4.丁寧と重奏 version 2

2023/02/27 14:11 by someone
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白紙のページ4.丁寧と追及
「…そうだろうな」
再度沈黙を挟み、佐田が言った。その真剣な眼差しは他でもない花森健人に向けられていた。
「簡単にどうにかなってれば、そこまでなっちゃあいないだろう」
健人はその言葉を受けながらも、佐田を睨みつけていた。
「店長に何が分かるって言うんですか」
「確かに、分かるなんて言えない。ただな、花森ーー」
「説教は…」
「そんなに自分を貶めてたら、本当に死んでしまうぞ」
瞬間、健人は遂に視線を佐田から外した。
「知りませんよ、そんなこと」
言いながら、自嘲した。そもそも自身が壊れかねないことに恐れを抱いていたくせに。
「本当にそれでいいのなら、止めはしないが…お前の判断に、そこは任せる」
末尾は息を吐きながら言ったその言葉を最後に、佐田は自身の仕事の在庫管理に戻った。再びの静寂の中、健人は途方に暮れていた。"佐田の指導は、重箱の隅をつつく程細かいーー"。健人は確かにそう認知しており、今はより強くそう思ったが、丁寧なそれだった。少なくとも捨て鉢な自分より、余程。その彼が先のように告げた。そのことの意味が、わからない訳がない。だがその理解と共に抱く、自身をこうも卑屈にした無力もまた、健人を萎縮させる。そんな二つの狭間に呆然とした意識は、その身を安場佐田から動かさなかった。

――――――――――――――――――――――――

辛うじてシフトの時間を終え、帰路に着く健人の思考は、どうしようもなく先の佐田の指導と、夢だったはずの一連を想起していた。
佐田の言葉に対し、意識に刷り込まれた"逃避する無能な自身"が、否応なしに反応する。
「俺には何も出来ない。逃げてしまう自分が、いつだって醜い。醜いが何も出来ない」
一人で苦悶を追及する自閉的な自我が、状況を打破出来るわけもなく、かつ自嘲を繰り返す。
しかし何より、逃げなければ。あんな人間離れした怪物に太刀打ちなど…そこまで考え、夢とした先の出来事が脳裏を過る。あの影の怪物を倒し、その闇を辛くも祓った感覚。あの時も確かこんなーー。

「私の"影魔"を殺ったのは、お前か」
通りすぎながら、突然掛けられた物騒な言葉は、即座に健人を飛び退かせた。
「…えっ、なに…なんですか!?」
「あの場の"カルナ"と絶望を辿ってみれば…」
健人の視線の先には長身の黒コートの男。だがその姿はすぐに異形のそれへと変貌する。驚愕と恐れに、自身の飲んだ息の音が聞こえた。

そこには、悪魔がいたーー。

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「…そうだろうな」
再度沈黙を挟み、佐田が言った。その真剣な眼差しは他でもない花森健人に向けられていた。
「簡単にどうにかなってれば、そこまでなっちゃあいないだろう」
健人はその言葉を受けながらも、佐田を睨みつけていた。
「店長に何が分かるって言うんですか」
「確かに、分かるなんて言えない。ただな、花森ーー」
「説教は…」
「そんなに自分を貶めてたら、本当に死んでしまうぞ」
瞬間、健人は遂に視線を佐田から外した。
「知りませんよ、そんなこと」
言いながら、自嘲した。そもそも自身が壊れかねないことに恐れを抱いていたくせに。
「本当にそれでいいのなら、止めはしないが…お前の判断に、そこは任せる」
末尾は息を吐きながら言ったその言葉を最後に、佐田は自身の仕事の在庫管理に戻った。再びの静寂の中、健人は途方に暮れていた。"佐田の指導は、重箱の隅をつつく程細かいーー"。健人は確かにそう認知しており、今はより強くそう思ったが、丁寧なそれだった。少なくとも捨て鉢な自分より、余程。その彼が先のように告げた。そのことの意味が、わからない訳がない。だがその理解と共に抱く、自身をこうも卑屈にした無力もまた、健人を萎縮させる。そんな二つの狭間に呆然とした意識は、その身を安場佐田から動かさなかった。

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辛うじてシフトの時間を終え、帰路に着く健人の思考は、どうしようもなく先の佐田の指導と、夢だったはずの一連を想起していた。
佐田の言葉に対し、意識に刷り込まれた"逃避する無能な自身"が、否応なしに反応する。
「俺には何も出来ない。逃げてしまう自分が、いつだって醜い。醜いが何も出来ない」
一人で苦悶を追及する自閉的な自我が、状況を打破出来るわけもなく、かつ自嘲を繰り返す。
しかし何より、逃げなければ。あんな人間離れした怪物に太刀打ちなど…そこまで考え、夢とした先の出来事が脳裏を過る。あの影の怪物を倒し、その闇を辛くも祓った感覚。あの時も確かこんなーー。

「私の"影魔"を殺ったのは、お前か」
通りすぎながら、突然掛けられた物騒な言葉は、即座に健人を飛び退かせた。
「…えっ、なに…なんですか!?」
「あの場の"カルナ"と絶望を辿ってみれば…」
健人の視線の先には長身の黒コートの男。だがその姿はすぐに異形のそれへと変貌する。驚愕と恐れに、自身の飲んだ息の音が聞こえた。

そこには、悪魔がいたーー。

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