2.微睡みと逸話 version 12
腕輪と逸話(編集中)
その時、その別れ際、少女は青年にブレスレットを渡した。二人の頭上には街灯の灯りと夜空、そして散りばめられた星々。ブレスレットもまたその中にあって、光放つ翼を思わせる装飾が施されていた。
あの時、彼女とどんな話をしたんだっけーー。
―――――――――――――――――――――――――
微睡みの中、徐々に覚醒に向かう意識。自宅アパートのベッドに身を横たえる花森健人は、僅かにその眉根を寄せた。やがてその目が静かに開かれる。同時に思い起こされるは自身の直近の記憶。影の怪物に襲われた夜。その記憶に健人はベッドの上で独り言ちる。
「俺、どうして…」
どうして、今ここにいるんだ。どうして、あんな姿に変わったんだ。助かったんだ。頭が未だ少し痛むのは、命に関わる大事があった精神的疲労故か、それとも一連の不明瞭さ故か。ふとスマートフォンで時間を見る。10時36分。大学の講義には完全に遅刻していた。首に手を当てる。あの怪物に絞められた痛みは消えていた。鏡で自身の姿を確認する。首から下は先の"烏骸骨"の姿ではなく、変化の直前まで着ていたジャケットとジーンズ姿ではあった。だが顔はーー。
どうして、今ここにいるんだ。どうして、あんな姿に変わったんだ。助かったんだ。頭が未だ少し痛むのは、命に関わる大事があった精神的疲労故か、それとも一連の不明瞭さ故か。ふとスマートフォンで時間を見る。午前10時36分。大学の講義には完全に遅刻していた。首に手を当てる。あの怪物に絞められた痛みは消えていた。鏡で自身の姿を確認する。首から下は先の"烏骸骨"の姿ではなく、変化の直前まで着ていたジャケットとジーンズ姿ではあった。だが顔はーー。
しかし鏡には普段と変わらない自分の姿が映っている。疲労感こそ色濃く浮かんだ顔であったが、健人は杞憂に胸を撫で下ろした。その左手には未だ、あのブレスレットを着けたままーー。
―――――――――――――――――――――――――
重い心身を引き摺りながらも、健人どうにか英道大学の学生ホールで学友の桧山初樹と合流した。
「花っち、顔色悪いけど大丈夫か?」
「ああ、ちょっとなんていうか…変な夢でも見たんだと思う。それこそ…狐にでもつままれたような」
初樹は健人の疲労感の表れに対して様子を窺うが、健人は話をぼかし、或いは自身にそう言い含める。
「夢?」
「ああ、昔友達になった子の夢…とか」
「女子か?」
「…もうハッサンには言わん」
初樹の砕けた応答は健人の口を尖らせた。その様に初樹は片手を立てる。
「悪い悪い、非モテの性(さが)だよ。許せ」
「その子からの貰ったもんがあるんだけど、なんか最近、変な怪物に襲われる夢も見てさ」
「怪物ってどんな?」
右手で一瞬ブレスレットをなぞりつつ、溜め息混じりでも話を続けてみれば、健人の発した"怪物"というワードに初樹は反応した。
「…怪物ってどんな?」
右手で一瞬ブレスレットをなぞりつつ、溜め息混じりでも話を続けてみれば、健人の発した"怪物"というワードに、初樹は一瞬間を置いて反応した。
「食いつくね、なんか…何ていうか、影みたいに暗い色の人型ではあった」
その言葉を切れ目に、一瞬話が途切れる。初樹の顔により視線を向けると、その目は何か思案に細められているように見てとれた。
その言葉を切れ目に、また一瞬話が途切れる。初樹の顔により目線を向けると、彼の顔は俯きながら眉根は寄せられ、目は僅かに細められていた。
「…何、何かあった?」
「花っちさ、この朝憬市(あかりし)の逸話…っていうか、都市伝説って知ってる?」
「花っちさ、この朝憬市(あかりし)の逸話…っていうか、都市伝説…知ってるか?」
「オカルト話の類いか?だったら…」
「花っち自身は、そう思うのか?」
「…少し、場所を変えよう」
口調はいつも同様、穏やかなそれではあるが、初樹の態度はいつになく真剣さを訴えていた。そこに居たのは、健人の与太話を傾聴していた、優しい友人としての桧山初樹では無い。健人はそこに、自身が知り得ぬ人々の心が抱える何かを垣間見た。
「少し、場所を変えよう」
「…そうだな」
他に談笑していた学生らのグループが、こちらの雰囲気の変化を察したらしい。注意が向いていることも受けての健人の提案に、初樹は静かに応じた。
―――――――――――――――――――――――――
その後、健人と初樹の姿は英道大学キャンパスの屋上、その東端にあった。時間は午後1時42分。基本的に学生や教員が来る場所ではない。少数派の学生が来ることは考えられたが、皆専ら講義やら研究を行う時間だ。聴き耳を立てる者が居たとして、彼らが隠れる場所もない。
「で、どうしたハッサン」
「まず確認させてくれよ。花っち、それ本当に夢なのか?」
「…何が言いたいんだ」
健人からの疑問に、初樹は一つ息を吐いて言った。
「似た例を知ってる」
その時、その別れ際、少女は青年にブレスレットを渡した。二人の頭上には街灯の灯りと夜空、そして散りばめられた星々。ブレスレットもまたその中にあって、光放つ翼を思わせる装飾が施されていた。
あの時、彼女とどんな話をしたんだっけーー。
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微睡みの中、徐々に覚醒に向かう意識。自宅アパートのベッドに身を横たえる花森健人は、僅かにその眉根を寄せた。やがてその目が静かに開かれる。同時に思い起こされるは自身の直近の記憶。影の怪物に襲われた夜。その記憶に健人はベッドの上で独り言ちる。
「俺、どうして…」
どうして、今ここにいるんだ。どうして、あんな姿に変わったんだ。助かったんだ。頭が未だ少し痛むのは、命に関わる大事があった精神的疲労故か、それとも一連の不明瞭さ故か。ふとスマートフォンで時間を見る。午前10時36分。大学の講義には完全に遅刻していた。首に手を当てる。あの怪物に絞められた痛みは消えていた。鏡で自身の姿を確認する。首から下は先の"烏骸骨"の姿ではなく、変化の直前まで着ていたジャケットとジーンズ姿ではあった。だが顔はーー。
しかし鏡には普段と変わらない自分の姿が映っている。疲労感こそ色濃く浮かんだ顔であったが、健人は杞憂に胸を撫で下ろした。その左手には未だ、あのブレスレットを着けたままーー。
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重い心身を引き摺りながらも、健人どうにか英道大学の学生ホールで学友の桧山初樹と合流した。
「花っち、顔色悪いけど大丈夫か?」
「ああ、ちょっとなんていうか…変な夢でも見たんだと思う。それこそ…狐にでもつままれたような」
初樹は健人の疲労感の表れに対して様子を窺うが、健人は話をぼかし、或いは自身にそう言い含める。
「夢?」
「ああ、昔友達になった子の夢…とか」
「女子か?」
「…もうハッサンには言わん」
初樹の砕けた応答は健人の口を尖らせた。その様に初樹は片手を立てる。
「悪い悪い、非モテの性(さが)だよ。許せ」
「その子からの貰ったもんがあるんだけど、なんか最近、変な怪物に襲われる夢も見てさ」
「…怪物ってどんな?」
右手で一瞬ブレスレットをなぞりつつ、溜め息混じりでも話を続けてみれば、健人の発した"怪物"というワードに、初樹は一瞬間を置いて反応した。
「食いつくね、なんか…何ていうか、影みたいに暗い色の人型ではあった」
その言葉を切れ目に、また一瞬話が途切れる。初樹の顔により目線を向けると、彼の顔は俯きながら眉根は寄せられ、目は僅かに細められていた。
「…何、何かあった?」
「花っちさ、この朝憬市(あかりし)の逸話…っていうか、都市伝説…知ってるか?」
「オカルト話の類いか?だったら…」
「花っち自身は、そう思うのか?」
口調はいつも同様、穏やかなそれではあるが、初樹の態度はいつになく真剣さを訴えていた。そこに居たのは、健人の与太話を傾聴していた、優しい友人としての桧山初樹では無い。健人はそこに、自身が知り得ぬ人々の心が抱える何かを垣間見た。
「少し、場所を変えよう」
「…そうだな」
他に談笑していた学生らのグループが、こちらの雰囲気の変化を察したらしい。注意が向いていることも受けての健人の提案に、初樹は静かに応じた。
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その後、健人と初樹の姿は英道大学キャンパスの屋上、その東端にあった。時間は午後1時42分。基本的に学生や教員が来る場所ではない。少数派の学生が来ることは考えられたが、皆専ら講義やら研究を行う時間だ。聴き耳を立てる者が居たとして、彼らが隠れる場所もない。
「で、どうしたハッサン」
「まず確認させてくれよ。花っち、それ本当に夢なのか?」
「…何が言いたいんだ」
健人からの疑問に、初樹は一つ息を吐いて言った。
「似た例を知ってる」