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朝憬への詩 番外編1 心羽のユージョアル・バースデー
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第一章と第二章の間にある心羽の誕生日関連の物語。本編時間軸と噛み合うが、別の世界線のお話。 シーン1 「欲しいもの」 中心人物:心羽、詩乃 毎年この時期になると、詩乃はプレゼントの準備をするらしく、心羽に欲しいものをそれとなく聞いてくる。今年の聞き方は「もし道端で1000ダイヤを拾ったらどうする?」だった。それは窃盗だよとツッコミを入れるも、心羽はそれといった欲しいものがない。なのでいつも適当なものを言って流しているが、毎年プレゼントは予想以上に盛られている。 そう、心羽はなんとなくわかっていた。心羽はものが欲しいのではなく、自由を舞う翼や未来を照らす光といった、夢のような力が欲しいのだ。そしてその翼も光も、今はこの手の中にある。今の心羽にはもう欲しいものはなかった。 シーン2 「普通の誕生日」 中心人物:心羽、遥香 心羽は遥香に聞いてみた。「去年の誕生日、何もらった?」 遥香はお気に入りブランドの服とバッグ、と答えた。今年も同じブランドの服をお願いする、とも。 答えはありきたりなものだったが、心羽にとっては新鮮だった。なぜなら、心羽は服を買ってもらったことがなかった。わざわざ誕生日を待つ前に、いつも欲しい服は自分で買っていたから。 心羽は、家庭環境の違いを痛感した。 「私の家庭環境は普通じゃない…裕福な家なんだ…」 無欲なのは、ほしいものが全て手に入る故なのかもしれない。 シーン3 「夜空の声」 中心人物:心羽 夜遅く、屋上に出て夜風にあたる心羽。ふと、隅に置いてある天体望遠鏡を持ち出して天を覗く。この望遠鏡はたしか、宇宙に興味を持ち始めた5歳のときの誕生日プレゼントだった。 この頃は知ることが好きだった。手元の図鑑とあわせて、夜空に浮かぶ星座の姿を網羅するほどに。でも今は、知りたくなかったことまで知ってしまう… 親からのプレゼントを、欲しいものがある遥香に渡すことも考えたが、親は自分に渡したいはずだと考え、きちんと受け取ることにした。でも、私より裕福でない家庭がたくさんあるのに、私はなにを欲しがるべきなのか… 星空は答えてくれないが、きっと聞いてくれただろう。 シーン4 「プレゼントとは贈り物」 人物:心羽、拓夢 この日は拓夢の家に呼ばれて遊びに行った。遠い家だが、羽の使者IIの魔法で滑空すれば、そこまでかからなかった。 拓夢は両親を持たない。家にお邪魔しても二人っきり。拓夢はここで静かな暮らしを送っていると思うと寂しいが、拓夢自身は底抜けに明るかった。拓夢は誕生日に祝ってもらったことはないが、拓夢の誕生日を知っている近所の農夫が、サプライズでプレゼントをくれるらしい。毎年、何がもらえるか楽しみだという。心羽はそんな生活も羨ましいと感じた。 なぜそんな話をするのかと聞かれたため、今日が誕生日であることを打ち明けた。それを聞いた拓夢は、自身の畑で収穫したであろう人参を3本ほど持ってきて、売り場に並べるときのように紙に包んで渡してくれた。 貰ったものは3本の人参だが、心羽は嬉しかった。まだ会ったばかりの拓夢が、私の誕生日を祝おうとしてくれたから。 心羽は、何をもらうかではなく、誰にもらうかが大事なのを知った。同時に、親が毎年送ってくれるプレゼントを、もっと大事にしようと思った。 人を喜ばせるのに裕福かどうかは関係なく、結局はその人次第なのかもしれない。 シーン5 「ユージョアル・バースデー」 人物:心羽、詩乃、明 拓夢の家でゆったりとした時間を過ごした誕生日の一日。自宅に着くも、家の灯りが付いていない。帰りが遅かったとはいえ、まさか誕生日の夜に1人で過ごすことになるなんて。 そう思い少し寂しさを感じながら玄関を開けた。その瞬間、目の前が突然に明るくなり、何人もの「ハッピーバースデー!!」の声が響いた。心羽は驚いて尻餅をつくが、それ以上に驚いたのは遥香、亮、碧の存在だった。いつもは両親と3人で誕生日会をしていたため、予想だにしていなかった。誕生日プレゼントをどうするか悩んでいた心羽を、遥香が察して自身と亮と碧で誕生日会に来てくれたのだろう。 そう思った途端、心羽は思わず泣きそうになる。 何をもらうかではなく、誰が祝ってくれるかが大事——— それを遥香は知っていて、教えてくれようとしたんだ。さっき学んだばかりのことを、再び強く胸に刻んだ。目に浮かんだ涙は、さっきの尻餅のせいでお尻が痛かったことにした。 普段より豪華になった食卓を、初めてのメンバー囲む。心羽にとって忘れられない一日になった。 エピローグ 人物:心羽 もらったものを他の誰かに渡すのは、くれた人の気持ちに沿わないかもしれない。この前はそんな考えをしていた。 でも今の心羽は、不器用ながらにも手作業で、なんと包丁で人参の皮をむいている。そうこの人参は、あの時拓夢からもらったもの。この人参で夕食のシチューを作るのだ。もらったものに心を込め、両親に食べさせてあげたい。心羽はその一心で、ほぼ詩乃の専用スペースだった台所を独占してまで手作りのシチューを完成させたのだった。 もちろん、不器用な心羽に美味しい手料理が作れるなど、天地がひっくり返っても有り得ないが、両親は笑って食べてくれたのでした。
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