0 鴉と火の鳥

鴉は自分にも世の中にも愛想が尽きていました

その昔、ある雪山で見た優しく、気高く、美しい旅人の姿に、鴉は魅せられていました

ですがその旅人の姿は、鴉にはとても追いつくことは叶わなかったのです

それが分かりながらも、鴉はせめて、心だけでも優しく、気高く、美しくなりたいと思いました

ですが、鴉はそうはなれませんでした
鴉は出来るだけたくさんの動物の話を聞き、話しました
どうやって優しく生きていくか、どうすれば優しいと言えるのか
ですが他の動物に寄り添うには、鴉の体は黒く薄汚れていました
そして、他の動物の悩みを聞き、頷き、言葉を返すには、鴉のしゃがれた声では難しかったのです
鴉はなにも出来ない自分にとうとう疲れてしまいました
それと共に鴉は森の動物と上手くやっていくことが
出来なくなりました
心が苦しくなった鴉は、とある木の上だけで過ごすようになりました

そんなある日、鴉は雪山の旅人のことをふと思いだし、泣き出しそうにしていると空を舞う火の鳥と出会いました
火の鳥は鴉に言いました
「鴉さんが生きてるってことは、誰も"違う"とは言えないよ。いいんだよ」
鴉はその言葉を、どう受け止めようかと思いながらも、確かに自分でも"違う"とは言えませんでした
何より、火の鳥は雪山の旅人ともまた違う、その一枚一枚が暖かく綺麗な赤い翼や、慈しみを含んだ麗しい瞳を持っていました
そしてそんな火の鳥が、話しているうちにかけてくれた「鴉さんは、私にない素敵なものを持っているよ」
という言葉
綺麗な火の鳥が心からそんな言葉をかけてくれて、鴉はとても嬉しかったのです
その日から、火の鳥と鴉は友だちになりました

火の鳥と鴉は、お互いのことを色々話しました
火の鳥は夜に瞬く星々や、魔法の物語が好きでした
鴉は火の鳥のことを、もっと知りたくなりました
その日から鴉は火の鳥を見つけると話しかけるようになったのです

そんなある日、ふと火の鳥の翼が傷ついているのを見つけました
「火の鳥さん、その怪我はどうしたの…?」
鴉は思わず血相を変えて言いました。その傷はどうしてか鴉の胸を締め付けます
「大丈夫だよ、鴉さん…ちょっと失敗しちゃった」
火の鳥は鴉の反応に驚いて翼を隠すと、それだけ言ってその場を去ってしまいました

メモを更新するにはあいことばの入力が必要です

0

メモを他の人に見せる

このメモを見せたい人に、このURL(今開いているページのURLです)を教えてあげてください

コメント(0)

  • someone

  • someone