然る者の手記 version 8
然る者の手記
現段階で私が有する情報をここに記録する。
現段階で私が有する記録をここに記す。
この足跡を辿り、この意思を継ぐ者。そして優しさと希望に足掻く人々のためにーー。
1.青年
彼の"青年"の事件の取材に於いて、不可解な点が散見されたことから本調査は始まった。
当時、官僚によって秘匿されていたビデオーー青年が入院していた"朝憬市立病院精神科"保護室の監視カメラの映像を、協力者(政府筋である)によるリークで確認することができた。
そこには、青年が"異形の怪物"に襲われる姿が映っていた。時間は午後22:46。だがそれだけではない。
次の瞬間には虚空からブレスレット状の装飾品が現れ、青年の左腕に装着。彼の姿を"白い異形"に変えた。
異形の怪物二体は激しく揉み合い、その後看護師達が保護室に入る前に、虚空に生じた孔にその姿を消した。以後、青年の姿がこの映像に映ることはなかった。
2.怪物
青年はどこに行ったのか、あの二体は何者か。当時より朝憬市では、ある都市伝説が唱われていた。
「暗い影から怪物が人を拐う、"神隠し"」
「暗い影から怪物が人を攫い、"神隠し"」
あまりにオカルトを想起させる内容であるが、それが青年の事件で実証されたのである。自治体並びに政府は、大衆の目に触れる前に、この事件の存在そのものを秘匿しようとした。
しかしこの事件だけなら、そのための大仰な情報操作などを行う必要はまだ薄い。事態を公表した方が、世論を鑑みてもまだ合理的。
そこにはある"密約"があった。
3.密約
先のリークを以て協力者と私は、政府官僚らに関する情報と、私が調べた怪物の情報とを取引する運命共同体となっていた。
この関係を通して、"密約"の存在を知る。
それによると、怪物らは自身ら種の名を、人類の言語で相当するものとして"エクリプス"と名乗ったという。そして彼らが政府との交渉の席で提示した密約の内容はこうだった。
「朝憬市を植民地としてエクリプスに譲渡すること」
当然、政府関係者は皆、この要求を棄却せんとした。一部と言えど、国家がこのような侵略に屈することなどあってはならない。
ましてその存在も理解できないものに服従するなど言語道断であった。
しかしこの時、上空35kmより我が国の領海に大規模攻撃が為されたという報が入る。
国内をパニックを引き起こしたこの事件は、光学迷彩を施したエクリプスの"船"による攻撃だった。その威力を前に、エビデンスを確認した我が国は、国家全体の安全を条件に、エクリプスとこの密約を交わしたという。
しかしこの時、上空35kmより我が国の領海に大規模攻撃が為された旨の報が入る。
国内にパニックを引き起こしたこの事件は、光学迷彩を施したエクリプスの"箱船"による攻撃だった。その威力を前に、エビデンスを確認した我が国は、国家全体の安全と秘密保持を条件に、エクリプスとこの密約を交わした。
4.追加文
4.エクリプスの活動
エクリプスは我々人類に擬態することが可能である。そして協力者から得た更なる情報では、彼らは外宇宙か多元的世界から飛来した存在と目される。エビデンスとしては、彼らが人知を越えた力を行使したとき、そこに残存する粒子は、この地球には存在し得ないもので、また人類の叡知を以て解析しきれるものではなかった。
こう記すとあまりに突飛な内容ばかりであるが、ここまでに記した全てに彼らは確かに存在していた痕跡として、この粒子の存在も見られた。
上述の大規模攻撃のこともあり、この未知の存在との抗争へ突入することとなればーー
他国への報せも禁ずとしたエクリプスに対し、我が国の閣僚の脳裏は、その恐れに支配された。
エクリプスの生態に話を戻す。
彼らのその主たる活動で、現段階で判明しているのは二つ。
一つは先に上げた"神隠し"。即ち朝憬市での失踪事件である。これに関して被害者には皆、一貫してある共通点があった。
それは「何らかの精神的苦痛、苦難を抱いている」という事実が見られたことだ。エクリプスらが関わっていると見られる一連の失踪事件には必ずその事象が付いて回った。先の青年ももちろん例外ではない。
そしてもう一つの活動は、エクリプスが何かを追跡していることである。エクリプスと目される存在は朝憬市の西、町外れに位置する展望台の周辺に於いてその目撃情報が多かった。そして目撃情報は次第に南に向けて増えていく。そして朝憬市の南西には、先に上げた朝憬市立病院が位置していた。
ここから先は記者として私による記録ではなく、一個人としての私が一連の事実から推察したものである。
エクリプスらが探していたものは、先の青年が持っていたブレスレットではないだろうか。
青年の事件で現れた怪物は、そのブレスレットを奪い取らんとしていた。エクリプスのように知性の高い種が、病院にある青年を襲撃するという行為の意味を認識していなかったとは考えにくい。
人類社会を欺き、秘密裏に人々を害してきた彼らが、その存在を当該病院から社会の明るみへと暴露することにかねないのだ。にも拘らずそんな行為に走ったことには、エクリプスが彼のブレスレットを重要視していたことが見て取れる。
現在、青年に関する情報は国内で一切極秘事項となっており、私も触れることは完全に叶わなくなってしまった。そしてブレスレットの持つ意味も、青年の身体を変身させたことしか私には見られなかった。
しかしあのブレスレットの所在がエクリプス達への反抗の兆しとなり得る。その一縷の可能性と、犠牲になった人々の存在、その意味が棄て去られてしまう前に、この記録と推察を受け継ぐ者が現れることを切に望む。
人の世の切なき醜悪に、絶望しゆく屍となろうこの身だが、ただここに祈ろうーー。
どうか今一度、ここより望みが紡がれることを。
ギルです。モル、すみません…例の目的の文章まではまだまだ書けてませんが、追って加筆するので一先ずこれだけアップさせていただきます。またこれでいけそうかを窺えたら…
それと一つ力を貸して頂きたく…エクリプスの目的ってどうなるでしょうか?それに応じてブレスレットや、それを持つ健人達の内容も決まるので、アイデアがあれば窺いたいのです。
参考までに、ギルの案を提示しておきます。
エクリプスという種、その目的
強くあらねば滅ぶ。その絶望を克服すべく
他者の絶望を喰らう種
⇒そのために自身らをより強くし得る
ネーゲルとブレスレットの魔法に強く
関心を抱き、そのデータを収集すべく
生かさず殺さずのヒーローごっこをさせる
上坂伊織
現段階で私が有する記録をここに記す。
この足跡を辿り、この意思を継ぐ者。そして優しさと希望に足掻く人々のためにーー。
1.青年
彼の"青年"の事件の取材に於いて、不可解な点が散見されたことから本調査は始まった。
当時、官僚によって秘匿されていたビデオーー青年が入院していた"朝憬市立病院精神科"保護室の監視カメラの映像を、協力者(政府筋である)によるリークで確認することができた。
そこには、青年が"異形の怪物"に襲われる姿が映っていた。時間は午後22:46。だがそれだけではない。
次の瞬間には虚空からブレスレット状の装飾品が現れ、青年の左腕に装着。彼の姿を"白い異形"に変えた。
異形の怪物二体は激しく揉み合い、その後看護師達が保護室に入る前に、虚空に生じた孔にその姿を消した。以後、青年の姿がこの映像に映ることはなかった。
2.怪物
青年はどこに行ったのか、あの二体は何者か。当時より朝憬市では、ある都市伝説が唱われていた。
「暗い影から怪物が人を攫い、"神隠し"」
あまりにオカルトを想起させる内容であるが、それが青年の事件で実証されたのである。自治体並びに政府は、大衆の目に触れる前に、この事件の存在そのものを秘匿しようとした。
しかしこの事件だけなら、そのための大仰な情報操作などを行う必要はまだ薄い。事態を公表した方が、世論を鑑みてもまだ合理的。
そこにはある"密約"があった。
3.密約
先のリークを以て協力者と私は、政府官僚らに関する情報と、私が調べた怪物の情報とを取引する運命共同体となっていた。
この関係を通して、"密約"の存在を知る。
それによると、怪物らは自身ら種の名を、人類の言語で相当するものとして"エクリプス"と名乗ったという。そして彼らが政府との交渉の席で提示した密約の内容はこうだった。
「朝憬市を植民地としてエクリプスに譲渡すること」
当然、政府関係者は皆、この要求を棄却せんとした。一部と言えど、国家がこのような侵略に屈することなどあってはならない。
ましてその存在も理解できないものに服従するなど言語道断であった。
しかしこの時、上空35kmより我が国の領海に大規模攻撃が為された旨の報が入る。
国内にパニックを引き起こしたこの事件は、光学迷彩を施したエクリプスの"箱船"による攻撃だった。その威力を前に、エビデンスを確認した我が国は、国家全体の安全と秘密保持を条件に、エクリプスとこの密約を交わした。
4.エクリプスの活動
エクリプスは我々人類に擬態することが可能である。そして協力者から得た更なる情報では、彼らは外宇宙か多元的世界から飛来した存在と目される。エビデンスとしては、彼らが人知を越えた力を行使したとき、そこに残存する粒子は、この地球には存在し得ないもので、また人類の叡知を以て解析しきれるものではなかった。
こう記すとあまりに突飛な内容ばかりであるが、ここまでに記した全てに彼らは確かに存在していた痕跡として、この粒子の存在も見られた。
上述の大規模攻撃のこともあり、この未知の存在との抗争へ突入することとなればーー
他国への報せも禁ずとしたエクリプスに対し、我が国の閣僚の脳裏は、その恐れに支配された。
エクリプスの生態に話を戻す。
彼らのその主たる活動で、現段階で判明しているのは二つ。
一つは先に上げた"神隠し"。即ち朝憬市での失踪事件である。これに関して被害者には皆、一貫してある共通点があった。
それは「何らかの精神的苦痛、苦難を抱いている」という事実が見られたことだ。エクリプスらが関わっていると見られる一連の失踪事件には必ずその事象が付いて回った。先の青年ももちろん例外ではない。
そしてもう一つの活動は、エクリプスが何かを追跡していることである。エクリプスと目される存在は朝憬市の西、町外れに位置する展望台の周辺に於いてその目撃情報が多かった。そして目撃情報は次第に南に向けて増えていく。そして朝憬市の南西には、先に上げた朝憬市立病院が位置していた。
ここから先は記者として私による記録ではなく、一個人としての私が一連の事実から推察したものである。
エクリプスらが探していたものは、先の青年が持っていたブレスレットではないだろうか。
青年の事件で現れた怪物は、そのブレスレットを奪い取らんとしていた。エクリプスのように知性の高い種が、病院にある青年を襲撃するという行為の意味を認識していなかったとは考えにくい。
人類社会を欺き、秘密裏に人々を害してきた彼らが、その存在を当該病院から社会の明るみへと暴露することにかねないのだ。にも拘らずそんな行為に走ったことには、エクリプスが彼のブレスレットを重要視していたことが見て取れる。
現在、青年に関する情報は国内で一切極秘事項となっており、私も触れることは完全に叶わなくなってしまった。そしてブレスレットの持つ意味も、青年の身体を変身させたことしか私には見られなかった。
しかしあのブレスレットの所在がエクリプス達への反抗の兆しとなり得る。その一縷の可能性と、犠牲になった人々の存在、その意味が棄て去られてしまう前に、この記録と推察を受け継ぐ者が現れることを切に望む。
人の世の切なき醜悪に、絶望しゆく屍となろうこの身だが、ただここに祈ろうーー。
どうか今一度、ここより望みが紡がれることを。
上坂伊織