その出会いは version 3

2025/02/02 22:12 by someone
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その出会いは
 その日の深夜2時、花森健人は夜の朝憬市東部をあてもなく歩いていた。茫然自失の徘徊と言ってもいい。未だ家のベッドで眠りたくもあったが、目が冴えた今は何よりも現実から離れたかった。脳裏に浮かぶのは、誰に何が出来ていると言えるのかもわからない、福祉施設のアルバイトでの上司の言葉。
「あんた何も出来ないね」
そちらに言われたくはない。俺とあんたらは同類だ。所詮、面倒臭いだけだけど。自身の内だけでそう吠える負け犬と共に、家の玄関を開けて外に出る。とっくに日の沈んだ街並みは、人の眠りと共にその雑踏と電気の光を消していた。本来なら夜の危険さは世の常であるが、この時だけは、抱えた厭世感ごと自分さえ消えられたような錯覚が出来た。
 季節は2月。来月には17になるが、健人の自我は悲鳴を上げていた。理由は、一言で言えば自他への諦念だった。始まりは、誰かが誰かの玩具を取っていたころからか。その時はそっと、自分が玩具を持ち主のところに返しておいた。だが、そんなことが出来たのは最初だけの話で、その後程なく、この世界は欺瞞と利害で成り立っていることを知った。そしてそのためには、人も自分も容易に残酷になれ、また狂えることを否応なしに思いしらされた。苛めに傷つく誰かが泣いて、傷つけた誰かが嗤っていたことを、今も覚えている
 健人としては、その中あっても優しくあろうと努めたつもりだった。しかし現実問題、彼は愚鈍だった。彼は自他共にその事情や思いが複雑に絡まっている世界を、まるで認識しきれなかった。そのため気取った優しさもまた常に本質を欠いた欺瞞でしかなかった。何より何にも手が届かない無能と無力は、夢想と現実の狭間に苦しむ健人に、その影を色濃く拡げていた。人は皆、それぞれの抱えたものと、抱えた誰かとの関わりから逃れることはできない。そして欺瞞も利害も、そこから生まれていたことを、独り善がりの果てにようやく理解した時には、花森健人はこの夜を彷徨っていた。
 季節は2月。来月には17になるが、健人の自我は悲鳴を上げていた。理由は、一言で言えば自他への諦念だった。始まりは、苛めに傷つく誰かが泣いて、傷つけた誰かが嗤っていたこと。健人としては、可能な限りは人に優しくあろうと努めたつもりだった。しかし現実問題、彼は愚鈍であり、自他共にその事情や思いが複雑に絡まっている世界を、まるで認識しきれなかった。に気取った優しさも本質を欠いた欺瞞でしかな、無能と無力は、その影を色濃く拡げていた。人は皆、それぞれの抱えたものと、抱えた誰かとの関わりから逃れることはできない。独り善がりの果てに、それをようやく理解した時には、健人はこの夜を彷徨っていた。
「どうするか…」
 朝の迎え方もわからず、ただ現実に怯えて進める歩に、行き先など無い一方で自己を守る思考も、別にないつもりだった。でなければ、こんなことは出来ない。漠然と、死にたいのだろうかと考えた。否定肯定も出来ない。そんな問答さえも、陳腐なもののような気がする。だったらーー。
 朝の迎え方もわからず、ただ現実に怯えて進める歩。自己を守る思考も、別にないつもりだ。でなければ、こんなことは出来ない。漠然と、死にたいのだろうかと考えそんな問答さえ陳腐なもののような気がした。だったらーー。
「どうでもいいか」
そう独り言ちたその時、不意に誰かの声が聞こえた。
そう呟いたその時、不意に誰かの声が聞こえた。

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その日の深夜2時、花森健人は夜の朝憬市東部をあてもなく歩いていた。茫然自失の徘徊と言ってもいい。未だ家のベッドで眠りたくもあったが、目が冴えた今は何よりも現実から離れたかった。脳裏に浮かぶのは、誰に何が出来ていると言えるのかもわからない、福祉施設のアルバイトでの上司の言葉。
「あんた何も出来ないね」
そちらに言われたくはない。俺とあんたらは同類だ。所詮、面倒臭いだけだけど。自身の内だけでそう吠える負け犬と共に、家の玄関を開けて外に出る。とっくに日の沈んだ街並みは、人の眠りと共にその雑踏と電気の光を消していた。本来なら夜の危険さは世の常であるが、この時だけは、抱えた厭世感ごと自分さえ消えられたような錯覚が出来た。
 季節は2月。来月には17になるが、健人の自我は悲鳴を上げていた。理由は、一言で言えば自他への諦念だった。始まりは、苛めに傷つく誰かが泣いて、傷つけた誰かが嗤っていたことか。健人としては、可能な限りは人に優しくあろうと努めたつもりだった。しかし現実問題、彼は愚鈍であり、自他共にその事情や思いが複雑に絡まっている世界を、まるで認識しきれなかった。故に気取った優しさも本質を欠いた欺瞞でしかなく、無能と無力は、その影を色濃く拡げていた。人は皆、それぞれの抱えたものと、抱えた誰かとの関わりから逃れることはできない。独り善がりの果てに、それをようやく理解した時には、健人はこの夜を彷徨っていた。
「どうするか…」
 朝の迎え方もわからず、ただ現実に怯えて進める歩み。自己を守る思考も、別にないつもりだ。でなければ、こんなことは出来ない。漠然と、死にたいのだろうかと考えるも、そんな問答さえ陳腐なもののような気がした。だったらーー。
「どうでもいいか」
そう呟いたその時、不意に誰かの声が聞こえた。

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