0 【イジェンド】

魔物に襲われている心羽を助け出した男性。20代前半。全身黒の貴族服に翡翠のネックレスを首にかけ、ゆるいウェーブのかかった黒髪のシックな出で立ち。剣術で有名なオーブリー家の末裔。両手剣の扱いに優れているがコミュニケーションは苦手であり、ぶっきらぼうな口調と固すぎる表情筋が特徴。炎を付与する能力を持ち、剣の刀身に炎を灯して戦う。
心羽が持つ能力に気付き、最初に力を与えた。



俺は街でも有名な剣術家の父と温厚な母、そして左手が黒ずんだ小さな妹と質素な暮らしをしていた。俺には先天的に触れたものを燃焼させる力があったが、血統との因果関係は不明だ。
物心ついた頃には既に燃焼の能力を持っていた。中でも木の枝を燃やした時の小さな篝火はとても綺麗で、幼かった俺はさらに小さな妹にそれを見せてやろうと思った。
妹に燃える木の枝をのぞけたら、妹はその火を左手で触ろうとした。途端に妹の左手は炎に包まれたんだ。当たり前のことだが、当時の俺にはそこまで考えが及ばなかった。ぎゃあと泣き叫ぶ妹を見てはじめて自分が失態を犯したことに気付いた。燃焼には痛みが伴うということも、この時までは知らなかった。
普通のやけどなら時間の流れと共に少しずつ治るものらしいが、あれから数年経った今でも妹の左手の火傷痕は残り続けている。
俺はあれ以来、家族の前では燃焼の能力を使わないように心がけ、妹にはお詫びの品として翡翠のネックレスを買ってやった。
火傷を負いながらも妹は健気に成長した。しかし、黒ずんだ左手は度々からかいの的になった。妹をからかわれることは俺にとって屈辱だった。妹は何も悪くない、妹を馬鹿にする権利など誰も持っていない………。
ある時、妹は泣きながら帰ってきた。左手だけでなく、着ていた服の裾にも焼け焦げた跡があった。何があったか聞いても妹は答えなかったが、火傷痕のせいで妹は学舎で孤立しているらしいため不吉な予感がしていた。
3日後のことだ。学舎の裏でたまたま、妹がいじめられているのを目撃した。一方の男子が妹を押さえ、もう一方の男子がマッチに火をつけて妹に近づけ、怖がる様子を愉しんでいた。それを見た途端、俺の中でむご苦しい何かが溢れ出し、どよめく気持ち悪さに全てを支配された。
正気に戻った時には焦げた死体がふたつ、惨めに転がっていた。さっきまで妹を虐めていたクソガキを2人、この手で殺したことは確かに覚えていた。妹がいる前で火を使ったことを思わず後悔した。すかさず妹が無事であることを確認したが、その表情は先程にも増して蒼白になっていた。
「お兄ちゃん……殺しちゃダメだよ……」
その深刻そうな表情に、何かまずいことをしてしまったのではないかと焦るが、人殺しが悪い事だとは全く思わなかった。翌朝にはその表情の理由が明らかになった。。
殺したうちの片方がどうやら町長の息子だったらしく、オーブリー家には怪物の子がいるだの、関わると祟られるだの、不気味な噂が瞬く間に広まった。両親も急に忙しくなり、帰った時には疲れ果てている様子だった。世間から散々恐れられた俺は学舎から通学拒否され、妹も今以上に孤立してしまったためお互いに家から出ず、妹は母から勉学を、俺は父から剣術を教わった。
「大丈夫だイジェンド…お父ちゃんが絶対、お前たちを守ってやるからな」
噂のせいで父の剣術道場からは俺以外誰も来なくなり、収入源を失った両親は必死に職を探していたが誰にも雇ってはもらえず、毎日の食事も着る服も次第に貧相になっていった。さらに街の人々が夜な夜な家の前にやってきては罵詈雑言を叫ばれたり、ゴミを投げ入れられたり、レンガの塀を破壊されたりと嫌がらせが止まらなくなった。

妹は絶対に悪くない。悪いのは妹を虐めたあいつらとそれを信じるクズな大人たちだ。だったら俺はそのクズたちを全部殺してやる。
翌朝、俺は町長の屋敷の前で宣言した。
「おい町長。お前んとこのガキがやった悪事を認めず、ほかの奴らも巻き込んで俺の家族を除け者にしようとするなら、俺がお前たちを殺してやる。」
すぐに警備の者たちがやってきた。なんでもいい、町長の味方は全員殺す。町長の屋敷に乗り込み、そこにいた奴らを全員殺したが、町長の姿は見当たらなかった。
しかし家に戻ると、家族がみんないるはずの我が家が炎に包まれていた。町長が放火したんだとすぐに勘づいた。中にいた父と母と妹をすぐに助け出したが全員火傷で重症を負っており、手当をしてくれる医師もおらず、何もできなかった俺は家族が死んでいくのをただ見守るしかできなかった。
妹が死ぬ時も肌身離さず身に付けていた翡翠のネックレスを自分の首にかけて3人を埋葬すると、俺はこの街と関わることをやめ、1人で生きていく決意をした。当時俺はまだ11歳、妹は7歳だった。

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