フィルム・エクス・マギア version 2

2019/09/04 14:56 by sagitta_luminis sagitta_luminis
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フィルム・エクス・マギア
目が覚めると、リーンは書斎にいた。
いや、むしろとても書斎とは呼べない、部屋なのかすら怪しい異質な空間にいたが、直感が書斎だと告げていた。
床は透明で歩けるが触れられず、その向こうに色のない空間が広がる。壁はなく開放的な空間に、本棚が整然と果てしなく並べられている。
その空間の中を歩いていると、倒れて本が溢れ出した本棚を見つけた。本棚には大きな傷跡があり、すぐそばに星剣アイギスによく似た、片刃の剣が落ちていた。
倒れた時に飛び出たであろう、開かれた本からは文字列が溢れだしていた。文字だけが、本来あるべきページから浮き上がり、鎖のように繋がってどこかへ伸びている。その文字列の行く先を目で負う。すると、その先には心羽が倒れていた。意識を失っているようで、起こしても目を開けない。
あたりを見回すと他にも開かれた本がいくつもあり、その全てが文字列となって心羽に伸びている。その身体は文字列で縛られ、心羽の右手からは、文字列が血のように流れ出ている。流れる文字列は少し先にある一冊の分厚い本に向かい、白紙のページを少しずつ埋めていく。リーンは縛られた心羽を解こうと文字列の鎖に手をかけたその瞬間、文字列が紡ぐ物語の世界に取り込まれていった。

《———》

戻ってきたリーンは、他の文字列にも触れてみた。すると、そこにもまた別の物語が広がっていた。

《———》



《———》

戻ってきたリーンは、片刃の剣の存在を思い出した。落ちていた場所へ拾いに行き、その剣を手に取って心羽を縛る文字列の鎖を断ち切った。
しかし、心羽は一向に目を覚まさなかった。心羽から流れていた文字列の流れは止まり、その先にある分厚い本への記述も止まった。
リーンはその本を拾い上げ、最後の行を読む。
《———その剣を手に取って心羽を縛る文字列の鎖を断ち切った。》
そこには、たった今リーンが行ったことが記載されていた。リーンは思わずハッとして、ページを遡る。
《———意識を失っているようで、起こしても目を開けない。》
《———目が覚めると、リーンは書斎にいた。》
さらに遡る。
《———》
《———》
そうだった。リーンは敗れたのだ。心羽を、世界を守れなかった戦いの末に、命を落としたのだった。
…だとしたら、この空間は?今いるこの場所は、なんなのだろうか。
さらにページを遡る。
《———》
《———》
《———赤い髪の少女は、もうどうにもならないぐちゃぐちゃな感情のままで、宙へと身を投げた。》
…これは、弓音だろうか。
《———》
《———》
《———その夜は星空が一面に広がっていた。》
最初ページにたどり着いた。最後に、本の表紙を見る。
《———朝憬への詩》
この本は一体…。これまで自分たちの成してきたできごとが明確に記されているのはわかるが、この『朝憬への詩』とはどういうことなのか。まさか、これまで体験した時間は物語だったと言うのだろうか。
だとしたら……こんな脚本でいいはずがない。リーンは心羽が命を落とす前のページを開き、それ以降のページを破り捨てた。そして、出てきた白紙のページに筆を取った。背後で心羽の寝ぼけた声が聞こえた。だとしたら……こんな脚本でいいはずがない。リーンは心羽が命を落とす前のページを開き、それ以降のページを破り捨てた。そして、出てきた白紙のページに筆を取った。その瞬間、断ち切った文字列たちがリーンの両脚に縛りついた。背後で心羽の寝ぼけた声が聞こえた。      

目が覚めると、リーンは書斎にいた。
いや、むしろとても書斎とは呼べない、部屋なのかすら怪しい異質な空間にいたが、直感が書斎だと告げていた。
床は透明で歩けるが触れられず、その向こうに色のない空間が広がる。壁はなく開放的な空間に、本棚が整然と果てしなく並べられている。
その空間の中を歩いていると、倒れて本が溢れ出した本棚を見つけた。本棚には大きな傷跡があり、すぐそばに星剣アイギスによく似た、片刃の剣が落ちていた。
倒れた時に飛び出たであろう、開かれた本からは文字列が溢れだしていた。文字だけが、本来あるべきページから浮き上がり、鎖のように繋がってどこかへ伸びている。その文字列の行く先を目で負う。すると、その先には心羽が倒れていた。意識を失っているようで、起こしても目を開けない。
あたりを見回すと他にも開かれた本がいくつもあり、その全てが文字列となって心羽に伸びている。その身体は文字列で縛られ、心羽の右手からは、文字列が血のように流れ出ている。流れる文字列は少し先にある一冊の分厚い本に向かい、白紙のページを少しずつ埋めていく。リーンは縛られた心羽を解こうと文字列の鎖に手をかけたその瞬間、文字列が紡ぐ物語の世界に取り込まれていった。

《———》

戻ってきたリーンは、他の文字列にも触れてみた。すると、そこにもまた別の物語が広がっていた。

《———》

《———》

戻ってきたリーンは、片刃の剣の存在を思い出した。落ちていた場所へ拾いに行き、その剣を手に取って心羽を縛る文字列の鎖を断ち切った。
しかし、心羽は一向に目を覚まさなかった。心羽から流れていた文字列の流れは止まり、その先にある分厚い本への記述も止まった。
リーンはその本を拾い上げ、最後の行を読む。
《———その剣を手に取って心羽を縛る文字列の鎖を断ち切った。》
そこには、たった今リーンが行ったことが記載されていた。リーンは思わずハッとして、ページを遡る。
《———意識を失っているようで、起こしても目を開けない。》
《———目が覚めると、リーンは書斎にいた。》
さらに遡る。
《———》
《———》
そうだった。リーンは敗れたのだ。心羽を、世界を守れなかった戦いの末に、命を落としたのだった。
…だとしたら、この空間は?今いるこの場所は、なんなのだろうか。
さらにページを遡る。
《———》
《———》
《———赤い髪の少女は、もうどうにもならないぐちゃぐちゃな感情のままで、宙へと身を投げた。》
…これは、弓音だろうか。
《———》
《———》
《———その夜は星空が一面に広がっていた。》
最初ページにたどり着いた。最後に、本の表紙を見る。
《———朝憬への詩》
この本は一体…。これまで自分たちの成してきたできごとが明確に記されているのはわかるが、この『朝憬への詩』とはどういうことなのか。まさか、これまで体験した時間は物語だったと言うのだろうか。
だとしたら……こんな脚本でいいはずがない。リーンは心羽が命を落とす前のページを開き、それ以降のページを破り捨てた。そして、出てきた白紙のページに筆を取った。その瞬間、断ち切った文字列たちがリーンの両脚に縛りついた。背後で心羽の寝ぼけた声が聞こえた。