ミーナの冒険 version 21
ミーナの冒険
0話
「⋯⋯」
揺れる小さな馬車の隅で少女は妹と丸くなって座っていた。
大きな荷物を抱きかかえてフードを深くかぶる妹を隠すようにしてじっと、もう見えなくなった村の方を見ている。いつ村に帰るのか、どこに向かうのかも分からない旅路の幕開けにどうしようもない不安を胸に、少女は今までの日常を思い返していた。
1話 ミーナの日常
箱庭イクセト最北の小さな島国サチヌにある〝最北の村〟ことカシツネ村。雪解けが終わる頃の小さな村にある少女がいた。
彼女の名前はミーナ・ソルナ。母親譲りのややふんわりとした明るい金髪に父親譲りの深い青の瞳の十三歳だ。
「あ、ミーナおはよう」
「おはようホリー」
廊下にはミーナの妹、ホリーがいた。ホリーは母親譲りの深い緑の瞳に父親譲りの癖毛気味の明るい茶髪を一つ結びにしている。
「今日は授業早いからもう行くね。お昼は街のいつもの場所で。朝ごはんは置いてあるからちゃんと食べてから出勤してね。あ、今日鍵ちゃんとしてね、最近村の東のほう物騒みたいだから辺境だからって油断してるとこの前の人みたいになっちゃうってお肉屋のおばさんが言ってたよ」
「うん、わかった。いってらっしゃい」
しっかり者の妹はミーナに伝えることだけ伝えると、駆け足気味にミーナの横を通りそのまま階段を降りていった。
一緒に家を出て急な坂を下る。坂の終わりにある祖父母の家の前を通って村から
(最近いつも通りじゃなくなっちゃったな)
一緒に家を出て急な坂を下り、坂の終わりにある祖父母の家の前を通って村から数十分の街にある学び舎で初等基礎と呼ばれるものを学ぶ。週二日だけではあったが今まで彼女の日常で当たり前だった。
(〝いつも通り〟じゃなくなっちゃったんだな)
「よいしょ、っと」
ミーナは荷物を左から右へ移させる。かしゃん、かしゃんと中身の虹色に光るガラス容器の鳴る音が聞こえる。本来なら左から右へ移動させる必要はないが、壊れた時に頼み込んで特別にやらさせてもらっている。
彼女がいなくても、やらなくてもいい仕事。
カンカンカンと鐘の音が響くと昼休憩。
「伯父さ……作業所長、お昼外で食べてきます」
作業所長に一言声をかけてから外へ出ると一直線に
「⋯⋯⋯⋯ねむい」
ミーナもホリーの後に続くように階段を下る。
階段にはミーナが生まれる前から飾られている知らない親戚の古い肖像画や出ていった父親の描いた絵、死んだ伯母が最後に作った押し花、それに目立たないところには夢を再び追いかけにいった母親の初公演のチケットが飾られている。 遠目から見ても見なくても歪で不気味だ。
みんな色々な理由で居なくなったものだから、両親も伯母も消えた時期はソルナ家の不吉階段だの井戸端会議で言われたりもした。
〈階段だけじゃないのにね。倉庫とか書斎とかのほうがもっと⋯⋯〉
0話
「⋯⋯」
揺れる小さな馬車の隅で少女は妹と丸くなって座っていた。
大きな荷物を抱きかかえてフードを深くかぶる妹を隠すようにしてじっと、もう見えなくなった村の方を見ている。いつ村に帰るのか、どこに向かうのかも分からない旅路の幕開けにどうしようもない不安を胸に、少女は今までの日常を思い返していた。
1話 ミーナの日常
箱庭イクセト最北の小さな島国サチヌにある〝最北の村〟ことカシツネ村。雪解けが終わる頃の小さな村にある少女がいた。
彼女の名前はミーナ・ソルナ。母親譲りのややふんわりとした明るい金髪に父親譲りの深い青の瞳の十三歳だ。
「あ、ミーナおはよう」
「おはようホリー」
廊下にはミーナの妹、ホリーがいた。ホリーは母親譲りの深い緑の瞳に父親譲りの癖毛気味の明るい茶髪を一つ結びにしている。
「今日は授業早いからもう行くね。お昼は街のいつもの場所で。朝ごはんは置いてあるからちゃんと食べてから出勤してね。あ、今日鍵ちゃんとしてね、最近村の東のほう物騒みたいだから辺境だからって油断してるとこの前の人みたいになっちゃうってお肉屋のおばさんが言ってたよ」
「うん、わかった。いってらっしゃい」
しっかり者の妹はミーナに伝えることだけ伝えると、駆け足気味にミーナの横を通りそのまま階段を降りていった。
一緒に家を出て急な坂を下り、坂の終わりにある祖父母の家の前を通って村から数十分の街にある学び舎で初等基礎と呼ばれるものを学ぶ。週二日だけではあったが今まで彼女の日常で当たり前だった。
(〝いつも通り〟じゃなくなっちゃったんだな)
「よいしょ、っと」
ミーナは荷物を左から右へ移させる。かしゃん、かしゃんと中身の虹色に光るガラス容器の鳴る音が聞こえる。本来なら左から右へ移動させる必要はないが、壊れた時に頼み込んで特別にやらさせてもらっている。
彼女がいなくても、やらなくてもいい仕事。
カンカンカンと鐘の音が響くと昼休憩。
「伯父さ……作業所長、お昼外で食べてきます」
作業所長に一言声をかけてから外へ出ると一直線に
「⋯⋯⋯⋯ねむい」
ミーナもホリーの後に続くように階段を下る。
階段にはミーナが生まれる前から飾られている知らない親戚の古い肖像画や出ていった父親の描いた絵、死んだ伯母が最後に作った押し花、それに目立たないところには夢を再び追いかけにいった母親の初公演のチケットが飾られている。 遠目から見ても見なくても歪で不気味だ。
みんな色々な理由で居なくなったものだから、両親も伯母も消えた時期はソルナ家の不吉階段だの井戸端会議で言われたりもした。
〈階段だけじゃないのにね。倉庫とか書斎とかのほうがもっと⋯⋯〉