0 ボツ文章

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以下の文章は剣人の視点から変え、心羽パート導入に向けて改造することを試みる予定であったが頓挫したものであり、一応保管しておくに留める。

そう考えた故に検索してみたが、無駄だったか…そう思いながらもあるSNSにて、再度「朝憬」、「怪物」、「化け物」等とキーワードを入れ、よりタイムリーかつ当事者性に迫った内容がないか検索を続ける。ヒットした書き込みはその殆どが関係ないものだったが、その時一つの書き込みが剣人の目に留まった。
”朝憬に何かいるんだけど…”
その書き込みにはショート動画が添付されていた。辺りは夜で街灯が灯っていることがわかるものの、酔っぱらって取られた動画だったのだろう。赤い顔をした投稿主やその仲間たちと思われる青年が4人映って盛り上がっているが、そのアングルは定まらずブレており、写すものが判然としない。

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何も出たりするなよ…出てきたらどうなってしまうのか…しまった…特撮でこんなことあった日には人体実験のモルモットにされる可能性もちらついたケースもある…そんなの、勘弁してくれ…これ以上何か起きてたまるか…
そんな鬱屈とした思いと取り返しのつかない言葉。何より自分に何が起きたのか無視も出来ないこと。それらに引き摺られるようにして、剣人はその二日後に精密検査を受けた。
そして結果が出るのはそこから一週間後であると、退院前の診察時に、担当医の生島から伝えられた。40代を過ぎた落ち着きを持った様子と、真面目な印象を与える出で立ちの彼に対し、「…先生、実は…」と剣人はその思いを切り出した。落ち着け…努めてでも落ち着いて話すんだ…
「その精密検査の結果を伺う場面なんですが、その場には家族と一緒に伺う感じでしょうか?」
何かあったとして、家族は巻き込めない。それにその場合はこの病院の人たちに守秘義務を徹底させねばならぬだろう。だが今は落ち着かねば…
「ええ、こちらとしてはそのつもりで今のところいますが」
生島はその彫りの深い顔を少しこちらへ傾ける。意識をこちらの質問へと向け、その意図を考えているように剣人には見えた。剣人は少しだけ息を吸って、言った。
「…無理を言うかも知れませんが、検査結果は僕一人で伺うことは可能ですか?」
「……ふむ」
神妙さが顔に出てしまっているのが自分でも判るが、それに構う余裕はない。自分はそういうところがあるし、そうしてでも伝えておかねば、難儀するのは自分たち家族だ。
「…何か、事情があるのですか?経過に関わることで」
測りかねる意図に対する怪訝さから、生島が少し眉根を寄せる。しかしその態度は毅然としていた。もう、あの事を出すしかない…「直接ではありませんが…」そう切り出した剣人もまた真剣な表情で話す。
「…僕は以前、精神科に入院していました」
「……」
生島は毅然した表情のまま、しかしその話を止めることはなかった。優しい人だ。ふとそんなことを感じつつも口を動かす自分がいた。
「……その際に、父と母には限りなく面倒をかけました。流石にこれ以上悪い報せは、父と母には聞かせられない」
全てを明かすわけにもいかないが、その言葉に偽りはない。その思いだけは持って、剣人は生島の目を見つめた。
「…診察している限りでは、快方に向かっています。精密検査は状況として必要だと私も考えましたが、そこまで思うのは何故です?」
思いは解るが、事実や行動としてどうしてその質問をしたり、そこまで思い詰めているのか…状況から見て違和感がある。生島の見つめ返す目と質問は、そう言っていた。不味い…
「僕の持つ病気からか、慢性的に不安でして…目の前で家族が辛くなったら、それこそ…僕は、怖い」
「…花森さん」
「恐らくは僕が病的にそう思っているだけですし、もちろん検査結果が良かったら、家族と伺います」
生島の言葉を待つ余裕もなかった。浮かんだ言葉の後半は、祈る思いで出てきたものだった。
「…落ち着いて、事が事だ…花森さん。貴方だけの身体や人生じゃない」
「…だからこそ、お願いしています。それに僕の人生ではあります」
ある意味ここまで優秀で、真面目な医師ならここまで不安に思うことはないかもしれない。そう思わないともうやっていられなかった。
「……ifの話をしても仕方ありません…ですが、一先ず思いは受け止めて、最初に貴方に伝えることは約束しましょう。その後に必要に応じて、一緒に判断することにはなるでしょうが…最初に知る権利と必要があるのは、本来は花森さんですから」
医師の倫理観というものに明るくはないが、そんな生島の人としての誠実な考えを、今は信じるしかない。本当に不安障害もある故か、誰にも話せない心細さは既に剣人の心に染みのように拡がっていた。

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その後、一先ずは状態が落ち着いたとされ、退院した剣人は哲也と純子と共に実家の車に乗って、朝憬市にある剣人のアパートまで送ってもらった。「そのまま真っ直ぐ帰ってもいいのに」という両親の優しさは嬉しく思ったものの、まだ新生活を始めて何週間も経っていないのに、バイトを辞める申し出や、大学の休学、アパートの解約…そうした一応の社会的な手続きまで全くしないという訳にもいかなかった。ここで実家に帰ってしまえば、今の自分には正直それさえ怪しい。
「ありがとね、また追って腰を落ち着けさせてもらうと思うし…手続きの時にちょっと家族のことだけ出しちゃうかもだけど」
苦笑しながら言った剣人の言葉に、哲也と純子はその心中を案じながらも、それ以上の介入は一旦控える。ただ、強いていうならと、哲也は一つだけ息子に伝えた。
「それは気兼ねすることないさ。お前は、お前自身に責任を持つために、一度自分を優先しな」
その言葉に、2年前まで一人のサラリーマンとして社会と対峙し、家庭を守りながらも、時に根性論にまみれて苦しんでいた父の姿が思い起こされた。
「…悪い、ありがとね…父さんも母さんも」
息子として、父のそんな言葉に込められているだろう思いをできる限り受けとる。それなら先ずは…と、両親に真摯に感謝を伝えた。
「…いいさ」
後部座席から見える、ハンドルを握る哲也と、助手席に座る純子の表情は穏やかに見えたーーー

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