これは私たちが紡いだ希望の物語  No.1 1/2 version 43

2022/06/13 16:13 by someone
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これは私たちが紡いだ希望の物語  No.1 1/2 【?】
2020年、4月12日。その日、朝憬市立朝憬英道大学二回生である花森健人は、同大学B棟3階、第2講義室にて行われる人体の機能と構造の講義に出席していた。
「…そのためICF、国際生活機能分類では…」
時間は10時51分。単調な講師の話と昼食までもたない空腹、そして気怠さによって、既に講義に意識を集中させることが難しい。天を仰ぐように軽く首を逸らした後、左目を瞬かせて再度講義を聴くよう努めるが、そこに加わる周囲の学生らの小声の数々が健人の意識をかき乱す。最早聴講することは投げ出して、健人は前方を向いて時間をやり過ごすことだけに注力していた。そんな折、彼の着いている講義室中段の席の一つ前で、男子学生の二人組が小声でとある都市伝説の話が耳に入ってくる。
「また出たって、”赤髪の魔女”」
「お前好きだな、その与太話」
話を振った方の小柄な男子学生が「講義よりは面白いだろ」と渇いた笑みを浮かべて小声で話し続けた。
「それがここから近いんだよ、朝陽町の教会の近くで怪物と争ってたってSNSでさ…」
「お前その感じ、特撮とかそういうもんの延長で見てんだろ。別に否定はしないけど、俺にそれを話されてもさ」
話を聞くガタイのいい男子学生がその大きな肩を竦ませ、呆れた口調で返す。
「なんだよ…なんか、イケてんじゃん。赤髪の魔女」
「多分、お前はダサいけどな…」
ガタイが小柄に毒づくのに共感し、健人は小柄の方を冷ややかに見るものの、気が付けば講義よりもそちらの話ばかりを耳が拾っていた。最終的に講師が講義終了を告げると同時に、健人の胸中には苦い自己嫌悪が広がる。講師と学生らがそれぞれの荷物をまとめて講義室を後にする中、同じゼミに所属する友人である横尾和明が上の空である健人の下にやってきてその肩を叩いた。
「お疲れ、花っち」
「ああ、お疲れカズさん」
「どした?また夜更かしして絵でも描いてたのか?」
心ここに在らず——そんな健人のうだつの上がらない声に、和明は苦笑しながらその理由を問う。
「いや、それが…何て言うかさ…」
「うん、どした?」
「何で俺、この勉強してるんだっけって思ってさ」
話はそこで一瞬間が空いた。和明の口から「…え?」という一音だけがポツリと零れる。
「…とりあえずちょい早いけど、飯行く?」
「行く。腹減った」
怪訝な顔と共に言った和明の一言に即答し、健人は傍らのショルダーバッグを掴んで席を立った。

「なんか最近花っち、ボーっとしてること多いけど…さっき言ったの、深刻なやつ?」
「深刻、なのかな?それもぼんやりしててさ」
英道大学の学食の食堂にて、熱い醤油ラーメンを息で冷ましながら和明が言った。健人は唐揚げ定食に付けあわされたキャベツを貪る合間にそれに応える。どんぶりから立ち上る熱い湯気に和明の眼鏡が曇った。
「モラトリアムだな~」
「俺もそう思う…まあ、そういう奴もいるさ」
和明の感想の一言に対し、健人は苦笑しつつ応えながら唐揚げを口に入れた。肉の旨味と油、柔らかさに、続くご飯が大口を開けた中へと消えていく。ラーメンを啜る和明の眼鏡は未だに曇っていた。やがて咀嚼と嚥下を一先ず終えると、健人は努めて軽い口調で話し始める。
「自分が信じてたものが、ここしばらくわからなくてさ」
「ここしばらくってどれくらい?」
「2年ちょい」
和明の持った箸の先が、ラーメンのスープに浸かったまま止まった。
「…長いな、ていうか高校からか。信じてたものって、どんなのか聞いてもいい?」
丁寧に尋ねる和明に友人としての誠実さを感じながらも、健人は僅かに俯いてラーメンのどんぶりに視線を外す。しかしその目の端には、眼鏡の向こうで和明の目が少し動いたのが見えた。
「人を思ってた自分、かな」
和明は頷くと一瞬だけ眉根を寄せる。健人もドリンクのウーロン茶にしか手が伸びなかった。
「…深刻じゃん」
「やっぱ?」
「少なくとも、確かに学業の目的には関わるな…でも…」
その真剣な表情の前で両腕を組む姿は、健人の胸に一瞬沈鬱なものを抱かせる。だが次に続く言葉に健人は呆気にとられた。
「とりあえず食おう!このままじゃ飯が冷める、大事なことだし食べてから考えよう!」
気を取られて一瞬間が空いたところに「…マズかった?」と問う和明。その動揺が見られる様に健人は思わず笑った。
「そうだな、確かにラーメン伸びるし飯もカピカピになるわ、これじゃあ」
笑い声と共に大仰に頷き、唐揚げとご飯を平らげんとする健人を和明はじっと睨む。しかし次には和明も静かに笑い、レンゲでスープを掬っていた。
「まあ、話せる時にでも話しな。もし花っちが良ければ聞くから」
「助かるカズさん、甘えるわ…俺には今そういうのが要るんだ。多分」
そんな和明の様に、健人はようやく自身の思いを伝える。そうして唐揚げの最後の一個を口に入れた。

「アハト、君の進捗はどうだ?」
さる廃ビルの中、その一室で壮年の男の声が発された。薄暗い部屋にいくらか差し込む陽の光に、声の主の長身と黒コートが照らされ、端正ながらも彫りの深い顔立ちが覗く。その左斜め後ろにはクモを想起させる意匠をその身に宿した異形の存在があった。
「ええ、今夜にでも事を運ぶ予定です」
「スクロアからの差し金とはいえ、面倒を押し付けられたものだ」
黒コートがクモ——アハトと呼ばれる異形の方へ振り返りながら、不服さに鼻を鳴らす。
「ですが我々への糸を手繰られるのは、今は得策ではない」
「…君もよくやる」
「こうした処置に関しては、私も仕事ですので」
「仕事とあっては仕方ないか…それで、私は何をすればいい?」
黒コートの目がアハトを真っ直ぐに見つめた。アハトもまた、その4つの眼を黒コートに向けると話の核心について告げる。
「私が標的を狩る間、赤髪の魔女を抑えて頂けませんか?」
「…アレに気取られたか?」
「ええ、もう標的は魔女と接触をしています。こうなると私一人では少々やりにくい」
アハトがそう言ったところで、両者の言葉は一度途切れた。その空白の中、黒コートは一瞬思案するとある疑問を口にする。
「私が出る程の事態と、スクロアは踏んだか?」
「先日、情報部の者が魔女と交戦した際、魔女から特異な魔力反応があったとのこと」
「ほう…」
「そのため、早急に手を打つ必要があるというのがスクロア様の主張です」



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###### //モルです。エクリプス側が民衆に対して堂々と宣戦布告をするのは今後の展開が大きく変わりそうなので懸念してます。もし意図があれば聞きたい…! それと、この時点でもう警察や消防は6〜7割がた機能してないと考えていい…?
###### //なるほど…。宣戦布告することでモルが懸念しているのは「これから被害に遭う全ての人が事前にエクリプスを知っていて、恐怖の対象として認知している」という状況になることなので、その状況の方が都合がよければこのままで大丈夫です。それとこの懸念は、この一件が報道機関によって公的に報道された場合の話なので、それがなければ全ての人がエクリプスを認知している状況にもならないので安心してほしい…。それともう一件、健人が赤髪の魔女に遭遇するのが早いような気がするけど、ここで会わせたのにもなにか意図があれば聞いておきたい…
###### //ギルです。一連の文章を修正し始めました。先日ここに書いてた色々は諸事情があってプロットから書き直してます。後日、別項目にギルのプロットと銘打って上げますので、モルにはご理解頂きたく…
樋川梨沙は後で登場するかもです(^^;###### //ギルです。一連の文章を修正し始めました。先日ここに書いてた色々は諸事情があってプロットから書き直してます。後日、別項目にギルのプロットと銘打って上げますので、モルにはご理解頂きたく…樋川梨沙は後で登場するかもです(^^;      

2020年、4月12日。その日、朝憬市立朝憬英道大学二回生である花森健人は、同大学B棟3階、第2講義室にて行われる人体の機能と構造の講義に出席していた。
「…そのためICF、国際生活機能分類では…」
時間は10時51分。単調な講師の話と昼食までもたない空腹、そして気怠さによって、既に講義に意識を集中させることが難しい。天を仰ぐように軽く首を逸らした後、左目を瞬かせて再度講義を聴くよう努めるが、そこに加わる周囲の学生らの小声の数々が健人の意識をかき乱す。最早聴講することは投げ出して、健人は前方を向いて時間をやり過ごすことだけに注力していた。そんな折、彼の着いている講義室中段の席の一つ前で、男子学生の二人組が小声でとある都市伝説の話が耳に入ってくる。
「また出たって、”赤髪の魔女”」
「お前好きだな、その与太話」
話を振った方の小柄な男子学生が「講義よりは面白いだろ」と渇いた笑みを浮かべて小声で話し続けた。
「それがここから近いんだよ、朝陽町の教会の近くで怪物と争ってたってSNSでさ…」
「お前その感じ、特撮とかそういうもんの延長で見てんだろ。別に否定はしないけど、俺にそれを話されてもさ」
話を聞くガタイのいい男子学生がその大きな肩を竦ませ、呆れた口調で返す。
「なんだよ…なんか、イケてんじゃん。赤髪の魔女」
「多分、お前はダサいけどな…」
ガタイが小柄に毒づくのに共感し、健人は小柄の方を冷ややかに見るものの、気が付けば講義よりもそちらの話ばかりを耳が拾っていた。最終的に講師が講義終了を告げると同時に、健人の胸中には苦い自己嫌悪が広がる。講師と学生らがそれぞれの荷物をまとめて講義室を後にする中、同じゼミに所属する友人である横尾和明が上の空である健人の下にやってきてその肩を叩いた。
「お疲れ、花っち」
「ああ、お疲れカズさん」
「どした?また夜更かしして絵でも描いてたのか?」
心ここに在らず——そんな健人のうだつの上がらない声に、和明は苦笑しながらその理由を問う。
「いや、それが…何て言うかさ…」
「うん、どした?」
「何で俺、この勉強してるんだっけって思ってさ」
話はそこで一瞬間が空いた。和明の口から「…え?」という一音だけがポツリと零れる。
「…とりあえずちょい早いけど、飯行く?」
「行く。腹減った」
怪訝な顔と共に言った和明の一言に即答し、健人は傍らのショルダーバッグを掴んで席を立った。

「なんか最近花っち、ボーっとしてること多いけど…さっき言ったの、深刻なやつ?」
「深刻、なのかな?それもぼんやりしててさ」
英道大学の学食の食堂にて、熱い醤油ラーメンを息で冷ましながら和明が言った。健人は唐揚げ定食に付けあわされたキャベツを貪る合間にそれに応える。どんぶりから立ち上る熱い湯気に和明の眼鏡が曇った。
「モラトリアムだな~」
「俺もそう思う…まあ、そういう奴もいるさ」
和明の感想の一言に対し、健人は苦笑しつつ応えながら唐揚げを口に入れた。肉の旨味と油、柔らかさに、続くご飯が大口を開けた中へと消えていく。ラーメンを啜る和明の眼鏡は未だに曇っていた。やがて咀嚼と嚥下を一先ず終えると、健人は努めて軽い口調で話し始める。
「自分が信じてたものが、ここしばらくわからなくてさ」
「ここしばらくってどれくらい?」
「2年ちょい」
和明の持った箸の先が、ラーメンのスープに浸かったまま止まった。
「…長いな、ていうか高校からか。信じてたものって、どんなのか聞いてもいい?」
丁寧に尋ねる和明に友人としての誠実さを感じながらも、健人は僅かに俯いてラーメンのどんぶりに視線を外す。しかしその目の端には、眼鏡の向こうで和明の目が少し動いたのが見えた。
「人を思ってた自分、かな」
和明は頷くと一瞬だけ眉根を寄せる。健人もドリンクのウーロン茶にしか手が伸びなかった。
「…深刻じゃん」
「やっぱ?」
「少なくとも、確かに学業の目的には関わるな…でも…」
その真剣な表情の前で両腕を組む姿は、健人の胸に一瞬沈鬱なものを抱かせる。だが次に続く言葉に健人は呆気にとられた。
「とりあえず食おう!このままじゃ飯が冷める、大事なことだし食べてから考えよう!」
気を取られて一瞬間が空いたところに「…マズかった?」と問う和明。その動揺が見られる様に健人は思わず笑った。
「そうだな、確かにラーメン伸びるし飯もカピカピになるわ、これじゃあ」
笑い声と共に大仰に頷き、唐揚げとご飯を平らげんとする健人を和明はじっと睨む。しかし次には和明も静かに笑い、レンゲでスープを掬っていた。
「まあ、話せる時にでも話しな。もし花っちが良ければ聞くから」
「助かるカズさん、甘えるわ…俺には今そういうのが要るんだ。多分」
そんな和明の様に、健人はようやく自身の思いを伝える。そうして唐揚げの最後の一個を口に入れた。

「アハト、君の進捗はどうだ?」
さる廃ビルの中、その一室で壮年の男の声が発された。薄暗い部屋にいくらか差し込む陽の光に、声の主の長身と黒コートが照らされ、端正ながらも彫りの深い顔立ちが覗く。その左斜め後ろにはクモを想起させる意匠をその身に宿した異形の存在があった。
「ええ、今夜にでも事を運ぶ予定です」
「スクロアからの差し金とはいえ、面倒を押し付けられたものだ」
黒コートがクモ——アハトと呼ばれる異形の方へ振り返りながら、不服さに鼻を鳴らす。
「ですが我々への糸を手繰られるのは、今は得策ではない」
「…君もよくやる」
「こうした処置に関しては、私も仕事ですので」
「仕事とあっては仕方ないか…それで、私は何をすればいい?」
黒コートの目がアハトを真っ直ぐに見つめた。アハトもまた、その4つの眼を黒コートに向けると話の核心について告げる。
「私が標的を狩る間、赤髪の魔女を抑えて頂けませんか?」
「…アレに気取られたか?」
「ええ、もう標的は魔女と接触をしています。こうなると私一人では少々やりにくい」
アハトがそう言ったところで、両者の言葉は一度途切れた。その空白の中、黒コートは一瞬思案するとある疑問を口にする。
「私が出る程の事態と、スクロアは踏んだか?」
「先日、情報部の者が魔女と交戦した際、魔女から特異な魔力反応があったとのこと」
「ほう…」
「そのため、早急に手を打つ必要があるというのがスクロア様の主張です」


//モルです。エクリプス側が民衆に対して堂々と宣戦布告をするのは今後の展開が大きく変わりそうなので懸念してます。もし意図があれば聞きたい…! それと、この時点でもう警察や消防は6〜7割がた機能してないと考えていい…?
//なるほど…。宣戦布告することでモルが懸念しているのは「これから被害に遭う全ての人が事前にエクリプスを知っていて、恐怖の対象として認知している」という状況になることなので、その状況の方が都合がよければこのままで大丈夫です。それとこの懸念は、この一件が報道機関によって公的に報道された場合の話なので、それがなければ全ての人がエクリプスを認知している状況にもならないので安心してほしい…。それともう一件、健人が赤髪の魔女に遭遇するのが早いような気がするけど、ここで会わせたのにもなにか意図があれば聞いておきたい…
//ギルです。一連の文章を修正し始めました。先日ここに書いてた色々は諸事情があってプロットから書き直してます。後日、別項目にギルのプロットと銘打って上げますので、モルにはご理解頂きたく…樋川梨沙は後で登場するかもです(^^;