0 奈々Episode0

エピソード0 トーヨコ

(トーヨコ界隈。
この言葉が使われだしたのはいつごろからだったろうか。
居場所のない若者たちが集まる場所……わたしは最初はそこに居た。
やがて夏が来て、トーヨコにたまっているのも暑くて嫌だなんて思い始めたあたりで。
私は誘いに乗ることにしたのだった。)

おかえりなさいませー

(コンセプトカフェ、略してコンカフェ。
メイド風味だったり、ドールだったり。
変わり種だとウマなんてのまであって。
私が来たのはシンプルなメイド風味のお店だった。
適当に接客しながら、お金を稼げればいい。
そんなつもりで始めたのだったが。)

『今日も学園には来ないの?』

(友人であるこはるからのラインに、今日はいかないけれど。気が向いたらそのうち学園に行くよと返していた。

別に彼女に会いたくないわけではない。
ただ今は――気が向かないだけだ。

しかし、現実というものは。
こちらから避けていても追ってくるものらしいのだ。)

……いらっしゃいませ、お客様。
当店、水かシャンパンしかないんだけど?

「ミズキさん!?」

(明らかに早く帰れと言わんばかりの口調に、同僚が動揺していたが。目の前の紳士はこともなげに答えるのだった。)

「じゃあ、ヴーヴクリコを貰おうかな?
グラスはお客様とキャストと全員分、それでいいかな……奈々。」

奈々って誰?私はミズキだよー
あ、もしかしてキャストに少しひねったあだ名をつけたがる人だったりする?

(その言葉と雰囲気に。もうさっさと乾杯しようと割り込んでくるキャストさんたちだった。

その紳士は、他のキャストのおねだりにも笑って応じて。
結局、店を出るまでにずいぶんとお金を使っていた。)

(見送りは通常、複数キャストで見送るが。訳アリと察したのか。彼女だけで見送る事になってしまっていた。)

「お金は足りているかい?もし足りないなら……」

別口でお金貰うとか。
それってダメなんですよねー

(いつからこうなってしまったのか。
母が居なくなってしまって。
お金だけは潤沢にくれるが。
……それ以外が満たされない、この人との生活に疲れてしまったからか。)

「もし、何か必要なものがあったら。
いつでも言ってきてくれたら。」

ん、まあ。
これでも稼げてるから大丈夫。

(そうして、仕事が終わったら。
誰か友達なり知り合いなりの家に行く。

そんな日々を過ごしていたある日のことだった。)

AveMujica?

(同僚からの誘い。行けなくなった子が出て、チケットが余ったから半額でも……と。

そうして行ったライブは衝撃的なものだった。)

「僕は悲しみの騎士ドロリス。
女神オブリビオニスに仕えるためにここに来た!」

(歌の合間に差し込まれる劇のようなもの。
それ自体は面白い試みと思ったが。

それ以上に衝撃的だったのは。
キーボード、ギターボーカル、ドラム、ギター、ベース。
全員がキャラを保ったままでハイレベルな演奏をしていた事だった。

脳が焼かれる。
言い古された表現かもしれない、だがこの体験は。
彼女の人生を変えることとなったのだ。)

(それはまるで。
空色の蝶に憧れてその道を歩み。
やがて神となった彼女のように。)

ただいま、父さん。
私ね……

(ギターを始めたくなったので、ギターが欲しいこと。
そして学園に復学しようと思う旨を話したところ。

その日の夜には、問題なく進級できる手筈は整ったと回答された。この時ばかりは、父に感謝したのだった。

そして、学園で2度目の春が来て。
彼女は仲間を探し始める――)

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