鴉と火の鳥 No.1 2/2 【B】 version 3

2022/02/22 19:15 by someone
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鴉と火の鳥 No.1 2/2
朝憬市立望海中学校の屋上にて、夕陽に照らされる望海町を遠目に眺めるブレザー姿の少女がいた。校舎に残った生徒は他には僅かで、彼女の周囲はしんと静まり返っていた。夕陽の中にあって尚も煌めく彼女の赤髪を、風が靡く。
「来た…」
その遠目の向いた方角から飛んでくる鳥の影に少女が声を発した。やがてその影は大きくなって輪郭と体の色を鮮明にしていく。そうして梟の姿となったそれは、程なく少女の頭上、屋上の鉄柵の上に止まった。
「どう?エウィグ」
その名を呼ばれ、少女に仰ぎ見られた梟——エウィグは、彼女を見つめると、その静かな鳴き声を上げ、少女に伝えるための魔法の言葉を嘴から発した。
「事態は中々深刻です。エクリプスは本格的に蜂起したと見ていいでしょう。住民には何故か被害は出ていませんが…」
「そう…」
エウィグの報告に少女は一瞬俯き、その丸みのある目を伏せた。しかしすぐにその顔を上げると、「続けて」と更なる情報報告を促す。エウィグもまた一瞬だけ足元に目線を落とすも、すぐにまた魔法の言葉を紡いだ。
「…朝憬市の各役所の6割から7割が襲撃されていました」
「そこの人たちは、今どうなってるの?」
「今回は彼ら自身に残された、自治組織としての機能が対処していますが、既にそれも維持していくのは難しそうです」
「それって、具体的には…」
言いながら、少女は今度は決定的に顔を曇らせた。その表情を見遣るエウィグもまた、その黒い目を沈ませる。
「ええ…察しておられる通りです。やはり被害者の殆どは意識混濁がまず認められます」
「もう確定だね…”ここ”の人たちもやっぱり同じ状況だ」
報告された情報を解釈するにつれ、少女の表情が真剣さを増した。遂にはエウィグも一瞬沈黙する。目を閉じて深呼吸した後、少女の顔には年齢不相応な精悍さえ宿っていた。
「ですが本人の素養や回復力によっては、そこから持ち直したケースもあったではありませんか」
そう発した次の瞬間には、いつの間にか少女の肩に舞い降りたエウィグが、彼女の顔をその翼でくすぐるように撫でた。
「エウィグ…」
「お嬢様が希望を失うことなきよう、このエウィグも努力を惜しみません。ですので、どうか…」
「ありがとう。私は大丈夫だよ…それに、私がやることもやるべきことも変わらない」
主人のその言葉に、忠実な臣下は静かに喉を鳴らす。少女もまた静かに、夕焼けに色づく望海町の街並みを見つめた。
「私達も戦うんだ、今度は逃げない」
「…承知いたしました。不肖エウィグ、この翼はお嬢様と共に——」

—————————————————————————————

夕焼けの橙が群青と混ざって染まる6時頃、花森健人は朝憬市中央部の駅前にあるコーヒーショップでブレンドコーヒーを啜っていた。スマートフォンと連携させた無線イヤホンから音楽が流れる中、俯いてカップを持つ手元を見つめる。時折顔を上げて窓の外を行き交う人々と街並みを見るも、力ないその身体の動きは緩慢だった。現実への辟易に、深呼吸して肩を揺らすと、またコーヒーを啜る。そうしてただ呆然と時間だけが過ぎていけば、空は夜の暗闇に変わっていた。
「帰らないと」
自身に向けて声をかけ、店を後にし帰路に着く。
      

朝憬市立望海中学校の屋上にて、夕陽に照らされる望海町を遠目に眺めるブレザー姿の少女がいた。校舎に残った生徒は他には僅かで、彼女の周囲はしんと静まり返っていた。夕陽の中にあって尚も煌めく彼女の赤髪を、風が靡く。
「来た…」
その遠目の向いた方角から飛んでくる鳥の影に少女が声を発した。やがてその影は大きくなって輪郭と体の色を鮮明にしていく。そうして梟の姿となったそれは、程なく少女の頭上、屋上の鉄柵の上に止まった。
「どう?エウィグ」
その名を呼ばれ、少女に仰ぎ見られた梟——エウィグは、彼女を見つめると、その静かな鳴き声を上げ、少女に伝えるための魔法の言葉を嘴から発した。
「事態は中々深刻です。エクリプスは本格的に蜂起したと見ていいでしょう。住民には何故か被害は出ていませんが…」
「そう…」
エウィグの報告に少女は一瞬俯き、その丸みのある目を伏せた。しかしすぐにその顔を上げると、「続けて」と更なる情報報告を促す。エウィグもまた一瞬だけ足元に目線を落とすも、すぐにまた魔法の言葉を紡いだ。
「…朝憬市の各役所の6割から7割が襲撃されていました」
「そこの人たちは、今どうなってるの?」
「今回は彼ら自身に残された、自治組織としての機能が対処していますが、既にそれも維持していくのは難しそうです」
「それって、具体的には…」
言いながら、少女は今度は決定的に顔を曇らせた。その表情を見遣るエウィグもまた、その黒い目を沈ませる。
「ええ…察しておられる通りです。やはり被害者の殆どは意識混濁がまず認められます」
「もう確定だね…”ここ”の人たちもやっぱり同じ状況だ」
報告された情報を解釈するにつれ、少女の表情が真剣さを増した。遂にはエウィグも一瞬沈黙する。目を閉じて深呼吸した後、少女の顔には年齢不相応な精悍さえ宿っていた。
「ですが本人の素養や回復力によっては、そこから持ち直したケースもあったではありませんか」
そう発した次の瞬間には、いつの間にか少女の肩に舞い降りたエウィグが、彼女の顔をその翼でくすぐるように撫でた。
「エウィグ…」
「お嬢様が希望を失うことなきよう、このエウィグも努力を惜しみません。ですので、どうか…」
「ありがとう。私は大丈夫だよ…それに、私がやることもやるべきことも変わらない」
主人のその言葉に、忠実な臣下は静かに喉を鳴らす。少女もまた静かに、夕焼けに色づく望海町の街並みを見つめた。
「私達も戦うんだ、今度は逃げない」
「…承知いたしました。不肖エウィグ、この翼はお嬢様と共に——」

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夕焼けの橙が群青と混ざって染まる6時頃、花森健人は朝憬市中央部の駅前にあるコーヒーショップでブレンドコーヒーを啜っていた。スマートフォンと連携させた無線イヤホンから音楽が流れる中、俯いてカップを持つ手元を見つめる。時折顔を上げて窓の外を行き交う人々と街並みを見るも、力ないその身体の動きは緩慢だった。現実への辟易に、深呼吸して肩を揺らすと、またコーヒーを啜る。そうしてただ呆然と時間だけが過ぎていけば、空は夜の暗闇に変わっていた。
「帰らないと」
自身に向けて声をかけ、店を後にし帰路に着く。