0 お題で綴る『6』
…何とも言えないな。
(なんて言いつつ、部屋の窓の側まで勉強用のデスクから椅子を運び、部屋の電気を暗くして外を見上げる。その観察対象は『月』。満月だった?それとも綺麗な三日月?ううん。そんな歌や詩に歌われるような綺麗なものじゃなくて、そう『何とも言えない』月だった。古文の授業で習ったっけ、居待月だの立待月だの。その区分でいえば『更待月』といったところか。ほんとなんとも言えない。『今日は綺麗な更待月ですね』なんて人に語った所で『はぁ。そうですね』と気のない返事でやり過ごされるのが関の山。それでも私は部屋の灯りを落とし、その月を見上げ続ける)
はぁ。
(とため息一つ。月を見上げてため息なんて雅やか?そんな素敵なものじゃない。私に薄汚れた澱に塗れた空気を吐き出させている存在はもっと俗っぽいもので。ちら、とスマホの通知を確認してから)
はぁ。
(と、再びのため息。何も、来ていない。おかしい。もう深夜も1時になっていて、つまり日付が変わってからとっくに1時間。私が…また一つ大人になってからとっくに1時間。ちら。はぁ。ちら。はぁ。)
『月みればちぢにものこそ悲しけれ』って?あんまりにあんまりに
(あんまりに私の今の気持ちに寄り添いすぎている。今は秋ではないけれど。平安時代からのスルーパスは私の足元にしっかり吸い付いて、脚を駆け登り心に染み入る。耳を澄ませばほど近くの田んぼから聞こえる蛙の合唱。ささくれ立つ心を煽るそれに耳を塞いでは)
0時ちょうどにって言ったのに。普通忘れる…?別に一ヶ月記念日がどうこうとか言ってるんじゃないんだよ?
(ひとりごちる言葉はきっと、発したかどうかもわからないような小声。蛙一匹にも負けてしまいそうなほど。再確認。通知有。そして落胆。いや落胆しちゃだめだ。これはこれで嬉しいもの。でも)
いいな。月、月に行きたい。
(普段そんなふうに思うことも、月を見上げることもそんなにはない。『特別な日』というものは斯くも女を感傷的にさせるものなのか。可笑しくて自分でもつい嘲笑ってしまう。月の重力は『地球の6分の1』。なんて中途半端な数字なんだろう。『6』って。でもそれでもいい。月にいけばきっと私のこの溜息の重さも6分の1。だから6倍の笑顔で彼に嫌味を言ってやれるんだ。―あ。また通知。…遅い。ばーーか)
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