No.3 1/3 version 37

2021/08/12 17:19 by someone
  :追加された部分   :削除された部分
(差分が大きい場合、文字単位では表示しません)
No.3 1/2
そこは公園の砂場だった。地域の親子が集まっているのだろう。子ども達が遊び、親達がそれを見守る。ありふれていたはずだが、少し変わってしまったかもしれない光景。そこに幼い花森剣人がいた。家から持ってきたおもちゃと、自分なりの空想を掛け合わせて、楽しいものを見つけようと心や身体を動かす。母の純子(すみこ)は、近隣に住む他の子の母親と世間話をしつつ、こちらに目配せする。そんな母と目が合うと、親子は互いに微笑んだ。それは、まだ何も知らなかったころの記憶。誰かとの歪な関わり方も知らなかったころのこと。だが、ふと幼い剣人は後ろを振り向く。そこには困って泣きそうな顔をした他の子どもの姿があった。泣き顔の彼の目線の先には、先ほどまで彼のもとにあったおもちゃが、また別の手に渡っていた。嫌な感覚がした。理不尽感じるのも、彼が泣くのも、嫌だと思った。おもちゃを取った子の意識が他に向いたのか、一瞬その場を離れたところへ剣人は向かった。彼はそこに転がっていた泣いている子のおもちゃを手に取り、彼のもとに届けた。だけど、仕返しが来ないか怖くなって、剣人は母の方を少し見る。純子は何とも驚いた表情をしていた。それは、少しだけ何か出来たような気がした記憶。
そこは公園の砂場だった。地域の親子が集まっているのだろう。子ども達が遊び、親達がそれを見守る。ありふれていたはずだが、少し変わってしまったかもしれない光景。そこに幼い花森剣人がいた。家から持ってきたおもちゃと、自分なりの空想を掛け合わせて、楽しいものを見つけようと心や身体を動かす。母の純子(すみこ)は、近隣に住む他の子の母親と世間話をしつつ、こちらに目配せする。そんな母と目が合うと、親子は互いに微笑んだ。それは、まだ何も知らなかったころの記憶。誰かとの歪な関わり方も知らなかったころのこと。だが、ふと幼い剣人は後ろを振り向く。そこには困って泣きそうな顔をした他の子どもの姿があった。泣き顔の彼の目線の先には、先ほどまで彼のもとにあったおもちゃが、また別の手に渡っていた。嫌な感覚がした。理不尽感じるのも、彼が泣くのも、嫌だと思った。おもちゃを取った子の意識が他に向いたのか、一瞬その場を離れたところへ剣人は向か。彼はそこに転がっていた泣いている子のおもちゃを手に取り、彼のもとに届けた。だけど、仕返しが来ないか怖くなって、剣人は母の方を少し見る。純子は何とも驚いた表情をしていた。それは、少しだけ何か出来たような気がした記憶。
しかしそこに、いないはずの誰かの声が聞こえた。
「"取り返す"なんてやり方しないで済んだら良かったのにね」
そこにいたのは、高校時代の女友達だった秀才の粟村。うるさい。5歳にも満たなかった子どもに何を求めてるんだ。俺の唯一を貶すな。お前のように見透かしたような面ばかりの奴に、俺の何がわかる…
そこにいたのは、高校時代の女友達だった秀才の粟村。うるさい。5歳にも満たなかった子どもに何を求めてるんだ。俺の唯一できたことを貶すな。お前のように見透かしたような奴に、俺の何がわかる…
「そんなんだから、あんた化け物になったんだよ」
そこには幼かった自分の姿はなかった。居たのは白銀の烏ーーー異形と化した花森剣人。
「ーーーえっ」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

2020年4月16日、木曜日。花森剣人が目を冷ますと、まず視界に入ってきたのは清潔感を感じさせる白い天井だった。ここは…どこだ?続いて感じたのは手に感じる柔らかな温み。まだ半開きの目線が、その温みを辿る。そこには疲れた顔で自分を見守る母、純子の姿があった。
「…母…さん?」
「…けん…?…けん…!よかった…」
母の頬が涙で濡れる。ああ…また泣かせてしまった…幼いころから不登校だったことから、苦労をかけてしまったと思う故か、母の泣き顔には罪悪感をどうにも感じてしまう。だけど、良かった…母さんが居てくれて。酷く悪い夢でも見ていたんだ。そうだ、あんな特撮みたいなこと、あるわけないじゃないか。そう思うと、剣人自身の頬にも自然と涙が伝った。
「ごめんね」
「…ううん、心配だったけど無事でよかった。大変だったね」
顔をくしゃくしゃにしながら、労りの言葉をかけてくれる母の思いやりが嬉しい。しかし、"大変だった"…確かにその通りだ。でも、あれは夢だろう?なんで母さんが"大変だった"と思うんだ?そもそも、どうして俺は今、この病室のベッドに居るんだ…?
「…母さん、俺…どこで見つかったの?」
状況から察するに、誰かが自分を見つけなければここには居らず、また母たち家族にも伝わることはない。あの出来事や状況に対しても、今の状況の確認という意味でもそう聞いてみた。
「…朝憧市のあの展望台の近く、あるでしょう?あの近くの畦道だって、警察の方から…」
情景がありありと浮かんでくる。あれは…夢じゃない?俄には信じられない。いや、認められない。ただ、事実として自分はあの場所にいた。その事実が、剣人の顔を恐怖にひきつらせた。
「…けん?…どうしたの…?」
その様子に、純子もまた神妙な面持ちで息子の思いを窺う。息子を気遣い、すぐには何も聞かないつもりだっただけに、彼女は慎重にそれだけを問いかけた。
「……」
しかしすぐには答えることは出来ない。どう説明すればいい?色々しんどくなって自転車で彷徨ってたら、どういうわけか烏みたいな格好の怪物に襲われた。気づいたら自分もその似姿になってて、恐怖と無我夢中で狂乱してそこから逃げようとしたーーーそんな荒唐無稽な話、或いは母にさえ信じてもらえるかわからないし、自分でも受け止めきれなかった。
「思い出させたりしてしんどかったら、ごめん。無理しないでいいよ…今は眠りな」
眉根を寄せ、考え込んでいる様子の剣人の姿に、純子はその心中の全てを察することは出来なかったが、やはり今は深く事情を聞くことは躊躇われたのだろう。
「とにかく目が覚めて良かった」そう続けて話を一度切り上げようとしたが、剣人が咄嗟にそれを遮る。
「えっと…それが…襲われたんだ。何か、変な奴に」
どうにか意を決して一応の説明を始めた出だしは、そんな言葉からだった。病室の窓から見える景色は、あの出来事などまるで気にも止めないような青空だった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





      

そこは公園の砂場だった。地域の親子が集まっているのだろう。子ども達が遊び、親達がそれを見守る。ありふれていたはずだが、少し変わってしまったかもしれない光景。そこに幼い花森剣人がいた。家から持ってきたおもちゃと、自分なりの空想を掛け合わせて、楽しいものを見つけようと心や身体を動かす。母の純子(すみこ)は、近隣に住む他の子の母親と世間話をしつつ、こちらに目配せする。そんな母と目が合うと、親子は互いに微笑んだ。それは、まだ何も知らなかったころの記憶。誰かとの歪な関わり方も知らなかったころのこと。だが、ふと幼い剣人は後ろを振り向く。そこには困って泣きそうな顔をした他の子どもの姿があった。泣き顔の彼の目線の先には、先ほどまで彼のもとにあったおもちゃが、また別の手に渡っていた。嫌な感覚がした。理不尽を感じるのも、彼が泣くのも、嫌だと思った。おもちゃを取った子の意識が他に向いたのか、一瞬その場を離れたところへ剣人は向かう。彼はそこに転がっていた泣いている子のおもちゃを手に取り、彼のもとに届けた。だけど、仕返しが来ないか怖くなって、剣人は母の方を少し見る。純子は何とも驚いた表情をしていた。それは、少しだけ何か出来たような気がした記憶。
しかしそこに、いないはずの誰かの声が聞こえた。
「"取り返す"なんてやり方しないで済んだら良かったのにね」
そこにいたのは、高校時代の女友達だった秀才の粟村。うるさい。5歳にも満たなかった子どもに何を求めてるんだ。俺の唯一できたことを貶すな。お前のように見透かしたような奴に、俺の何がわかる…
「そんなんだから、あんた化け物になったんだよ」
そこには幼かった自分の姿はなかった。居たのは白銀の烏ーーー異形と化した花森剣人。
「ーーーえっ」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

2020年4月16日、木曜日。花森剣人が目を冷ますと、まず視界に入ってきたのは清潔感を感じさせる白い天井だった。ここは…どこだ?続いて感じたのは手に感じる柔らかな温み。まだ半開きの目線が、その温みを辿る。そこには疲れた顔で自分を見守る母、純子の姿があった。
「…母…さん?」
「…けん…?…けん…!よかった…」
母の頬が涙で濡れる。ああ…また泣かせてしまった…幼いころから不登校だったことから、苦労をかけてしまったと思う故か、母の泣き顔には罪悪感をどうにも感じてしまう。だけど、良かった…母さんが居てくれて。酷く悪い夢でも見ていたんだ。そうだ、あんな特撮みたいなこと、あるわけないじゃないか。そう思うと、剣人自身の頬にも自然と涙が伝った。
「ごめんね」
「…ううん、心配だったけど無事でよかった。大変だったね」
顔をくしゃくしゃにしながら、労りの言葉をかけてくれる母の思いやりが嬉しい。しかし、"大変だった"…確かにその通りだ。でも、あれは夢だろう?なんで母さんが"大変だった"と思うんだ?そもそも、どうして俺は今、この病室のベッドに居るんだ…?
「…母さん、俺…どこで見つかったの?」
状況から察するに、誰かが自分を見つけなければここには居らず、また母たち家族にも伝わることはない。あの出来事や状況に対しても、今の状況の確認という意味でもそう聞いてみた。
「…朝憧市のあの展望台の近く、あるでしょう?あの近くの畦道だって、警察の方から…」
情景がありありと浮かんでくる。あれは…夢じゃない?俄には信じられない。いや、認められない。ただ、事実として自分はあの場所にいた。その事実が、剣人の顔を恐怖にひきつらせた。
「…けん?…どうしたの…?」
その様子に、純子もまた神妙な面持ちで息子の思いを窺う。息子を気遣い、すぐには何も聞かないつもりだっただけに、彼女は慎重にそれだけを問いかけた。
「……」
しかしすぐには答えることは出来ない。どう説明すればいい?色々しんどくなって自転車で彷徨ってたら、どういうわけか烏みたいな格好の怪物に襲われた。気づいたら自分もその似姿になってて、恐怖と無我夢中で狂乱してそこから逃げようとしたーーーそんな荒唐無稽な話、或いは母にさえ信じてもらえるかわからないし、自分でも受け止めきれなかった。
「思い出させたりしてしんどかったら、ごめん。無理しないでいいよ…今は眠りな」
眉根を寄せ、考え込んでいる様子の剣人の姿に、純子はその心中の全てを察することは出来なかったが、やはり今は深く事情を聞くことは躊躇われたのだろう。
「とにかく目が覚めて良かった」そう続けて話を一度切り上げようとしたが、剣人が咄嗟にそれを遮る。
「えっと…それが…襲われたんだ。何か、変な奴に」
どうにか意を決して一応の説明を始めた出だしは、そんな言葉からだった。病室の窓から見える景色は、あの出来事などまるで気にも止めないような青空だった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー