「この子お目目が青いね〜!」と近づいてきた。
私は突然の事でびっくりして後ずさりしてしまった。
汐ちゃんが「この子まだ人になれてないから、近づく時はゆっくりね(´ω`)」と男の子に言ってくれた。
ハルが、「確かに綺麗な目してる。んじゃ、目の色からとって碧ってのはどう?」と聞いてきた。
「なんでもいい」とぶっきらぼうに答えると、「んじゃ決まり!」と笑顔で言った。
さらにみんなに向けて「改めて碧ちゃんね!みんな仲良くするように!」とハル。
「「はーい!」」という声が家に響いた。
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