うさEPISODE0 version 1

2025/09/21 03:44 by usa-cherry-rabbits
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(差分が大きい場合、文字単位では表示しません)
「…暑い」
学校近くのセブンのビニール袋を提げ、学内で一番涼しいカフェテリアに向かう道すがら。校門から出て往復10分も歩いていないのに首筋には珠のような汗が伝う。
劣等生にとっては夏休み期間というのはただ補講という罰ゲームを受ける日々でしかない。あまりの暑さに目に見えるもの全てが揺らめき、更にカフェテリアを遠く遠くに感じさせる。もしかしたらたどり着いたかと思ったら蜃気楼のように消えてしまうんじゃないだろうか。なんて不安な気持ちにすらさせられてしまう
「ん…っ」
温暖化というのはCO2というものが悪くて、それはわたしの吐く息にも含まれているらしい。ならば息を止めていればその間だけでもわたしの周りの温度上昇は抑えられるだろうか。
「けほっ…けほ!…ふぁ…はぁ…」
30秒も持たずに咳き込み、肩を上下させつつ大きく呼吸した結果もっと暑くなってしまった。
なるほど、地球温暖化をなんとかするのは難しいというのがとてもよくわかった。
ぶんぶん、と気を取り直すように大きく頭を振ると、刹那激しい蝉時雨が止み、校内のあらゆる営みが音の奔流となって耳に飛び込む。
「つまんない」
グラウンドの運動部の男女のコーロ・ミストのバックに流れる種々のソナタがやけに耳に障る。本来ならばわたしもその音色の一部だったはずなのに補習のせいで…
「…ってわけじゃないんだよね」
もう少しでカフェテリア、というところでごそごそと袋の中に手を入れ、タフグミを取り出して1つ口に入れる。くにくにという食感が脳に刺激を与え頭が多少スッキリしてくるこの感覚は嫌いじゃない。
…そうだ。どのみち「つまんない」のだ。補習もなくあそこでオーボエを吹いていて、それで本当に楽しいのか。
取り立ててうまくもない。上達の兆しもそれにかける情熱もない。
ただなんとなくで続けているだけの、惰性と友情の混合液のような青春の一部。
他校にいる彼氏に頻繁に呼び出されないための口実の一部。
…みんなそういうものなのだろうか。
キラキラは極一部の努力できる才能のある者にのみ与えられるクラウンやティアラの残光でしかないのだろうか。
だったらその他大勢の高校生活って…人生って何なんだろう。
「ん?」
いざ行かん適温の楽園へ。と思いドアを明けた直後、異質な音が聞こえて足を止める。
聞こえてきた方角からして屋外のはずで。
「…暑い」
現状を確認するためにあえてもう一度口に出す。入れ。早く中へ。
「はぁ、全く何やってるん…」
ソーダ味のタフグミを新たに1粒放り込んで噛んで、思考は明瞭になっても足は止まらない。まっすぐ、その“異音”の聞こえる方へ。
「このへん…だよね?」
文化部室棟の裏手。吹奏楽部以外の殆どの部活はこんな時期に屋外に出て活動したりはしない。
基本的に窓を締め切って部室棟の裏なんかに人っ子一人いるはずもない。
実際見渡す限り無人なのにも関わらず、“異音”には近づいている感覚があった。
「あ」
そうしてやっと“異音”の正体に行き当たる。
エアコンを外に逃さないためか、しっかり閉め切れられた窓が並ぶ中、1つだけ全開放された窓。
“異音”からはっきり“ギターのメロディ”であると認識できたそれはそこから聞こえていた。
わたしはふらふらとそのメロディに引き寄せられるように歩を進め、窓を覗き込む。
ぱちり。
真正面から視線が合う「ないはずの音」が脳に届いた
「こ、こんにちはは!」
挨拶は先手必勝を旨としているわたしは反射的に声を上げる。少し声が震えてしまっているのは気のせいだ。
『…?』
相手は突然闖入してきたちんちくりんにきょとんとした顔をしたままギターを弾き続け、盛大に挨拶を空振ったまま見つめ続けるわたしとその子との間抜けなファーストコンタクトが20秒ほど続いて、突然はっとしたように彼女は演奏をやめた。
『こんにちは…』
警戒度は考えるまでもなくMAXスタート。
だが幸いにしてわたしはぱっと見人畜無害どころか誰の目からみても「弱そうないきもの」であるせいか、すぐに細めた目を開いてくれた。
…すごい美人だ。
校章の色的に同じ学年であることはわかるのだが、全然覚えがない
『ああ…』
相手はそんな反応に慣れているのか、微苦笑混じりに
『私一年のときあんまりガッコ来てなかったからさ』
と、わたしの疑問を先回りするように教えてくれた。
「うさだよっ」
自分を指差しながらわたしは自己紹介のつもりで言う。
『うん…?』
怪訝な表情をしたあと、少しだけ可愛そうなものを見る視線を感じる。弱きいきものはそういう視線に敏感なのだ。
「名前。羽咲だよ。あなたはっ?」
伝わらないもどかしさを声音に乗せ、再度自己紹介をする。
『うさださんだね』
珍しい名前だね、と付け加えて彼女は傍らにギターを置く。
違う。そうじゃない。脳内で水色のツインテールが「ファファファ」と独特の笑い声を立てる。ツインテなのは共通している、けれども。
『桜島奈々。はじめまして。うさださん』
クールガールだ。とても同じ学年とは思えないくらい落ち着いている。そしてギターをおろした事で気がついたけどでかい。何がとは言わないが。
「…ごめん。わたしが悪かった。雪平、名字が雪平で名前が羽咲。はじめましてっ」
自分の胸部に手のひらをぽんぽんと当てて、世界の女性のサイズが一斉に大きくなったのではないのだということを確かめて軽く絶望してからそう訂正を入れる。
『あ、なるほど。ごめんてっきり。あのさ…その』
「なになにっ?」
『暑くない?』
「……あぢいね」
わたしは彼女の招きに応じて、昇降口から校舎に入り、校内を抜けて部室棟に向かった。
袋の中のガルボはもうすっかりダメになっていそうだが、溢れた乳を嘆いても無駄っていうもんね。今のうちに立派なおっぱいを味わっておくがいいといつも思う。
とはいえ今から対面する相手もその平たくないおっぱい族に当たるためあんまり負の感情を表に出すものではない。相対的貧乳は純正理性批判の精神を持ち合わせているのだ。よく知らないけど多分関東に住んでる哲学の偉い人が言ってるっぽいのでかっこいいなと思ってたまに使う。…あとわたしも平たいわけではない。一応揉める。吸える。挟めない。
コンコン、とノックをすればすぐに
『どうぞ』
との返事。カラリと軽やかにスライドするドアを開けて中に入ると、もう窓は閉められているのかすっかり室内は冷えていた。がらんとして殺風景なインテリアとは裏腹にあるべきものはしっかりあるらしい。
「邪魔すんでー」
『…?どうぞ』
ふむ。この子はボケ殺しの才能があるらしい。
邪魔していいらしいのでとりあえず部屋の中頃に配置されたパイプ椅子に腰をおろし、途中自販機で買ってきたミルクティーを2本並べる。
「お近づきの印。ミルクティーとミルクティー。どっちがお好み?」
『それは…ミルクティだね』
「不正解。…羽咲は…その2本のミルクティをどこで買ったのか聞いてほしいの…そして残りの2本のミルクティを一緒に買いに行ってほしいの…」
『そんなにのどが渇いてるんだ。どこで買ったの?』
「ブラボー!あなたには負けたよ!ほら飲め!」
『…?ありがとう。いただきます』
ずずいとミルクティーを手渡すと蓋を開けて飲み始める彼女。
全く美人は何をやってもサマになるものだ。
「ところで、それギターだよね。奈々…ちゃんは軽音部?」
『一応ね。どのバンドにも入ってないはぐれものだけどさ』
「倒したらいっぱい経験値貰えそうだね!」
『できればもうちょっと生きていたいんだけどね』
はじめてのツッコミはちょっと困ったような笑顔と共に入った。
さらりと流れる黒髪をかきあげて奈々は続ける。
『ギターも始めたばっかりでさ。…もう少しで何かが掴めそう。っていうか…』
羨ましいな。と正直に思った。
幼少期からこっち、親の勧めでいろんなものに手を出してきた。
しかしそのどれ1つとして      

「…暑い」
学校近くのセブンのビニール袋を提げ、学内で一番涼しいカフェテリアに向かう道すがら。校門から出て往復10分も歩いていないのに首筋には珠のような汗が伝う。
劣等生にとっては夏休み期間というのはただ補講という罰ゲームを受ける日々でしかない。あまりの暑さに目に見えるもの全てが揺らめき、更にカフェテリアを遠く遠くに感じさせる。もしかしたらたどり着いたかと思ったら蜃気楼のように消えてしまうんじゃないだろうか。なんて不安な気持ちにすらさせられてしまう
「ん…っ」
温暖化というのはCO2というものが悪くて、それはわたしの吐く息にも含まれているらしい。ならば息を止めていればその間だけでもわたしの周りの温度上昇は抑えられるだろうか。
「けほっ…けほ!…ふぁ…はぁ…」
30秒も持たずに咳き込み、肩を上下させつつ大きく呼吸した結果もっと暑くなってしまった。
なるほど、地球温暖化をなんとかするのは難しいというのがとてもよくわかった。
ぶんぶん、と気を取り直すように大きく頭を振ると、刹那激しい蝉時雨が止み、校内のあらゆる営みが音の奔流となって耳に飛び込む。
「つまんない」
グラウンドの運動部の男女のコーロ・ミストのバックに流れる種々のソナタがやけに耳に障る。本来ならばわたしもその音色の一部だったはずなのに補習のせいで…
「…ってわけじゃないんだよね」
もう少しでカフェテリア、というところでごそごそと袋の中に手を入れ、タフグミを取り出して1つ口に入れる。くにくにという食感が脳に刺激を与え頭が多少スッキリしてくるこの感覚は嫌いじゃない。
…そうだ。どのみち「つまんない」のだ。補習もなくあそこでオーボエを吹いていて、それで本当に楽しいのか。
取り立ててうまくもない。上達の兆しもそれにかける情熱もない。
ただなんとなくで続けているだけの、惰性と友情の混合液のような青春の一部。
他校にいる彼氏に頻繁に呼び出されないための口実の一部。
…みんなそういうものなのだろうか。
キラキラは極一部の努力できる才能のある者にのみ与えられるクラウンやティアラの残光でしかないのだろうか。
だったらその他大勢の高校生活って…人生って何なんだろう。
「ん?」
いざ行かん適温の楽園へ。と思いドアを明けた直後、異質な音が聞こえて足を止める。
聞こえてきた方角からして屋外のはずで。
「…暑い」
現状を確認するためにあえてもう一度口に出す。入れ。早く中へ。
「はぁ、全く何やってるん…」
ソーダ味のタフグミを新たに1粒放り込んで噛んで、思考は明瞭になっても足は止まらない。まっすぐ、その“異音”の聞こえる方へ。
「このへん…だよね?」
文化部室棟の裏手。吹奏楽部以外の殆どの部活はこんな時期に屋外に出て活動したりはしない。
基本的に窓を締め切って部室棟の裏なんかに人っ子一人いるはずもない。
実際見渡す限り無人なのにも関わらず、“異音”には近づいている感覚があった。
「あ」
そうしてやっと“異音”の正体に行き当たる。
エアコンを外に逃さないためか、しっかり閉め切れられた窓が並ぶ中、1つだけ全開放された窓。
“異音”からはっきり“ギターのメロディ”であると認識できたそれはそこから聞こえていた。
わたしはふらふらとそのメロディに引き寄せられるように歩を進め、窓を覗き込む。
ぱちり。
真正面から視線が合う「ないはずの音」が脳に届いた
「こ、こんにちはは!」
挨拶は先手必勝を旨としているわたしは反射的に声を上げる。少し声が震えてしまっているのは気のせいだ。
『…?』
相手は突然闖入してきたちんちくりんにきょとんとした顔をしたままギターを弾き続け、盛大に挨拶を空振ったまま見つめ続けるわたしとその子との間抜けなファーストコンタクトが20秒ほど続いて、突然はっとしたように彼女は演奏をやめた。
『こんにちは…』
警戒度は考えるまでもなくMAXスタート。
だが幸いにしてわたしはぱっと見人畜無害どころか誰の目からみても「弱そうないきもの」であるせいか、すぐに細めた目を開いてくれた。
…すごい美人だ。
校章の色的に同じ学年であることはわかるのだが、全然覚えがない
『ああ…』
相手はそんな反応に慣れているのか、微苦笑混じりに
『私一年のときあんまりガッコ来てなかったからさ』
と、わたしの疑問を先回りするように教えてくれた。
「うさだよっ」
自分を指差しながらわたしは自己紹介のつもりで言う。
『うん…?』
怪訝な表情をしたあと、少しだけ可愛そうなものを見る視線を感じる。弱きいきものはそういう視線に敏感なのだ。
「名前。羽咲だよ。あなたはっ?」
伝わらないもどかしさを声音に乗せ、再度自己紹介をする。
『うさださんだね』
珍しい名前だね、と付け加えて彼女は傍らにギターを置く。
違う。そうじゃない。脳内で水色のツインテールが「ファファファ」と独特の笑い声を立てる。ツインテなのは共通している、けれども。
『桜島奈々。はじめまして。うさださん』
クールガールだ。とても同じ学年とは思えないくらい落ち着いている。そしてギターをおろした事で気がついたけどでかい。何がとは言わないが。
「…ごめん。わたしが悪かった。雪平、名字が雪平で名前が羽咲。はじめましてっ」
自分の胸部に手のひらをぽんぽんと当てて、世界の女性のサイズが一斉に大きくなったのではないのだということを確かめて軽く絶望してからそう訂正を入れる。
『あ、なるほど。ごめんてっきり。あのさ…その』
「なになにっ?」
『暑くない?』
「……あぢいね」
わたしは彼女の招きに応じて、昇降口から校舎に入り、校内を抜けて部室棟に向かった。
袋の中のガルボはもうすっかりダメになっていそうだが、溢れた乳を嘆いても無駄っていうもんね。今のうちに立派なおっぱいを味わっておくがいいといつも思う。
とはいえ今から対面する相手もその平たくないおっぱい族に当たるためあんまり負の感情を表に出すものではない。相対的貧乳は純正理性批判の精神を持ち合わせているのだ。よく知らないけど多分関東に住んでる哲学の偉い人が言ってるっぽいのでかっこいいなと思ってたまに使う。…あとわたしも平たいわけではない。一応揉める。吸える。挟めない。
コンコン、とノックをすればすぐに
『どうぞ』
との返事。カラリと軽やかにスライドするドアを開けて中に入ると、もう窓は閉められているのかすっかり室内は冷えていた。がらんとして殺風景なインテリアとは裏腹にあるべきものはしっかりあるらしい。
「邪魔すんでー」
『…?どうぞ』
ふむ。この子はボケ殺しの才能があるらしい。
邪魔していいらしいのでとりあえず部屋の中頃に配置されたパイプ椅子に腰をおろし、途中自販機で買ってきたミルクティーを2本並べる。
「お近づきの印。ミルクティーとミルクティー。どっちがお好み?」
『それは…ミルクティだね』
「不正解。…羽咲は…その2本のミルクティをどこで買ったのか聞いてほしいの…そして残りの2本のミルクティを一緒に買いに行ってほしいの…」
『そんなにのどが渇いてるんだ。どこで買ったの?』
「ブラボー!あなたには負けたよ!ほら飲め!」
『…?ありがとう。いただきます』
ずずいとミルクティーを手渡すと蓋を開けて飲み始める彼女。
全く美人は何をやってもサマになるものだ。
「ところで、それギターだよね。奈々…ちゃんは軽音部?」
『一応ね。どのバンドにも入ってないはぐれものだけどさ』
「倒したらいっぱい経験値貰えそうだね!」
『できればもうちょっと生きていたいんだけどね』
はじめてのツッコミはちょっと困ったような笑顔と共に入った。
さらりと流れる黒髪をかきあげて奈々は続ける。
『ギターも始めたばっかりでさ。…もう少しで何かが掴めそう。っていうか…』
羨ましいな。と正直に思った。
幼少期からこっち、親の勧めでいろんなものに手を出してきた。
しかしそのどれ1つとして