こはる:EPISODE1 version 3

2025/09/30 15:53 by usa-cherry-rabbits
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こはる:EPISODE1
(衝動の始まりは、親友の誘い。卯月 こはる、17歳。彼女の放課後は、いつもと変わらない退屈な時間だった。が、その日は違った。同級生の桜島 奈々が、興奮した様子でこはるに詰め寄ってきたのだ。「こはる、バンド組まない?」奈々は、勉強も運動もそつなくこなす優等生で、周りからは「お嬢様」なんて呼ばれることもあるが、僕の前ではいつも自然体だった。)バンド?奈々が?(僕が目を丸くすると、奈々は少し照れくさそうに笑った。「うん。私、前からギターをやってて。で、他にメンバーがいなくて困ってたんだ。こはる、どうかな?」奈々の誘いは、僕にとって青天の霹靂だった。音楽に特別詳しいわけでもないし、楽器なんて触ったこともない。でも、奈々が自分を頼ってくれたことが、なぜかすごく嬉しかった。) 
僕にできるかな……?(「大丈夫だよ! こはるなら絶対かっこいいドラマーになるって、なんかピンときたんだ」奈々の真っ直ぐな瞳に、僕の心は揺さぶられた。そして、その日の帰り道、奈々が動画配信サイトでドラマーの演奏動画を見せてくれた。腹の底まで響くドラムの音が、僕の心を掴んで離さなかった。規則正しくも自由奔放に打ち鳴らされるビートが、まるで自分の心の叫びみたいに感じられたのだ。)……やってみる(その日から、僕の頭の中はドラム一色になった。動画配信サイトでプロのドラマーの演奏を食い入るように見つめ、エアドラムを叩きながら通学路を歩いた。両親を説得して、ついに初心者向けの電子ドラムを部屋に迎え入れたのが数日前のことだ。最初はスティックを握ることすらぎこちなかったが、叩けば叩くほどに、ドラムは僕の身体に馴染んでいった。放課後、誰にも邪魔されない自分の部屋で、好きなロックバンドの曲を流しながら一心不乱に叩く時間が、僕にとって何よりの楽しみになっていた。)  
	(しかし、一つ問題があった。電子ドラムには一通り備品がついていたものの、練習していくうちに物足りなさを感じるようになったのだ。特に、スティック。付属のものは軽すぎて、どうにも力が入りにくい。もっと色々な音を試したい、もっと深くドラムと向き合いたい。そんな気持ちがこみ上げてきた。そして何より、奈々と一緒に練習する日を夢見ていた。土曜日の昼下がり。僕は普段あまり出かけない繁華街へと足を運んだ。目指すは、駅前の地下にある大きな楽器店。ネットで調べたところ、ドラム関連の品揃えが豊富だという。ジーンズにTシャツ、キャップを被ったラフな格好。ボーイッシュな僕のスタイルは、どこかドラマー然としていて、今日の目的によく似合っていた。)  
	(楽器店の地下フロアに足を踏み入れた途端、僕は一瞬立ちすくんだ。壁一面に並べられたギター、そして奥にはドラムセットが何台も鎮座している。その光景に圧倒されながらも、僕はまっすぐにドラムコーナーへと向かった。ドラムコーナーの一角には、壁一面に何十種類ものドラムスティックが陳列されていた。太さ、長さ、重さ、そして先端のチップの形まで、まるでそれぞれが別の生き物のように個性を持っている。)うわ……どれにすればいいんだよ。(僕は途方に暮れた。これまで使ってきたのは、ただの「スティック」だった。それがこんなにも多くの種類があるなんて、想像もしていなかった。「どうかされましたか?」柔らかな声に振り返ると、そこに立っていたのは、僕より少し年上だろうか、エプロンをつけた女性店員だった。肩までのショートヘアで、優しい笑顔を浮かべている。)
	あ、えっと……スティックを買いに来たんですけど、種類がたくさんありすぎて……(僕が正直に言うと、店員はにこりと笑って頷いた。「わかります。初めてだと迷いますよね。よかったら、いくつか試してみませんか?」店員はそう言って、僕を小さな練習スペースへと案内してくれた。そこには、練習用のスネアドラムとシンバルが置かれていた。「よかったら、今使ってるスティックの重さや、普段どんなジャンルの曲を叩くか教えてもらえますか?」僕は、今使っているスティックは軽すぎるということ、そして、普段は奈々が好きなロックやオルタナティブロックを練習していることを伝えた。店員はいくつかのスティックを棚から取り出し、僕に手渡した。「じゃあ、この3種類を試してみてください。それぞれ重さとチップの形が違うので、叩き比べてみてくださいね」僕は言われるがまま、スティックを握り、スネアドラムを叩き始めた。最初のスティックは、少し太めでずっしりと重い。叩くと、芯のある力強い音が鳴り響いた。)  
	次に握ったのは、少し細身のもの。さっきのものより軽いが、しなやかで扱いやすい。そして最後に試したのは、先端のチップが丸みを帯びたもの。叩くと、柔らかく温かみのある音がした。)うわ……全然違う(それぞれのスティックが、まるで全く異なる音色を生み出すことに、僕は感動した。「好みはありましたか?」店員が尋ねる。)はい。一番最初に叩いた、この重いのが、なんか……しっくりきました。叩いてて気持ちいい(「それは良かったです。じゃあ、こちらにしてみましょうか」僕は、生まれて初めて自分の手で選んだスティックを握りしめ、胸を高鳴らせた。スティックを無事に購入し、僕は次の目的へと進んだ。それは、メトロノーム。)リズム感が大事だって、奈々が言ってたな。
	(電子ドラムにはメトロノーム機能がついているが、もっと直感的に使えるものが欲しいと思っていた。僕がメトロノームのコーナーに足を向けると、そこには様々な形や種類のメトロノームが並んでいた。昔ながらの振り子式、デジタル表示のもの、そしてイヤホンタイプのものまである。)すごい……(再び迷子になりかけたこはるに、先ほどの店員がまた声をかけてくれた。「メトロノームもお探しですか?」)はい。なんか、種類がたくさんあって、どれがいいのかわからなくて(「そうですね。ドラムの練習なら、リズムが細かく設定できるデジタルタイプがおすすめです。特に、最近だとイヤホンタイプも人気ですよ」店員はそう言って、一つの商品を手に取った。それは、まるでワイヤレスイヤホンのような形をしていた。) 
		(「これは、耳に装着して使うタイプです。ドラムの大きな音にかき消されずに、正確なリズムを聴くことができます。携帯アプリと連動して、細かいリズムパターンも設定できるので、初心者の方には特におすすめです」僕は興味津々にそのイヤホンタイプのメトロノームを手に取った。これなら、自宅で練習するときも、家族にリズム音が漏れる心配がない。何より、ドラムの音に集中できるのが魅力的だ。)これにします!(僕は即決した。自分の意志で、自分の練習に必要なものを選んでいくことが、こんなにも楽しいことだとは思わなかった。メトロノームを手に、レジに向かおうとしたこはるの目に、一つの商品が飛び込んできた。それは、鮮やかな色の練習パッドだった。)これは……?
			(「ああ、これはトレーニングパッドです。ドラムセットがなくても、これで基礎練習ができますよ。跳ね返りが本物のドラムに近くなるように作られているんです」店員の説明に、僕は目を輝かせた。自宅に電子ドラムがあるとはいえ、いつでも大きな音を出せるわけではない。夜中や早朝、音が出せない時間帯でも、これで練習ができる。)これ、ください!(僕の心はもう決まっていた。スティック、メトロノーム、そして練習パッド。今日の買い物が、僕のドラム人生の始まりを告げているような気がした。レジを済ませ、重くなった紙袋を提げて店を出た僕は、少しだけ、いや、だいぶ誇らしかった。新しい音と、新しい僕。家に帰り、さっそく買ったばかりのスティックを握り、練習パッドを叩いてみた。)うん、これだ。(これまで使っていたスティックよりも、ずっと手に馴染む。叩くたびに、心地よい跳ね返りが返ってくる。そして、耳にはイヤホン型のメトロノームから正確なリズムが刻まれていた。) 
			よし!(僕は、自分の部屋で一人、新しいスティックと練習パッドを叩き続けた。雨上がりの空が、夕焼けに染まっていく。僕のドラムは、まだ始まったばかり。でも、その音は、確実に力強さを増している。明日は、奈々に連絡して、買ったばかりの備品を見せびらかそう。そして、いつか、奈々のギターと僕のドラムに、羽咲のキーボード。後輩の叶のベースが加わって、最高のバンドになる日を夢見て。僕の胸は、期待と希望でいっぱいだった。僕のドラムは、僕の心の音。そして、その音は、これからもずっと、僕の人生を力強く刻んでいくのだ。) (衝動の始まりは、親友の誘い。卯月 こはる、17歳。彼女の放課後は、いつもと変わらない退屈な時間だった。が、その日は違った。同級生の桜島 奈々が、興奮した様子でこはるに詰め寄ってきたのだ。

「こはる、バンド組まない?」

奈々は、勉強も運動もそつなくこなす優等生で、周りからは「お嬢様」なんて呼ばれることもあるが、僕の前ではいつも自然体だった。)

バンド?奈々が?

(僕が目を丸くすると、奈々は少し照れくさそうに笑った。

「うん。私、前からギターをやってて。で、他にメンバーがいなくて困ってたんだ。こはる、どうかな?」

奈々の誘いは、僕にとって青天の霹靂だった。音楽に特別詳しいわけでもないし、楽器なんて触ったこともない。でも、奈々が自分を頼ってくれたことが、なぜかすごく嬉しかった。)
 
僕にできるかな……?

(「大丈夫だよ! こはるなら絶対かっこいいドラマーになるって、なんかピンときたんだ」

奈々の真っ直ぐな瞳に、僕の心は揺さぶられた。そして、その日の帰り道、奈々が動画配信サイトでドラマーの演奏動画を見せてくれた。腹の底まで響くドラムの音が、僕の心を掴んで離さなかった。規則正しくも自由奔放に打ち鳴らされるビートが、まるで自分の心の叫びみたいに感じられたのだ。)

……やってみる

(その日から、僕の頭の中はドラム一色になった。動画配信サイトでプロのドラマーの演奏を食い入るように見つめ、エアドラムを叩きながら通学路を歩いた。両親を説得して、ついに初心者向けの電子ドラムを部屋に迎え入れたのが数日前のことだ。最初はスティックを握ることすらぎこちなかったが、叩けば叩くほどに、ドラムは僕の身体に馴染んでいった。放課後、誰にも邪魔されない自分の部屋で、好きなロックバンドの曲を流しながら一心不乱に叩く時間が、僕にとって何よりの楽しみになっていた。)  

(しかし、一つ問題があった。電子ドラムには一通り備品がついていたものの、練習していくうちに物足りなさを感じるようになったのだ。特に、スティック。付属のものは軽すぎて、どうにも力が入りにくい。もっと色々な音を試したい、もっと深くドラムと向き合いたい。そんな気持ちがこみ上げてきた。そして何より、奈々と一緒に練習する日を夢見ていた。土曜日の昼下がり。僕は普段あまり出かけない繁華街へと足を運んだ。目指すは、駅前の地下にある大きな楽器店。ネットで調べたところ、ドラム関連の品揃えが豊富だという。ジーンズにTシャツ、キャップを被ったラフな格好。ボーイッシュな僕のスタイルは、どこかドラマー然としていて、今日の目的によく似合っていた。)  

(楽器店の地下フロアに足を踏み入れた途端、僕は一瞬立ちすくんだ。壁一面に並べられたギター、そして奥にはドラムセットが何台も鎮座している。その光景に圧倒されながらも、僕はまっすぐにドラムコーナーへと向かった。ドラムコーナーの一角には、壁一面に何十種類ものドラムスティックが陳列されていた。太さ、長さ、重さ、そして先端のチップの形まで、まるでそれぞれが別の生き物のように個性を持っている。)

うわ……どれにすればいいんだよ。

(僕は途方に暮れた。これまで使ってきたのは、ただの「スティック」だった。それがこんなにも多くの種類があるなんて、想像もしていなかった。

「どうかされましたか?」

柔らかな声に振り返ると、そこに立っていたのは、僕より少し年上だろうか、エプロンをつけた女性店員だった。肩までのショートヘアで、優しい笑顔を浮かべている。)

あ、えっと……スティックを買いに来たんですけど、種類がたくさんありすぎて……

(僕が正直に言うと、店員はにこりと笑って頷いた。

「わかります。初めてだと迷いますよね。よかったら、いくつか試してみませんか?」

店員はそう言って、僕を小さな練習スペースへと案内してくれた。そこには、練習用のスネアドラムとシンバルが置かれていた。

「よかったら、今使ってるスティックの重さや、普段どんなジャンルの曲を叩くか教えてもらえますか?」

僕は、今使っているスティックは軽すぎるということ、そして、普段は奈々が好きなロックやオルタナティブロックを練習していることを伝えた。店員はいくつかのスティックを棚から取り出し、僕に手渡した。

「じゃあ、この3種類を試してみてください。それぞれ重さとチップの形が違うので、叩き比べてみてくださいね」

僕は言われるがまま、スティックを握り、スネアドラムを叩き始めた。最初のスティックは、少し太めでずっしりと重い。叩くと、芯のある力強い音が鳴り響いた。)  

次に握ったのは、少し細身のもの。さっきのものより軽いが、しなやかで扱いやすい。そして最後に試したのは、先端のチップが丸みを帯びたもの。叩くと、柔らかく温かみのある音がした。)

うわ……全然違う

(それぞれのスティックが、まるで全く異なる音色を生み出すことに、僕は感動した。

「好みはありましたか?」

店員が尋ねる。)

はい。一番最初に叩いた、この重いのが、なんか……しっくりきました。叩いてて気持ちいい

(「それは良かったです。じゃあ、こちらにしてみましょうか」

僕は、生まれて初めて自分の手で選んだスティックを握りしめ、胸を高鳴らせた。スティックを無事に購入し、僕は次の目的へと進んだ。それは、メトロノーム。)

リズム感が大事だって、奈々が言ってたな。

(電子ドラムにはメトロノーム機能がついているが、もっと直感的に使えるものが欲しいと思っていた。僕がメトロノームのコーナーに足を向けると、そこには様々な形や種類のメトロノームが並んでいた。昔ながらの振り子式、デジタル表示のもの、そしてイヤホンタイプのものまである。)

すごい……

(再び迷子になりかけたこはるに、先ほどの店員がまた声をかけてくれた。

「メトロノームもお探しですか?」)

はい。なんか、種類がたくさんあって、どれがいいのかわからなくて(

「そうですね。ドラムの練習なら、リズムが細かく設定できるデジタルタイプがおすすめです。特に、最近だとイヤホンタイプも人気ですよ」

店員はそう言って、一つの商品を手に取った。それは、まるでワイヤレスイヤホンのような形をしていた。) 
		
(「これは、耳に装着して使うタイプです。ドラムの大きな音にかき消されずに、正確なリズムを聴くことができます。携帯アプリと連動して、細かいリズムパターンも設定できるので、初心者の方には特におすすめです」

僕は興味津々にそのイヤホンタイプのメトロノームを手に取った。これなら、自宅で練習するときも、家族にリズム音が漏れる心配がない。何より、ドラムの音に集中できるのが魅力的だ。)

これにします!

(僕は即決した。自分の意志で、自分の練習に必要なものを選んでいくことが、こんなにも楽しいことだとは思わなかった。メトロノームを手に、レジに向かおうとしたこはるの目に、一つの商品が飛び込んできた。それは、鮮やかな色の練習パッドだった。)

これは……?
		
(「ああ、これはトレーニングパッドです。ドラムセットがなくても、これで基礎練習ができますよ。跳ね返りが本物のドラムに近くなるように作られているんです」

店員の説明に、僕は目を輝かせた。自宅に電子ドラムがあるとはいえ、いつでも大きな音を出せるわけではない。夜中や早朝、音が出せない時間帯でも、これで練習ができる。)

これ、ください!

(僕の心はもう決まっていた。スティック、メトロノーム、そして練習パッド。今日の買い物が、僕のドラム人生の始まりを告げているような気がした。レジを済ませ、重くなった紙袋を提げて店を出た僕は、少しだけ、いや、だいぶ誇らしかった。新しい音と、新しい僕。家に帰り、さっそく買ったばかりのスティックを握り、練習パッドを叩いてみた。)

うん、これだ。

(これまで使っていたスティックよりも、ずっと手に馴染む。叩くたびに、心地よい跳ね返りが返ってくる。そして、耳にはイヤホン型のメトロノームから正確なリズムが刻まれていた。) 

よし!

(僕は、自分の部屋で一人、新しいスティックと練習パッドを叩き続けた。雨上がりの空が、夕焼けに染まっていく。僕のドラムは、まだ始まったばかり。でも、その音は、確実に力強さを増している。明日は、奈々に連絡して、買ったばかりの備品を見せびらかそう。そして、いつか、奈々のギターと僕のドラムに、羽咲のキーボード。後輩の叶のベースが加わって、最高のバンドになる日を夢見て。僕の胸は、期待と希望でいっぱいだった。僕のドラムは、僕の心の音。そして、その音は、これからもずっと、僕の人生を力強く刻んでいくのだ。)       

(衝動の始まりは、親友の誘い。卯月 こはる、17歳。彼女の放課後は、いつもと変わらない退屈な時間だった。が、その日は違った。同級生の桜島 奈々が、興奮した様子でこはるに詰め寄ってきたのだ。

「こはる、バンド組まない?」

奈々は、勉強も運動もそつなくこなす優等生で、周りからは「お嬢様」なんて呼ばれることもあるが、僕の前ではいつも自然体だった。)

バンド?奈々が?

(僕が目を丸くすると、奈々は少し照れくさそうに笑った。

「うん。私、前からギターをやってて。で、他にメンバーがいなくて困ってたんだ。こはる、どうかな?」

奈々の誘いは、僕にとって青天の霹靂だった。音楽に特別詳しいわけでもないし、楽器なんて触ったこともない。でも、奈々が自分を頼ってくれたことが、なぜかすごく嬉しかった。)

僕にできるかな……?

(「大丈夫だよ! こはるなら絶対かっこいいドラマーになるって、なんかピンときたんだ」

奈々の真っ直ぐな瞳に、僕の心は揺さぶられた。そして、その日の帰り道、奈々が動画配信サイトでドラマーの演奏動画を見せてくれた。腹の底まで響くドラムの音が、僕の心を掴んで離さなかった。規則正しくも自由奔放に打ち鳴らされるビートが、まるで自分の心の叫びみたいに感じられたのだ。)

……やってみる

(その日から、僕の頭の中はドラム一色になった。動画配信サイトでプロのドラマーの演奏を食い入るように見つめ、エアドラムを叩きながら通学路を歩いた。両親を説得して、ついに初心者向けの電子ドラムを部屋に迎え入れたのが数日前のことだ。最初はスティックを握ることすらぎこちなかったが、叩けば叩くほどに、ドラムは僕の身体に馴染んでいった。放課後、誰にも邪魔されない自分の部屋で、好きなロックバンドの曲を流しながら一心不乱に叩く時間が、僕にとって何よりの楽しみになっていた。)

(しかし、一つ問題があった。電子ドラムには一通り備品がついていたものの、練習していくうちに物足りなさを感じるようになったのだ。特に、スティック。付属のものは軽すぎて、どうにも力が入りにくい。もっと色々な音を試したい、もっと深くドラムと向き合いたい。そんな気持ちがこみ上げてきた。そして何より、奈々と一緒に練習する日を夢見ていた。土曜日の昼下がり。僕は普段あまり出かけない繁華街へと足を運んだ。目指すは、駅前の地下にある大きな楽器店。ネットで調べたところ、ドラム関連の品揃えが豊富だという。ジーンズにTシャツ、キャップを被ったラフな格好。ボーイッシュな僕のスタイルは、どこかドラマー然としていて、今日の目的によく似合っていた。)

(楽器店の地下フロアに足を踏み入れた途端、僕は一瞬立ちすくんだ。壁一面に並べられたギター、そして奥にはドラムセットが何台も鎮座している。その光景に圧倒されながらも、僕はまっすぐにドラムコーナーへと向かった。ドラムコーナーの一角には、壁一面に何十種類ものドラムスティックが陳列されていた。太さ、長さ、重さ、そして先端のチップの形まで、まるでそれぞれが別の生き物のように個性を持っている。)

うわ……どれにすればいいんだよ。

(僕は途方に暮れた。これまで使ってきたのは、ただの「スティック」だった。それがこんなにも多くの種類があるなんて、想像もしていなかった。

「どうかされましたか?」

柔らかな声に振り返ると、そこに立っていたのは、僕より少し年上だろうか、エプロンをつけた女性店員だった。肩までのショートヘアで、優しい笑顔を浮かべている。)

あ、えっと……スティックを買いに来たんですけど、種類がたくさんありすぎて……

(僕が正直に言うと、店員はにこりと笑って頷いた。

「わかります。初めてだと迷いますよね。よかったら、いくつか試してみませんか?」

店員はそう言って、僕を小さな練習スペースへと案内してくれた。そこには、練習用のスネアドラムとシンバルが置かれていた。

「よかったら、今使ってるスティックの重さや、普段どんなジャンルの曲を叩くか教えてもらえますか?」

僕は、今使っているスティックは軽すぎるということ、そして、普段は奈々が好きなロックやオルタナティブロックを練習していることを伝えた。店員はいくつかのスティックを棚から取り出し、僕に手渡した。

「じゃあ、この3種類を試してみてください。それぞれ重さとチップの形が違うので、叩き比べてみてくださいね」

僕は言われるがまま、スティックを握り、スネアドラムを叩き始めた。最初のスティックは、少し太めでずっしりと重い。叩くと、芯のある力強い音が鳴り響いた。)

次に握ったのは、少し細身のもの。さっきのものより軽いが、しなやかで扱いやすい。そして最後に試したのは、先端のチップが丸みを帯びたもの。叩くと、柔らかく温かみのある音がした。)

うわ……全然違う

(それぞれのスティックが、まるで全く異なる音色を生み出すことに、僕は感動した。

「好みはありましたか?」

店員が尋ねる。)

はい。一番最初に叩いた、この重いのが、なんか……しっくりきました。叩いてて気持ちいい

(「それは良かったです。じゃあ、こちらにしてみましょうか」

僕は、生まれて初めて自分の手で選んだスティックを握りしめ、胸を高鳴らせた。スティックを無事に購入し、僕は次の目的へと進んだ。それは、メトロノーム。)

リズム感が大事だって、奈々が言ってたな。

(電子ドラムにはメトロノーム機能がついているが、もっと直感的に使えるものが欲しいと思っていた。僕がメトロノームのコーナーに足を向けると、そこには様々な形や種類のメトロノームが並んでいた。昔ながらの振り子式、デジタル表示のもの、そしてイヤホンタイプのものまである。)

すごい……

(再び迷子になりかけたこはるに、先ほどの店員がまた声をかけてくれた。

「メトロノームもお探しですか?」)

はい。なんか、種類がたくさんあって、どれがいいのかわからなくて(

「そうですね。ドラムの練習なら、リズムが細かく設定できるデジタルタイプがおすすめです。特に、最近だとイヤホンタイプも人気ですよ」

店員はそう言って、一つの商品を手に取った。それは、まるでワイヤレスイヤホンのような形をしていた。)

(「これは、耳に装着して使うタイプです。ドラムの大きな音にかき消されずに、正確なリズムを聴くことができます。携帯アプリと連動して、細かいリズムパターンも設定できるので、初心者の方には特におすすめです」

僕は興味津々にそのイヤホンタイプのメトロノームを手に取った。これなら、自宅で練習するときも、家族にリズム音が漏れる心配がない。何より、ドラムの音に集中できるのが魅力的だ。)

これにします!

(僕は即決した。自分の意志で、自分の練習に必要なものを選んでいくことが、こんなにも楽しいことだとは思わなかった。メトロノームを手に、レジに向かおうとしたこはるの目に、一つの商品が飛び込んできた。それは、鮮やかな色の練習パッドだった。)

これは……?

(「ああ、これはトレーニングパッドです。ドラムセットがなくても、これで基礎練習ができますよ。跳ね返りが本物のドラムに近くなるように作られているんです」

店員の説明に、僕は目を輝かせた。自宅に電子ドラムがあるとはいえ、いつでも大きな音を出せるわけではない。夜中や早朝、音が出せない時間帯でも、これで練習ができる。)

これ、ください!

(僕の心はもう決まっていた。スティック、メトロノーム、そして練習パッド。今日の買い物が、僕のドラム人生の始まりを告げているような気がした。レジを済ませ、重くなった紙袋を提げて店を出た僕は、少しだけ、いや、だいぶ誇らしかった。新しい音と、新しい僕。家に帰り、さっそく買ったばかりのスティックを握り、練習パッドを叩いてみた。)

うん、これだ。

(これまで使っていたスティックよりも、ずっと手に馴染む。叩くたびに、心地よい跳ね返りが返ってくる。そして、耳にはイヤホン型のメトロノームから正確なリズムが刻まれていた。)

よし!

(僕は、自分の部屋で一人、新しいスティックと練習パッドを叩き続けた。雨上がりの空が、夕焼けに染まっていく。僕のドラムは、まだ始まったばかり。でも、その音は、確実に力強さを増している。明日は、奈々に連絡して、買ったばかりの備品を見せびらかそう。そして、いつか、奈々のギターと僕のドラムに、羽咲のキーボード。後輩の叶のベースが加わって、最高のバンドになる日を夢見て。僕の胸は、期待と希望でいっぱいだった。僕のドラムは、僕の心の音。そして、その音は、これからもずっと、僕の人生を力強く刻んでいくのだ。)