心羽との出会い version 5
心羽との出会い
その日の朝憬市立灯星学館高等学校の福祉学科は社会福祉基礎と生活支援技術が2コマずつ、それと一般教科が1コマずつの授業内容だった。
あ、怠い…起きたくない。
2018年5月ーーー昼には気温が暑く感じる日こそ増えてきたが、日が昇り始めた6時40分では、まだ若干肌寒かった。尚更布団の外には出たくない。
スマートフォンのアラームが鳴る。まだ二週間前に買い換えたばかりで、その音色は初期設定のままだ。そのエレクトロな音色が、未だカーテンを閉めきった薄暗い部屋の中に響く。そこにあるのはただの現実。
「あぁ…」
なんであんな面倒な授業を受けてるのかもうわからないのに起きねばならないのか。少年の嘆きは、その身体を布団の中で蠢かせる。
まあ、何でもいいけどさ…何でもいいか…
いっそ投げやり気味な自我を伴い、少年は微睡みの中10分ほどかけて目を開ける。
いっそ投げやり気味な自我を伴い、少年は微睡みの中から目を開ける。
スマートフォンの電源ボタンを押し、ディスプレイに点いた明かりを半開きの目で見ると、そのロック画面が表示した通知を確認すべく、意識は徐々に覚醒する。
こうした憂鬱な目覚めが、この時の花森剣人のルーティンだった。
剣人の指はロック解除のパスワードを入力すると、次に最近始めたスマホゲームからの余計な通知をブロックに動く。そして一件のメールの通知をタップし、これを開いた。
差出人の項目は由良、件名の項目には"今日の授業"と銘打たれていた。律儀に件名を打ってメールを差し出す辺り、日頃見る由良貴俊のおおらかなそれとは少々印象が異なるが、その妙な感覚にもやがて慣れたものだった。
本文に目をやりその文面を確認すると、そこに記されていたのは大方予想通りの内容ーーー
「今日の生活指導の授業、小テストがあるらしい。昼までに対策しないか?」
予想通りではあったが、口からは溜め息が零れる。由良が自分を気にかけてくれてのメールであることはわかっていた。だが小テストはクソだりい…
「ゴメン、やる気でない。まあ授業は出るだけ出るわ…気にしてくれてるのに悪い」
返信メールの内容としてそれだけ打って送信し、剣人はその身を起こした。
二階にある自室から出て階段を降り、リビングのある一階の戸を開ける。そこから左側に面するキッチンで、既に起きていた母の純子(すみこ)が父ーーー昭雄(あきお)と剣人の弁当を積めていた。
「おはよう」
「おはよう、昨日はよく寝れた?」
「うん、まあ…」
「そっか、ツナパン出来てるよ」
気の抜けた返事を返す息子を心配しつつ、純子は明るく言う。
「うん、いただきます」
「はーい」
これがこの母子の、いつからか続いてきた朝のやり取りだった。
テーブルに着いた剣人は、マヨネーズと和えたツナが乗ったトースト一枚半ーーー通称ツナパンの一切れを口に入れながら、リビングのテレビを点ける。そこに映されるのはつまらない芸能ニュースや世界のどこかで起きている悲惨な出来事、大体自分がみている時はひどい順位の星座占い、政財界の人間への疑惑や不祥事、それを揶揄する極端な見出し…
何がどうということはない。いつものうんざりなくらいの人間の混沌だ。
その日の朝憬市立灯星学館高等学校の福祉学科は社会福祉基礎と生活支援技術が2コマずつ、それと一般教科が1コマずつの授業内容だった。
あ、怠い…起きたくない。
2018年5月ーーー昼には気温が暑く感じる日こそ増えてきたが、日が昇り始めた6時40分では、まだ若干肌寒かった。尚更布団の外には出たくない。
スマートフォンのアラームが鳴る。まだ二週間前に買い換えたばかりで、その音色は初期設定のままだ。そのエレクトロな音色が、未だカーテンを閉めきった薄暗い部屋の中に響く。そこにあるのはただの現実。
「あぁ…」
なんであんな面倒な授業を受けてるのかもうわからないのに起きねばならないのか。少年の嘆きは、その身体を布団の中で蠢かせる。
まあ、何でもいいけどさ…何でもいいか…
いっそ投げやり気味な自我を伴い、少年は微睡みの中から目を開ける。
スマートフォンの電源ボタンを押し、ディスプレイに点いた明かりを半開きの目で見ると、そのロック画面が表示した通知を確認すべく、意識は徐々に覚醒する。
こうした憂鬱な目覚めが、この時の花森剣人のルーティンだった。
剣人の指はロック解除のパスワードを入力すると、次に最近始めたスマホゲームからの余計な通知をブロックに動く。そして一件のメールの通知をタップし、これを開いた。
差出人の項目は由良、件名の項目には"今日の授業"と銘打たれていた。律儀に件名を打ってメールを差し出す辺り、日頃見る由良貴俊のおおらかなそれとは少々印象が異なるが、その妙な感覚にもやがて慣れたものだった。
本文に目をやりその文面を確認すると、そこに記されていたのは大方予想通りの内容ーーー
「今日の生活指導の授業、小テストがあるらしい。昼までに対策しないか?」
予想通りではあったが、口からは溜め息が零れる。由良が自分を気にかけてくれてのメールであることはわかっていた。だが小テストはクソだりい…
「ゴメン、やる気でない。まあ授業は出るだけ出るわ…気にしてくれてるのに悪い」
返信メールの内容としてそれだけ打って送信し、剣人はその身を起こした。
二階にある自室から出て階段を降り、リビングのある一階の戸を開ける。そこから左側に面するキッチンで、既に起きていた母の純子(すみこ)が父ーーー昭雄(あきお)と剣人の弁当を積めていた。
「おはよう」
「おはよう、昨日はよく寝れた?」
「うん、まあ…」
「そっか、ツナパン出来てるよ」
気の抜けた返事を返す息子を心配しつつ、純子は明るく言う。
「うん、いただきます」
「はーい」
これがこの母子の、いつからか続いてきた朝のやり取りだった。
テーブルに着いた剣人は、マヨネーズと和えたツナが乗ったトースト一枚半ーーー通称ツナパンの一切れを口に入れながら、リビングのテレビを点ける。そこに映されるのはつまらない芸能ニュースや世界のどこかで起きている悲惨な出来事、大体自分がみている時はひどい順位の星座占い、政財界の人間への疑惑や不祥事、それを揶揄する極端な見出し…
何がどうということはない。いつものうんざりなくらいの人間の混沌だ。