4.提示と世間体 version 4

2023/05/28 09:45 by someone
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4.
「おお、花っちどしたーー」
「ハッサン、無事か?」
英道大学より数十メートル離れた街道。花森健人はスマートフォン越しに桧山初樹に早口で言った。息が未だ少し乱れる。
「え?ああ、こっちは特に何も」
「無事なんだな!?」
「ああ、大丈夫…どしたんだよ」
捲し立てるように必死に問う健人に、初樹は気圧されながらも応じた。健人は大きく息を吐き、「良かった」と零すとすぐに状況を伝えた。
「怪物関係の奴にまた襲われた」
「えっーー!」
「でもそいつ人間の男みたいな奴で、けど無茶苦茶強くて…そいつハッサンの存在も認知してる」
初樹が息を飲む音が聞こえる。そして直後にその声が、互いを案じる真剣で速いものへと変わった。
「マジかよ…わかった、そっち行く!今どこ?」
「待って、多分俺と合流しない方がいい」
「どうしてーー」
「奴の狙いは俺のブレスレットみたいだけど、奴はハッサンの存在をプレッシャーに使ってきた」
「…そういうことか」
卑劣だが効果的な手段を抜かりなく使ってくる。そんな手合いが敵となっている状況に、健人は言いながら戦慄する。
「ああ、近くにいたら危険かもしれない。でもハッサンも狙われてる」
「なら尚更合流しよう。抵抗の力としても、花っちの大切なものって意味でも、ブレスレットは渡せないだろ」
「でも二人の命に関わるし、ハッサンがーー」
その予想だにしなかった回答ーー初樹の即座の決断に、健人は胸の内を震わされる。しかしどちらも危険な事態であることは変わらない。或いはそれ故にかーー。
「いっそ力を持った花っちとの方が、安全だ。今もこうして退けて、話をしてるんだから」
そう言った初樹の言葉には肝が座ったものを感じざるを得ない。それに影響されてか健人も今は、腹を括った。
「…いいんだな?」
「ああ」
「わかった。今、北西部だよな?ハッサン。なら俺のバイト先で合流しよう。安場佐田、丁度大学と北西部の中間近くだ」
「わかった。今、北西部だよな?ハッサン。なら俺のバイト先の安場佐田で合流しよう。丁度大学と北西部の中間近くだ」
「わかった、すぐ行く」
そうして合流地点を打ち合わせ、通話を切った時には、健人は自身の前を睨み付けていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

安場佐田に先に着いたのは健人だった。その腹積もりとしては、先の沢村智輝に当たって事件の情報を集めること、そのために店長から名刺を拝借する必要があった。事件の情報を突破口とし、怪物達の動きを先読みして立ち回る。具体性はなく、希望的観測とさえ呼べない蜘蛛の糸。しかしそれを省みる余裕もない。このままじっとしていても、襲撃されるのを待つだけだ。そんなこと、冗談ではなかった。意を決して店の戸を開ける。そこにいたのはカウンターで話をしている佐田と沢村だった。
「あ…お疲れ様です、店長」
「花森、どうした。昼のシフトは入ってなかったろう」
「ええ、あの…」
意外な展開に健人は目を丸くして佐田と沢村を見る。そして二人の間のカウンターに光る、先の銀のロケット。
「あ、そのロケット。お買い上げになるんですか?」
「ええ、まあ…何と言いますか、願掛けです」
そう言うと沢村は視線をロケットに落とす。そして会計を終えると、佐田に静かに礼を言った。
「ありがとうございます、ご主人。何を差し置いてでも、あの人を見つけます」
「大切な人なら、尚更です。幸運を」
そう返すと、佐田はロケットを丁寧に包装し、沢村へと手渡す。そのまま挨拶し、安場佐田を後にしようとした沢村の背に健人は声をかけた。
「待ってください、その事で少しお話があるんです」
「えっ——」
「できれば、外でお話したいんですが」
驚く沢村をそのまま外に連れ出そうと、健人は彼を誘導する。だが佐田がすぐに口を挟んできた。
「花森、一体どうした。店やお客さんに関わることなら——」
「店長すみません、それはまた今度!」
「おい!」
そのまま健人は沢村と共に、そそくさと安場佐田を後にする。バタバタと去っていく若者二人のその様に、佐田の年老いた身体では追いつけなかった。
そして店に残された佐田は一人、ポツリとアルバイトへの杞憂を口にした。
「アイツ、首突っ込みすぎてないだろうな。おい——」

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

「もしもし、ハッサン俺だ。ああ、例の彼氏さんに今当たれた。安場佐田からちょい離れた公園にい。えっと、ここは——」
「もしもし、ハッサン俺だ。ああ、例の彼氏さんに今当たれた。で、ちょっとその関係で合流地点を変更したい。安場佐田からちょい離れた公園、わか?——」
「あの、お話というのは何です?私も早く探すのに戻らないといけない」
初樹に電話する健人に、沢村が苛立ちながら言。その様に健人は罪悪感を抱き、「すみませんホント」と即答すると、すぐに電話を切る。
初樹に電話する健人に、沢村が苛立って口を挟んだ。その様に健人は罪悪感を抱き、「すみませんホント」と即答すると、すぐに電話を切る。
「悪い、なんとか探してくれ。すぐ来てくれよ」
電話を切ると、沢村はすぐに問いを投げかけてきた。
「あなたは咲良のことを何か知っているのですか?もしそうなら、どうしてあの時――」
「俺も確信は持ててはなかったんです。今も可能性レベルの話で」
「俺も確信は持ててはなかったんです。今も可能性レベルの話で「どういう意味です?」
沢村に更に詰め寄られる。同時に健人は、自身の詰めの甘さを悟った。真壁咲良の事件と、怪物という非日常との関連を証明する術がない。初樹が何か掴んでいることにかけるより他はなかった。
「…真壁咲良さん捜索の掲示を、英道大学で見ました。彼女が最後に目撃されたのは、朝憬市北西部ですよね?ーー」

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

「随分と豪胆な手段を使う」
朝憬市北西部、商業区の裏通り。その道を行くエヴルアに、向かい側からやってきた神父が言った。対するエヴルアはその言葉に耳を貸すことはなく、そのまま歩き去ろうとする。
「手が必要かね?」
「俺の領分だと言ったはずだ」
エヴルアがそれだけ言い放った直後、神父が銀のライフルを抜き、その黒い背に向けた。
「前々から貴殿はどうにもーー信用ならない」
そう結んだ神父の語気は、圧力を含んでいる。だがエヴルアはそれを一蹴し、嘲笑さえした。
「俺たちにそんな連帯があった方が驚きだ」
その様に神父も渇いた笑み浮かべてみせる。空虚な嗤いが二つ、裏通りに響くも、直後に神父は銃を撃った。その音と共に両者の姿が変わる。互いの得物と体躯が、凄まじい膂力で衝突した。
「馬鹿を言え。絶望しかない我々が、信頼など」
「ああそうだな、全く」




「中でも貴殿は特にだよ、エヴルア。なぜイレギュラーに気取られるような真似をした!」

「おとなしく貴様らに踊らされるつもりもないだけよ。アレにプロテクトがかけられていることを、俺が知らないとでも思っていたか!」

「俺は慎重を期したまでよ。得体の知れぬものに、一度でカタをつけようなど、それこそ浅はかな真似をするつもりはない!」      

「おお、花っちどしたーー」
「ハッサン、無事か?」
英道大学より数十メートル離れた街道。花森健人はスマートフォン越しに桧山初樹に早口で言った。息が未だ少し乱れる。
「え?ああ、こっちは特に何も」
「無事なんだな!?」
「ああ、大丈夫…どしたんだよ」
捲し立てるように必死に問う健人に、初樹は気圧されながらも応じた。健人は大きく息を吐き、「良かった」と零すとすぐに状況を伝えた。
「怪物関係の奴にまた襲われた」
「えっーー!」
「でもそいつ人間の男みたいな奴で、けど無茶苦茶強くて…そいつハッサンの存在も認知してる」
初樹が息を飲む音が聞こえる。そして直後にその声が、互いを案じる真剣で速いものへと変わった。
「マジかよ…わかった、そっち行く!今どこ?」
「待って、多分俺と合流しない方がいい」
「どうしてーー」
「奴の狙いは俺のブレスレットみたいだけど、奴はハッサンの存在をプレッシャーに使ってきた」
「…そういうことか」
卑劣だが効果的な手段を抜かりなく使ってくる。そんな手合いが敵となっている状況に、健人は言いながら戦慄する。
「ああ、近くにいたら危険かもしれない。でもハッサンも狙われてる」
「なら尚更合流しよう。抵抗の力としても、花っちの大切なものって意味でも、ブレスレットは渡せないだろ」
「でも二人の命に関わるし、ハッサンがーー」
その予想だにしなかった回答ーー初樹の即座の決断に、健人は胸の内を震わされる。しかしどちらも危険な事態であることは変わらない。或いはそれ故にかーー。
「いっそ力を持った花っちとの方が、安全だ。今もこうして退けて、話をしてるんだから」
そう言った初樹の言葉には肝が座ったものを感じざるを得ない。それに影響されてか健人も今は、腹を括った。
「…いいんだな?」
「ああ」
「わかった。今、北西部だよな?ハッサン。なら俺のバイト先の安場佐田で合流しよう。丁度大学と北西部の中間近くだ」
「わかった、すぐ行く」
そうして合流地点を打ち合わせ、通話を切った時には、健人は自身の前を睨み付けていた。

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安場佐田に先に着いたのは健人だった。その腹積もりとしては、先の沢村智輝に当たって事件の情報を集めること、そのために店長から名刺を拝借する必要があった。事件の情報を突破口とし、怪物達の動きを先読みして立ち回る。具体性はなく、希望的観測とさえ呼べない蜘蛛の糸。しかしそれを省みる余裕もない。このままじっとしていても、襲撃されるのを待つだけだ。そんなこと、冗談ではなかった。意を決して店の戸を開ける。そこにいたのはカウンターで話をしている佐田と沢村だった。
「あ…お疲れ様です、店長」
「花森、どうした。昼のシフトは入ってなかったろう」
「ええ、あの…」
意外な展開に健人は目を丸くして佐田と沢村を見る。そして二人の間のカウンターに光る、先の銀のロケット。
「あ、そのロケット。お買い上げになるんですか?」
「ええ、まあ…何と言いますか、願掛けです」
そう言うと沢村は視線をロケットに落とす。そして会計を終えると、佐田に静かに礼を言った。
「ありがとうございます、ご主人。何を差し置いてでも、あの人を見つけます」
「大切な人なら、尚更です。幸運を」
そう返すと、佐田はロケットを丁寧に包装し、沢村へと手渡す。そのまま挨拶し、安場佐田を後にしようとした沢村の背に健人は声をかけた。
「待ってください、その事で少しお話があるんです」
「えっ——」
「できれば、外でお話したいんですが」
驚く沢村をそのまま外に連れ出そうと、健人は彼を誘導する。だが佐田がすぐに口を挟んできた。
「花森、一体どうした。店やお客さんに関わることなら——」
「店長すみません、それはまた今度!」
「おい!」
そのまま健人は沢村と共に、そそくさと安場佐田を後にする。バタバタと去っていく若者二人のその様に、佐田の年老いた身体では追いつけなかった。
そして店に残された佐田は一人、ポツリとアルバイトへの杞憂を口にした。
「アイツ、首突っ込みすぎてないだろうな。おい——」

「もしもし、ハッサン俺だ。ああ、例の彼氏さんに今当たれた。で、ちょっとその関係で合流地点を変更したい。安場佐田からちょい離れた公園、わかる?——」
「あの、お話というのは何です?私も早く探すのに戻らないといけない」
初樹に電話する健人に、沢村が苛立って口を挟んだ。その様に健人は罪悪感を抱き、「すみませんホント」と即答すると、すぐに電話を切る。
「悪い、なんとか探してくれ。すぐ来てくれよ」
電話を切ると、沢村はすぐに問いを投げかけてきた。
「あなたは咲良のことを何か知っているのですか?もしそうなら、どうしてあの時――」
「俺も確信は持ててはなかったんです。今も、可能性レベルの話で…」
「どういう意味です?」
沢村に更に詰め寄られる。同時に健人は、自身の詰めの甘さを悟った。真壁咲良の事件と、怪物という非日常との関連を証明する術がない。初樹が何か掴んでいることにかけるより他はなかった。
「…真壁咲良さん捜索の掲示を、英道大学で見ました。彼女が最後に目撃されたのは、朝憬市北西部ですよね?ーー」

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「随分と豪胆な手段を使う」
朝憬市北西部、商業区の裏通り。その道を行くエヴルアに、向かい側からやってきた神父が言った。対するエヴルアはその言葉に耳を貸すことはなく、そのまま歩き去ろうとする。
「手が必要かね?」
「俺の領分だと言ったはずだ」
エヴルアがそれだけ言い放った直後、神父が銀のライフルを抜き、その黒い背に向けた。
「前々から貴殿はどうにもーー信用ならない」
そう結んだ神父の語気は、圧力を含んでいる。だがエヴルアはそれを一蹴し、嘲笑さえした。
「俺たちにそんな連帯があった方が驚きだ」
その様に神父も渇いた笑み浮かべてみせる。空虚な嗤いが二つ、裏通りに響くも、直後に神父は銃を撃った。その音と共に両者の姿が変わる。互いの得物と体躯が、凄まじい膂力で衝突した。
「馬鹿を言え。絶望しかない我々が、信頼など」
「ああそうだな、全く」

「中でも貴殿は特にだよ、エヴルア。なぜイレギュラーに気取られるような真似をした!」

「おとなしく貴様らに踊らされるつもりもないだけよ。アレにプロテクトがかけられていることを、俺が知らないとでも思っていたか!」

「俺は慎重を期したまでよ。得体の知れぬものに、一度でカタをつけようなど、それこそ浅はかな真似をするつもりはない!」