No.3 3/3 version 39

2021/09/13 11:21 by someone
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No.3 3/3
「…最後に高山さんと話したのは、何時ですか?」
”人の話”を聞くことはもう苦痛ながらも、どうにか話を続けようと剣人は言葉を絞り出した。神経的に昂っているのか、手足が徐々に痺れたような感覚に陥る。
「今月の19日、メールで話した。その時にはもう怪物のことは言ってたよ…他の誰かにもそのことは言っちゃってたみたいでさ、次の日には付き合いがある奴らがネタにしてたよ」
その言葉と共に横尾は視線を手元のコーヒーへと落とす。その目にはどこか愁いが宿っていた。
「それを知ったかのかどうなのかわからないけど、その後は電話にも出てくれないし、会ってもくれない。俺は、何もしてやれない…」
「……」
そう呟く横尾の空虚に、剣人はかける言葉を持てなかった。知らず、顔がこわばる。もう聞きたくない。関係ない人の話を聴いたところで何になるんだ。
「だからかな…花森君が大変そうな高山と似たような顔でアイツのこと聞いてきたからか…初対面なのにマジでこんな話をしてる」
「…優しいんですね」
とりあえずはそれだけ返す。それだけ返すのが精一杯だった。高山は「そうでもないさ」と苦笑していた。

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翌日4月28日の夕方、剣人は西朝憧駅前で横尾と待ち合わせていた。西朝憧は中心街としての朝憧に次いで二番目に大きい街であり、その街並みとしては種々の商業施設やデパート、スーパーや飲食店が立ち並んでいる。一方で視点を少し遠目に向ければ方々に山が見え、利便性と自然が両立した過ごしやすい土地といえた。駅前での人々の往来を眺めながら、剣人はふと思う。自分にとんでもないことが起きても、世界は今のところ平和だ。もちろんそんなものだろうとは思うし、自分も行き交う人々も、互いの事情は分からない。だがそこにはそれぞれの出来事が、それぞれの形で在る。それは二十歳近くにもなれば多少は見聞きしてきたつもりだ。
「……はぁ」
そう考えてはいるものの、どうにもため息は口をついて出る。昨日の情報共有の場では、最終的に横尾と共に高山と会うことになったのだが、正直億劫だった。あの後話し続けても、互いに抱えている事情が垣間見えるだけで、怪物に対しての有用な情報などはなかったからだ。
「別に人間の相手なんて、もうしたいわけじゃないのにな」
一人呟くその言葉は、誰に聞かれるでもなく夕焼けの朱に溶けていく。その時だった。剣人のスマートフォンの着信音が鳴る。取り出して画面を見ると、横尾の名前が表示されていた。











待ち人が来るまでにと、スマートフォンで自身に起きた事件と高山の事件についての情報を検索してみる。
警察や自治体の公式の発表以上の情報は今のところはない。







ここに至るまで世間の反応を気にする心理的余裕もなく、関連するキーワードを用いたネット検索も避けてはいたが、これから高山本人と会ってみる以上、多少は情報を仕入れるだけはして










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以下の文章を剣人の視点から変え、心羽パート導入に向けて改造を試みる。

そう考えた故に検索してみたが、無駄だったか…そう思いながらもあるSNSにて、再度「朝憧」、「怪物」、「化け物」等とキーワードを入れ、よりタイムリーかつ当事者性に迫った内容がないか検索を続ける。ヒットした書き込みはその殆どが関係ないものだったが、その時一つの書き込みが剣人の目に留まった。
”朝憧に何かいるんだけど…”
その書き込みにはショート動画が添付されていた。辺りは夜で街灯が灯っていることがわかるものの、酔っぱらって取られた動画だったのだろう。赤い顔をした投稿主やその仲間たちと思われる青年が4人映って盛り上がっているが、そのアングルは定まらずブレており、写すものが判然としない。
      

「…最後に高山さんと話したのは、何時ですか?」
”人の話”を聞くことはもう苦痛ながらも、どうにか話を続けようと剣人は言葉を絞り出した。神経的に昂っているのか、手足が徐々に痺れたような感覚に陥る。
「今月の19日、メールで話した。その時にはもう怪物のことは言ってたよ…他の誰かにもそのことは言っちゃってたみたいでさ、次の日には付き合いがある奴らがネタにしてたよ」
その言葉と共に横尾は視線を手元のコーヒーへと落とす。その目にはどこか愁いが宿っていた。
「それを知ったかのかどうなのかわからないけど、その後は電話にも出てくれないし、会ってもくれない。俺は、何もしてやれない…」
「……」
そう呟く横尾の空虚に、剣人はかける言葉を持てなかった。知らず、顔がこわばる。もう聞きたくない。関係ない人の話を聴いたところで何になるんだ。
「だからかな…花森君が大変そうな高山と似たような顔でアイツのこと聞いてきたからか…初対面なのにマジでこんな話をしてる」
「…優しいんですね」
とりあえずはそれだけ返す。それだけ返すのが精一杯だった。高山は「そうでもないさ」と苦笑していた。

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翌日4月28日の夕方、剣人は西朝憧駅前で横尾と待ち合わせていた。西朝憧は中心街としての朝憧に次いで二番目に大きい街であり、その街並みとしては種々の商業施設やデパート、スーパーや飲食店が立ち並んでいる。一方で視点を少し遠目に向ければ方々に山が見え、利便性と自然が両立した過ごしやすい土地といえた。駅前での人々の往来を眺めながら、剣人はふと思う。自分にとんでもないことが起きても、世界は今のところ平和だ。もちろんそんなものだろうとは思うし、自分も行き交う人々も、互いの事情は分からない。だがそこにはそれぞれの出来事が、それぞれの形で在る。それは二十歳近くにもなれば多少は見聞きしてきたつもりだ。
「……はぁ」
そう考えてはいるものの、どうにもため息は口をついて出る。昨日の情報共有の場では、最終的に横尾と共に高山と会うことになったのだが、正直億劫だった。あの後話し続けても、互いに抱えている事情が垣間見えるだけで、怪物に対しての有用な情報などはなかったからだ。
「別に人間の相手なんて、もうしたいわけじゃないのにな」
一人呟くその言葉は、誰に聞かれるでもなく夕焼けの朱に溶けていく。その時だった。剣人のスマートフォンの着信音が鳴る。取り出して画面を見ると、横尾の名前が表示されていた。