『隣人の置き土産』 version 4

2024/06/20 19:41 by ethereal4096hz
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『隣人の置き土産』
去年の夏、実家に2週間ほど帰省した後、
西荻窪に借りていたマンションに戻った
いつも通り部屋に入ろうとする
薄暗い1kの畳の部屋
黒い塊がいくつか落ちているのが見える

そこでいつもは感じない何か違和感を覚える

電気をつけ
よく近づいてみると
キンバエの亡骸だった
それが畳にポツポツと転がっていた

築古マンションで虫が出るのは多少慣れてきていたが
いつもは見ない虫に何か部屋の異変を少し感じた

2週間ぶりに帰った部屋の掃除をする
転がるハエの死骸はカラカラと鈍く緑色に光沢していた
塵取りで片付け、掃除機で一通り終えたところで
窓を開けようとすると

窓のレールの溝にもキンバエの死骸が4匹ほど
挟まって落ちている

計7〜8つの死骸が部屋に転がっていた事になる
さすがに、気分が悪い
コンビニの余った割り箸で溝で生き絶えたハエたちを
拾い上げトイレに流した。

窓を開け、空気を入れ替えた
そして、その日を終えた。


また数日、意識がいっていなかった場所に目が留まる

隣の番号の部屋の鉄製のドアが物々しく四方を囲むように
隣の番号の部屋の鉄製のドアが物々しく四方を囲むように
ビッチリと太いテープでドアの隙間塞がれている
ドアノブには頑丈な器具で施錠されている

普通ではない光景がそこにはあった

しかし、しばらく家を開けるために防犯対策でもしてるのか
とも思ったが、そのときは何がそうさせているのか
よくわからなかった。


しばらく日にちが経ち、ドアは塞がれたままだが

ある日、部屋に居ると誰もいるはずのない隣の部屋から
2人か3人くらいの男性の声が聞こえてくる
何やら、ガタガタと乱暴な音がたてられ
それが薄い壁から伝わって聞こえてくる
2、3時間ほどするとそれが止み、今度は外の玄関の方で
その男性と1人の女性の立ち話の声が聞こえてきて
その後また静かになった。

隣の部屋の存在は意識からは離れてそれがまた
日常の普段の風景と化していった


月末、家賃を支払いに大家さんのデカい近くの一軒家に
伺いに向かう。
今時、家賃は手渡しでやり取りするのである

自分の住むマンションの古く狭い畳の部屋と
大家さん(80代)の玄関の広い邸宅を比べてしまい、
多少毎回家賃を払うたびに経済格差を感じ
自分の将来を考えてしまう

大家さんと話をする
いつも通り世間話をした後、
以前から自分が相談していた、ちょくちょく虫が出るという話に回答するかの如く、大家さんが謝ってきた

「すみません、実は隣の〇〇〇号室の方がこのまえ亡くなりまして…それが原因かもしれません」

たしかそんな感じで切り出された

小さい虫が以前から出るのは多分また別に理由があると思ったが、少し前にみたキンバエの無数の死骸は明らかにそれだ
と背筋が凍りついた


そこで初めてあの自室に帰った時の
部屋の違和感の原因が明らかになった

あれは隣人が死んで湧いたハエがどこかを伝って
こちらの部屋に侵入し、自分が留守にしてる間に
生き絶えたということだ


それを1匹1匹あの時、処理していたのかと思うと
最悪だと思った。



匂いとかあったかもしれませんと大家さんから言われた
夏でもクーラーをつけない高齢の方だったらしい
妻とも別居していて一人暮らしの方だったとわかった
幸いしばらく部屋を留守にしていたから、
隣人が亡くなった時の様子も異臭も知らずに事は終わった。



壁が薄くいつも聞こえてくる苦しそうな咳払いや
朝になるといつも聞こえてくるカーテンをシャッと開ける音はもうしない。

テレワークをしていて物音がしない壁の向こう側では
人一人の命がそこでなくなったとは思えないくらい
不気味な空気もなくただただ静かである

大島てるにものっていない夏の孤独死により空室になった部屋と自分が後に引っ越して空室になった部屋は並んで
西荻窪のどこかにまだ存在している。
      

去年の夏、実家に2週間ほど帰省した後、
西荻窪に借りていたマンションに戻った
いつも通り部屋に入ろうとする
薄暗い1kの畳の部屋
黒い塊がいくつか落ちているのが見える

そこでいつもは感じない何か違和感を覚える

電気をつけ
よく近づいてみると
キンバエの亡骸だった
それが畳にポツポツと転がっていた

築古マンションで虫が出るのは多少慣れてきていたが
いつもは見ない虫に何か部屋の異変を少し感じた

2週間ぶりに帰った部屋の掃除をする
転がるハエの死骸はカラカラと鈍く緑色に光沢していた
塵取りで片付け、掃除機で一通り終えたところで
窓を開けようとすると

窓のレールの溝にもキンバエの死骸が4匹ほど
挟まって落ちている

計7〜8つの死骸が部屋に転がっていた事になる
さすがに、気分が悪い
コンビニの余った割り箸で溝で生き絶えたハエたちを
拾い上げトイレに流した。

窓を開け、空気を入れ替えた
そして、その日を終えた。

また数日、意識がいっていなかった場所に目が留まる

隣の番号の角部屋の鉄製のドアが物々しく四方を囲むように
ビッチリと太いテープでドアの隙間塞がれている
ドアノブには頑丈な器具で施錠されている

普通ではない光景がそこにはあった

しかし、しばらく家を開けるために防犯対策でもしてるのか
とも思ったが、そのときは何がそうさせているのか
よくわからなかった。

しばらく日にちが経ち、ドアは塞がれたままだが

ある日、部屋に居ると誰もいるはずのない隣の部屋から
2人か3人くらいの男性の声が聞こえてくる
何やら、ガタガタと乱暴な音がたてられ
それが薄い壁から伝わって聞こえてくる
2、3時間ほどするとそれが止み、今度は外の玄関の方で
その男性と1人の女性の立ち話の声が聞こえてきて
その後また静かになった。

隣の部屋の存在は意識からは離れてそれがまた
日常の普段の風景と化していった

月末、家賃を支払いに大家さんのデカい近くの一軒家に
伺いに向かう。
今時、家賃は手渡しでやり取りするのである

自分の住むマンションの古く狭い畳の部屋と
大家さん(80代)の玄関の広い邸宅を比べてしまい、
多少毎回家賃を払うたびに経済格差を感じ
自分の将来を考えてしまう

大家さんと話をする
いつも通り世間話をした後、
以前から自分が相談していた、ちょくちょく虫が出るという話に回答するかの如く、大家さんが謝ってきた

「すみません、実は隣の〇〇〇号室の方がこのまえ亡くなりまして…それが原因かもしれません」

たしかそんな感じで切り出された

小さい虫が以前から出るのは多分また別に理由があると思ったが、少し前にみたキンバエの無数の死骸は明らかにそれだ
と背筋が凍りついた

そこで初めてあの自室に帰った時の
部屋の違和感の原因が明らかになった

あれは隣人が死んで湧いたハエがどこかを伝って
こちらの部屋に侵入し、自分が留守にしてる間に
生き絶えたということだ

それを1匹1匹あの時、処理していたのかと思うと
最悪だと思った。

匂いとかあったかもしれませんと大家さんから言われた
夏でもクーラーをつけない高齢の方だったらしい
妻とも別居していて一人暮らしの方だったとわかった
幸いしばらく部屋を留守にしていたから、
隣人が亡くなった時の様子も異臭も知らずに事は終わった。

壁が薄くいつも聞こえてくる苦しそうな咳払いや
朝になるといつも聞こえてくるカーテンをシャッと開ける音はもうしない。

テレワークをしていて物音がしない壁の向こう側では
人一人の命がそこでなくなったとは思えないくらい
不気味な空気もなくただただ静かである

大島てるにものっていない夏の孤独死により空室になった部屋と自分が後に引っ越して空室になった部屋は並んで
西荻窪のどこかにまだ存在している。