0 これは私たちが紡いだ希望の物語 No.1 アバン修正 みんなに公開

その日も朝憬市(あかりし)の人々は、彼らにとっての日常を送っていた。そこに混在する幸福も悲哀も関係なく世界に陽は上り、時間の経過と共に沈んでいく。日食によって太陽そのものが黒く染まっていたことを除けば、街や人の様相は未だ日常のそれだった。街の住民の幾人かが不意に現れた暗い太陽を仰ぎ指す中、黒いゴシック系の出で立ちの男女が朝憬駅前の大規模交差点を歩いていた。その黒い礼服とドレス、陶器のような白い肌のコントラスト、そしてその虚ろな眼差しは、上空に異様さがある中でもいくらか周囲の人間の目を引いた。
「なにアレ?やばくない?」
「キモいんだけど、ウケる」
そう反応する人々と目が合っても、二人は眉一つ動かさない。男が薄ら笑いを浮かべたのは、交差点の中央で立ち止まり周囲と暗い太陽を見渡した時だった。女は黒い日傘の下、無表情で男に問う。
「…そろそろ、始めるか?」
「ああ、そろそろいいだろう」
男は掛けていたスクエア型の眼鏡を中指で押し上げて返答した。見開かれたその眼球は全て黒く染まっている。女もチョーカーのついた自身の首元を撫で、やはりその眼の全てを黒く染めた。
「なら、やろう」
女が告げたと同時に男女の身体を黒い靄が包み、その姿が異形の存在へと変わっていく。男の顔には鋭く釣り上がったカマキリの双眼が伸び、変化した剛腕には大鎌を携えていた。女は右腕に茨の鞭を携え、赤黒い姿に花びらの衣装を纏う。瞬間、その場に居た者は皆この異形らから距離を取った。だが同時にスマートフォンのカメラ機能で彼らを撮影するシャッター音も鳴る。バラの異形が注意を向けたその音の先では、金髪の若者がスマートフォンを向けていた。
「すげえ、アンタら例の怪…」
「煩わしい羽虫だ」
「…あぁ?」
言葉を遮られた若者はバラを威嚇するが、次の瞬間には茨の鞭がたやすく吹き飛ばす。交差点のアスファルトに身体を打って昏倒した彼の様に、周辺の人間の上げた悲鳴が交差点で響き渡った。

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パニック状態の中、方々へ逃げる人たちの慌てふためく声が朝憬駅一帯に響く。だがその向こうから先の交差点に向け、それぞれ人の波に逆らい駆ける少女と青年の姿がそこにあった。少女の右手、そのブレスレットに宿る彼女の従者が、この混乱状態を受けて主人へ警鐘を鳴らす。
「人が多い…お嬢様、如何なさいます!?」
「このまま変身する!」
「本気ですか!?」
疾走と共に赤い髪と学生服を靡かせて言う少女に、ブレスレットの従者がその驚愕の声を上げた。既にブレスレットが胸元に寄せられ、鳥を象った赤い宝石に左手が触れている。
その対方向を駆ける青年も懐のネックレスを取り出した。そこに結ばれた天体を模したキーホルダーを握った瞬間、彼の内に在る存在——居候から忠告が飛んできた。
「後でどうなっても知らんぞ」
「後を考える余裕あるか?お前も構えろ!」
青年は居候に皮肉を返し、少女も従者に指示を告げる。
「交戦に入るタイミングで、あなたも出てきて!」
「承知!」
そして少女が叫ぶようにその呪い(まじない)詠唱し、青年はキーホルダーを握る右手に念を込めた。その瞬間、日食を起こしていた空が晴れ上がり、人々が一様に顔を上げた。
「チェンジ、フレイミングドレス!」
その時、二人の身体から光が発し、その構成が変わっていく。少女の髪は更に燃えるような赤となり、薄紅と深紅で彩られた羽衣を魔法による神秘と纏う。そして左手には焔の弓を携えていた。青年もまた甲虫を思わせる面を顔の右半分に付け、右腕と左脚を異形に変える。右腕にはその甲殻から形成された槍と爪が突きだしていた。
人々が太陽に気を取られている間に変身した二人は、そのまま走りゆく中で人を襲う低級の怪物らを薙ぎ払い、司令塔たるカマキリとバラの二体が暴れる交差点にたどり着く。今まさに逃げ遅れた人を手にかけようとしている二体を阻止すべく、攻撃を仕掛けた。
「イグニス・レッドアロー!」
その背に白い翼を宿して飛翔した少女が、携えた弓矢に炎の魔法を付与し、バラに向けてその矢を放つ。同時に甲虫となった青年が跳躍と共に掛け声を上げ、カマキリへ跳び蹴りを放った。
「余所見か、おい!」
二体は瞬時に矢と跳び蹴りの直撃を避けるべく防御態勢を取る。間髪入れずに少女が声を張った。
「早く逃げて!」
「あ…」
すぐそこまで迫っていた脅威に対し、逃げ遅れた若い女性は未だ身を竦ませる。カマキリとバラは尚も獲物である彼女へと迫った。しかしそちらに攻撃が向かうことは、飛び出した少女の従者である火の鳥が許さない。燃焼と共に突撃した火の鳥の翼が、バラとカマキリの身体を打った。
「やらせはせんぞ!」
バラとカマキリは即座に体勢を立て直すも、その隙に女性が逃げたのを確認し、少女は怪物二体に向けてその意思を強く発した。
「この街に、手出しはさせない!」
しかし少女がそう告げた瞬間にバラがその左手を翳し、花びらを旋風と共に弾丸のように撃ち出す。すぐに青年が少女の前に割って入り、その大きな甲殻で花びらを弾いて防いだ。バラが舌打ちすると共に茨の鞭を振り下ろし、少女たちに向けて冷淡に告げる。
「招かれざる客だ、去ね」
「はっ、人間みたいなこと抜かすなよ。ゲテモノが」
そのままカマキリと共に突撃を仕掛けるバラの酷薄と、それを迎え撃つ青年の皮肉とが、鞭と甲殻の槍腕に乗せられて衝突する。両者の獲物が三手ぶつかり合った次の瞬間、四手目で鞭が槍腕に絡みついた。眼前には迫るカマキリ。横薙ぎに一閃加えられるかと青年は身構えたが、その時少女の炎の魔法がカマキリの足元で火柱を立ち上らせた。
「イグニス・フレアウォール!」
爆炎がカマキリに確かな一撃を与えると共に、火の鳥が羽ばたき炎の風を巻き起こす。しかしバラとカマキリは迸る炎を紙一重で躱した。その跳躍と回転のまま花びらを撃ち、大鎌から衝撃波を発する。少女たちは即座に防御するも、その攻撃は彼女たちを確かに怯ませた。
「流石にやるな…」
「オレが出るか…?」
「いや、まだだ」
青年が居候に向けてそう言った瞬間だった。強度を増した茨の鞭がしなやかに伸縮し、青年の身を突き刺さんと迫りくる。そして少女の背後には、瞬時に移動し大鎌を振り被るカマキリの姿。求められる即座の判断。切り抜けるには——。
「…クソっ、ネーゲル!」
青年は槍腕に備わる爪で鞭を斬ると共に叫び、居候の名を呼んだ。瞬間、胸のキーホルダーが赤い閃光を放ち、青年と背中合わせに白銀の鴉を思わせる大きな異形が現れる。ネーゲルは少女に迫る大鎌を、携えた太刀で瞬時に防いで少女を守った。同時に少女は右手に魔力を込め、カマキリに零距離の火炎弾をぶつける。苦悶の声が響く中、火の鳥もその嘴から炎を浴びせかけてカマキリを追撃する。
「リーン!このまま…」
「ああ!」
青年——リーン、そしてネーゲルがバラを見据え、少女と火の鳥がカマキリに向かう形で背中合わせになった。交わされる短い言葉を合図に、彼らは眼前の敵へと武器を掲げる。リーンの槍腕とネーゲルの太刀が雷光を纏い、少女と火の鳥が魔力の奔流を弓矢と翼に込める。火炎の矢とカマキリの間には魔法陣が形成され、ネーゲルの太刀が突き立てられると雷が地を這いバラに迫った。矢を射る少女の詠唱と、槍腕から球状の雷撃を打ち出す青年たちの掛け声がその場にこだました。
「イグニス・プロミネンスシュート!」
「やああぁぁ!!」
炸裂した渾身の一撃、爆ぜる衝撃。バラとカマキリが苦悶を叫ぶ。直後に上がった爆炎と煙に向け、肩で息をしながら少女が小さく呟いた。
「…やった?」
その言葉を耳にしながら、リーンもまた自身の眼前の爆炎から目を離さない。が、直後にその目は見開かれた。すぐ傍で少女もまた息を飲んだ音が聞こえる。炎と煙の合間——その向こうにはダメージを負いながらも、未だこちらを睨みつけるバラとカマキリの姿が在った。

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「…しぶといな」
未だ怪物たちに挑みかかるように一歩前に歩を進めるリーンに、少女は一言問いかける。
「まだ、いける…?」
背中合わせに問いかける少女の目は細められ、眉は少し寄せられていた。しかし見えないはずの表情と優しさに対し、青年は静かに答える。
「やれるだけやってみるさ…君の前だからな」
リーンの左目に込められた静かな力。少女もまたそれを見ることは無かったが、そこからもたらされる励ましに一瞬表情を緩め、微笑んだ。そして静かに、しかし力強く返答する。
「うん、信じるよ」
そうして二人は眼前の敵を見据えた。火の鳥とネーゲルもその構えを崩すことなく、少女とリーンに追随する。その様をカマキリは鼻で嗤った、直後にバラは淡々と口火を切る。
「いいだろう、お前たちの儀式への参加を許す…これまでの狼藉とまとめて」
「ただし、供物としてだ。まだ”守り人”を気取るなら…処すまでよ」
異形ら二体はそれぞれにそう告げると、互いの右手を天に掲げた。そこから紫に輝く光が辺りを照らす。するとすぐに低級の怪物の群れが交差点に現れた。召喚術を用いた伏兵。それを受けて少女は眉根を寄せ、震えて揺らぐ。
「早く我々を止めねば、皆死ぬぞ?」
「お前たちの正義はそれを許すのか?」
嘲笑と共に、彼女たちを揶揄する怪物たち。ただそこに生きる人の幸せを何だと思っているのか…少女の危機感が怒りと焦りに変わり、その表情を更に歪ませる。リーンはすぐにそれを察知すると、異形の槍腕に力を籠め、バラへと向いた視線を揺らがすことなく一言告げた。
「殺される奴が語る正義なんてねえだろ、死ねよ」
「なに?」
その言葉に反応する怪物たちと同時に、少女と火の鳥が弾かれてようにリーンを見遣る。微動だにしなかったのはネーゲルだけだったが、その右目は僅かに狭められた。リーンは少女にだけ向けて小さく「大丈夫、悪いな」と告げる。この人はいつもそうだ。戦うときはいつも強がって凄むけれど、私にはいつも小さく謝ってくる。
「正義なんて便所に棄ててんだよこちとら…お前らクソどももそうしてやるつってんだ」
強いのか弱いのか分からないが恐らく後者だろう。この本来優しい人が覗かせる、この慟哭めいた表情は何なのだろうか。少女の胸中はその心を思う憂いに揺れ、痛みに疼いた。

//ギルです。かなり戸惑わせてしまってますが、一応アバンの代替案を調整してみています。一応こちらも上げておきますね。その後、いくらか修正してます。何度もすみません(;'∀')

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