これは私たちが紡いだ希望の物語  No.1 1/2 version 26

2022/05/25 03:55 by sagitta_luminis sagitta_luminis
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これは私たちが紡いだ希望の物語  No.1 1/2 【A】
 2020年、4月12日。その日、朝憬市立朝憬英道大学二回生である花森健人は、同大学B棟3階、第2講義室にて行われる人体の機能と構造の講義に出席していた。
「…そのためICF、国際生活機能分類では…」
時間は10時51分。単調な講師の話と昼食までもたない空腹、そして気怠さによって、既に講義に意識を集中させることが難しい。天を仰ぐように軽く首を逸らした後、左目を瞬かせて再度講義を聴くよう努めるが、そこに加わる周囲の学生らの小声の数々が健人の意識をかき乱す。最早聴講することは投げ出して、健人は前方を向いて時間をやり過ごすことだけに注力していた。そんな折、彼の着いている講義室中段の席の一つ前で、男子学生の二人組が小声でとある都市伝説の話が耳に入ってくる。
「また出たって、”赤髪の魔女”」
「お前好きだな、その与太話」
話を振った方の小柄な男子学生が「講義よりは面白いだろ」と渇いた笑みを浮かべて小声で話し続けた。
「それがここから近いんだよ、朝陽町の教会の近くで怪物と争ってたってSNSでさ…」
「お前その感じ、特撮とかそういうもんの延長で見てんだろ。別に否定はしないけど、俺にそれを話されてもさ」
話を聞くガタイのいい男子学生がその大きな肩を竦ませ、呆れた口調で返す。
「なんだよ…なんか、イケてんじゃん。赤髪の魔女」
「多分、お前はダサいけどな…」
ガタイが小柄に毒づくのに共感し、健人は小柄の方を冷ややかに見るものの、気が付けば講義よりもそちらの話ばかりを耳が拾っていた。最終的に講師が講義終了を告げると同時に、健人の胸中には苦い自己嫌悪が広がる。講師と学生らがそれぞれの荷物をまとめて講義室を後にする中、同じゼミに所属する友人である横尾和明が上の空である健人の下にやってきてその肩を叩いた。
「お疲れ、花っち」
「ああ、お疲れカズさん」
「どした?また夜更かしして絵でも描いてたのか?」
心ここに在らず——そんな健人のうだつの上がらない声に、和明は苦笑しながらその理由を問う。
「いや、それが…何て言うかさ…」
「うん、どした?」
「何で俺、この勉強してるんだっけって思ってさ」
話はそこで一瞬間が空いた。和明の口から「…え?」という一音だけがポツリと零れる。
「…とりあえずちょい早いけど、飯行く?」
「行く。腹減った」
怪訝な顔と共に言った和明の一言に即答し、健人は傍らのショルダーバッグを掴んで席を立った。

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「なんか最近花っち、ボーっとしてること多いけど…さっき言ったの、深刻なやつ?」
「深刻、なのかな?それもぼんやりしててさ」
英道大学の学食の食堂にて、熱い醤油ラーメンを息で冷ましながら和明が言った。健人は唐揚げ定食に付けあわされたキャベツを貪る合間にそれに応える。どんぶりから立ち上る熱い湯気に和明の眼鏡が曇った。
「モラトリアムだな~」
「俺もそう思う…まあ、そういう奴もいるさ」
和明の感想の一言に対し、健人は苦笑しつつ応えながら唐揚げを口に入れた。肉の旨味と油、柔らかさに、続くご飯が大口を開けた中へと消えていく。ラーメンを啜る和明の眼鏡は未だに曇っていた。やがて咀嚼と嚥下を一先ず終えると、健人は努めて軽い口調で話し始める。
「自分が信じてたものが、ここしばらくわからなくてさ」
「ここしばらくってどれくらい?」
「2年ちょい」
和明の持った箸の先が、ラーメンのスープに浸かったまま止まった。
「…長いな、ていうか高校からか。信じてたものって、どんなのか聞いてもいい?」
丁寧に尋ねる和明に友人としての誠実さを感じながらも、健人は僅かに俯いてラーメンのどんぶりに視線を外す。しかしその目の端には、眼鏡の向こうで和明の目が少し動いたのが見えた。
「人を思ってた自分、かな」
和明は頷くと一瞬だけ眉根を寄せる。健人もドリンクのウーロン茶にしか手が伸びなかった。
「…深刻じゃん」
「やっぱ?」
「少なくとも、確かに学業の目的には関わるな…でも…」
その真剣な表情の前で両腕を組む姿は、健人の胸に一瞬沈鬱なものを抱かせる。だが次に続く言葉に健人は呆気にとられた。
「とりあえず食おう!このままじゃ飯が冷める、大事なことだし食べてから考えよう!」
気を取られて一瞬間が空いたところに「…マズかった?」と問う和明。その動揺が見られる様に健人は思わず笑った。
「そうだな、確かにラーメン伸びるし飯もカピカピになるわ、これじゃあ」
笑い声と共に大仰に頷き、唐揚げとご飯を平らげんとする健人を和明はじっと睨む。しかし次には和明も静かに笑い、レンゲでスープを掬っていた。
「まあ、話せる時にでも話しな。もし花っちが良ければ聞くから」
「助かるカズさん、甘えるわ…俺には今そういうのが要るんだ。多分」
そんな和明の様に、健人はようやく自身の思いを伝える。そうして唐揚げの最後の一個を口に入れた。

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 同日午前11時36分、朝憬市中央部駅前の街中。そこに位置する朝憬市役所ビルを、突如として不可思議な暗闇が包み、その数十分後には周囲に報道陣や人々が集まっていた。
「ご覧ください。こちら、朝憬市市役所ビル前の現在の様子です。地上13階のビルとその地下3階、そしてその周囲は今、暗雲とも霞ともつかぬ暗闇に包まれており、中の様子は一切不明です。私ども取材スタッフも4名が向かいましたが、その後一切の連絡が付きません」
テレビ局のアナウンサーが向けられたカメラへと状況を語る。そんな報道陣の周囲では近隣の住民が野次馬となり、また市役所職員等の関係者らしき人達が状況を見守っていた。
「中の人たち、どうなってんだ…」
「誰か、この人を見ませんでしたか?どうしたら…」
「誰か、この人を見ませんでしたか?私の弟なんです…」
「警察は動かないのか!?消防でもいい!」
中の職員や来訪者の無事を祈る声や、関係者が彼らを探す声、警察等に救援を求める声と様々な声が錯綜する。そんな人々の注視する暗闇と市役所ビル内部では、今まさに異形の怪物たちが職員や来訪者らを襲っていた。阿鼻叫喚の混乱。襲い来る異形らの猛りと、逃げ惑う職員や来訪者の悲鳴がひどく反響する。人と異形の叫びが混濁し、平穏が壊れゆく音がそこにはあった。そんな中、同ビル9階中央へやってきたエレベーターに、黒コートを羽織った長身の男が乗り、中にいた茶髪のスーツ姿の男と合流する。黒コートは茶髪に短く一言聞いた。
「首尾はどうか?」
「問題ない、8階以下は全て制圧だ。じきに兵隊どもも追いつく。まあそれまでに、俺たちは上で号令だ」
「ではさっさと終わらせよう」
エレベーターのドアが閉まる中、問いに応じた茶髪に対し黒コートは早々に会話を切り上げようとする。しかし茶髪は薄笑いを浮かべ、その眉を吊り上げると言葉を続けた。
「しかし、人間のコミュニティはどこも風通しが悪いが…”ここ”の奴らは特にだな」
茶髪の言葉に何も返すことなく、黒コートはその憮然とした表情を保って最上階である13階を記したスイッチを押す。茶髪はそんな黒コートを一瞥したが、黒コートは無視を決め込んだ。何が悲しくてこの道化の嗤いの相手をせねばならぬのか。
「連中の顔見たか?どいつもこいつも、襲われる直前まであんたみたいに陰気な面だった。で、その目や意識は仕事と液晶画面ってのとを行ったり来たり…」
黒コートはエレベーターの壁にもたれ掛かり、腕を組んで辟易していることを暗に示すも、依然として茶髪は構わず話し続ける。安い挑発だ、何が言いたい。黒コートが茶髪を睨みつけた。エレベーターの階層の電子表記が11階を示す。
「物事や自分に意味を求める割には、随分…薄っぺらい」
「そして、お前のような者がそのつまらん皮肉を肴に酩酊するわけか」
不自然に細められる目、寒気のする揶揄と共に、取ってつけたような仕草と嘲笑。黒コートは苛立ちと共に返す刀で皮肉を言い放つ。しかしその言葉に、茶髪の”笑顔”はさらにその口角を上げた。
「何が悪い。旨いもんに酔うのは、奴らもやってる。笑って生きるための秘訣だぞ」
「話が浅い。おまけに貴様の笑いは救いようがない」
茶髪の論を制すべく、黒コートはピシャリと言った。しかし茶髪は尚もそのペースを崩すことは無い。
「まあ、アンタもせいぜい笑ってみろよ…ああ、出来損ないは笑えもしないか」
瞬間、黒コートの見開かれた瞳と茶髪の細められた目が交錯するも、「13階です」とエレベーターのアナウンスが鳴った。エレベーターのドアが響くと共に、茶髪は黒コートに向け顎をしゃくり早く出るように促す。黒コートは憤怒の表情でエレベーターを出ると、やがてビルの屋上までの階段を昇って行った。

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朝憬市の各方面に異形の怪物の群れが出現した——。燎星心羽の下にその報せが届いたのは、同日午前11時58分のことだった。
朝憬市立望海中学校の理科室で、授業を受けていた彼女の右手の細いブレスレットが淡く光る。それは心羽の従者からの合図。いつも気は張っているが、よもや授業中に合図が来るのは想定外だった。慌ててブレスレットをしていた右手首を、制服であるブレザーの袖に竦めるように隠す。
”もう、何で今なの——”
話の聞き取りやすい理科の授業の担当教師である飯山と、その授業内容を好ましく思っていた心羽は、不意に起こった急を要する事態に面食らった。しかし余程のことでない限り、従者が心羽の生活を害することはない。それ程の状況である以上、動かないわけにもいかない。心羽はおずおずと飯山に言った。
話の聞き取りやすい理科の担当教師である飯山と、その授業内容を好ましく思っていた心羽は、不意に起こった急を要する事態に面食らった。しかし余程のことでない限り、従者が心羽の生活を害することはない。それ程の状況である以上、動かないわけにもいかない。心羽はおずおずと飯山に言った。
「あの、先生すみません…」
「燎星さん、どうしたの?」
おっとりとした女性である飯山の優しい声が続いて響く。その目は心羽の様子を窺っていた。
「ちょっと気分が良くなくって…」
ブレザーの袖と共に右手首を左手で抑え、辛うじて言葉を続けるも気まずさに最後は言い淀んでしまう。
「こっちゃん、大丈夫?」
「保健室、一緒に行こうか?」
自身の隣の席に座っていた親友の安純日菜と中川香穂の二人が、心羽の様子を窺いながら言った小声に、「ううん、大丈夫」と返す。しかし周囲の生徒の注目を浴びつつ、嘘をつかねばならぬ状況を心羽は恨めしく思って俯いた。自身を物憂げに見遣る飯山の目には、それがどう映っただろうか。
「わかったわ、担任の羽原先生には…」
「私達が伝えとく。先生、いいですか?」
「うん、じゃあ二人にそうしてもらって」
飯山からの承諾、そして日菜と香穂の反応に心羽は胸を撫で下ろす。それと同時に申し訳なさと感謝を挨拶に交えて伝え、心羽は静かに理科室を抜け出した。
「ありがとう、ごめんね…先生、失礼します」

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 そのまま自身の教室である2年A組に置いた荷物を取り、心羽は周囲に気を払いつつも校舎の屋上へと階段を駆け上がっていく。そうして屋上の出入り口の戸を開けると、従者である梟——エウィグは屋上の鉄柵に留まっていた。エウィグは翼を羽ばたかせて鉄柵から心羽の下に降りると、その嘴から鳴き声と共に魔法の言葉を紡ぐ。
「お嬢様、エクリプスです!」
「こんな時間からなの!?」
自身らの敵が白昼堂々暴れているという報せに、心羽は驚愕の声を上げた。エウィグはその身を竦ませるように翼を折り、魔法の言葉をまごつきながらも続ける。
「ええ、お嬢様の学校生活を害したくはありませんでしたが、状況が状況故にお呼びしないわけにもいかず…」
「それは何とか大丈夫。で、場所は?」
「それは大丈夫。場所は?」
「…朝憬市の役所ビルを中心に、街の各役所が襲撃されています!」
一瞬の間をおいて為されたその報告に、心羽の表情は険しさを増した。どうして今、そんなに目立つ攻撃をしてきたの——?しかし彼女はすぐに状況の確認に努める。
「街のあちこちでってこと…?被害規模は?」
一瞬の間をおいて為されたその報告に、心羽の表情は険しさを増した。どうして今、そんなに目立つ攻撃を——?しかし彼女はすぐに状況の確認に努める。
「街のあちこちで一斉にってこと…?被害規模は?」
「私見ですが、朝憬市におけるおよそ6割から7割かと」
「そんな…」
心羽は戦慄に目を見開いた。規模が大きく同時多発的に攻撃が起こるなど、明らか対処しきれない。人々に迫る脅威を思い息を飲んだ。一瞬の空白。彼女はその相貌に精悍さを宿し、周囲の見渡して校舎外の人の気配を探る。そして誰もいないことと方角を確認すると、脚に力を込めた。同時に魔法の力——魔法力込めた両脚に、そのエネルギーたる魔力の流れる赤い光がる。その様にエウィグが驚愕の鳴き声を上げた。
心羽は戦慄に目を見開いた。規模が大きく同時多発的に攻撃が起こってい…手の届く範囲は限界がある。人々に迫る脅威を思い息を飲んだ。一瞬の空白。彼女はその相貌に精悍さを宿し、周囲の見渡して校舎外の人の気配を探る。そして誰もいないことと方角を確認すると、握りしめた右手を胸元あて、魔法の呪文を唱えた。
「“チェンジ・フレイミングドレス”」
その呪文とともに右手から全身にかけ、そのエネルギーたる魔力の流れる赤い光が放たれる。その光は心羽の全身を覆い、身体構造の基礎的な強化とともに心羽が持つ魔法のエネルギー———“魔力”の大幅な増幅を促し、服装は望海中の制服から魔法行使に特化した紅の装い———“フレイミングドレス”へと変化する。その様にエウィグが驚愕の鳴き声を上げた。
「お嬢様!人に見られます!」
「この方が速いから…ほら、エウィグ!」
「ああ、もう…!」
その制止に構うことなく心羽は右手を掲げる。エウィグは困惑の声を上げるも、その手に留まると身体から魔法の光を放った。すると梟の姿を象った光が、その形を変えて心羽の右手に宿るもう一つのブレスレットとなる。それを受けて心羽はそのまま魔法の宿る脚を跳躍させた。そ屋上の鉄柵を飛び越えると、ミディアムボブの赤い髪が高低差から来る風に舞い上がった。
その制止に構うことなく心羽は右手を掲げる。エウィグは困惑の声を上げるも、その手に留まると身体から魔法の光を放った。すると梟の姿を象った光が、その形を変えて心羽の右手に宿るもう一つのブレスレットとなる。心羽は常人を越えた身体能で文字通り跳躍し屋上の鉄柵を飛び越えると、ミディアムボブの赤い髪が高低差から来る風に舞い上がった。

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健人がスマートフォンのSNSでその投稿を見たのは午後12時03分。昼過ぎに英道大学B棟4階第2講義室で行われる予定である、心理学と心理的支援の講義を待っていた時のことだった。SNSのタイムラインに現れた”サイリ”のアイコンは、和明の恋人である樋川梨沙のハンドルネームのものであり、投稿はショート動画のみ。怪訝に思いながらも、表示された再生ボタンを親指で押すと、そこには朝憬市役所の内部で倒れる人々が映っていた。
「カズさん、これ——」
異変を感じ取った健人が、すぐに隣にいた和明を呼んだ。ショート動画の再生は続く。人の叫びと獣を思わせる何者かの唸りが響く中、震えるスマートフォンのカメラで写されたと思われる映像は、健人と和明の目を震わせた。次の瞬間、画面の向こうでは壮年の男性が背中から胸にかけてその身を貫かれて倒れ、凶行に及んだ者の姿が映る。そこに居たのは人ならざる者。僅かに市役所ビルの外から漏れる逆光を背にした異形を捉えるも、震える映像もあってその姿の全てを見ることは叶わない。しかしそれでも、彼の者が人とも獣とも取れ、またどちらとも取れない輪郭を有した存在であることは見て取れた。瞬間、異形は撮影主に気づいたのか、すぐに歩を詰め迫ってきた。
「——ひっ…」
恐怖に息を飲む女性の声を最後に、ショート動画は暗転してその再生を終える。「作り物のそれだ、現実感が無さすぎる」——そう言いたいが着ぐるみ等を以て成立するものとは認知できなかった。しかしそれは、確かにそこに存在していた。健人は驚愕とに動揺に眉を寄せる。和明もその表情を引きつらせ、そして震えていた。
「最後の…梨沙の声だ」
「確かなのか?」
ポツリと言った和明の言葉は、何処か現実感を感じさせない。
「…何があった…なんだよ、これ」
「わからない…」
しかし次第にその声音もまた震え始めた。
「梨沙は今日、用事があってあそこに行ってたけど…」
「カズさん」
「どうしてこんな…彼女に何かあったら俺…」
「落ち着け!」
息を上げて和明の口がその恐怖を紡ぎ続けるも、健人が強い口調でそれを制止する。どうしたらいいかなど自分でも分からない。しかしここでじっとしていていいとは思えなかった。友人達が得体の知れない恐怖に曝される中、ただ手を拱いているわけにはいかない。何もできなかったとしても。
「今すぐ市役所ビルに行こう。俺も行くから…!」
「…ああ!」
その言葉を最後に、二人は第2講義室から駆けだしていった。


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これから各項目の最後にこんな感じでそのメモに関してだけをやり取りできる空間を設けようと思う。あくまでやり取りの場なので、読んで双方が合意したものは順次消していくつもり。どうかな?//

ギルです。モルすみません、随分待たせました…一先ず更新です。
その後、ちょっと直しました。スピード感が欲しくてね(;'∀')----
###### //ギルです。モルすみません、随分待たせました…一先ず更新です。その後、ちょっと直しました。スピード感が欲しくてね(;'∀')
###### // モルです。とてもいい感じ…! 梨沙はこのあとどうなっちゃうんでしょうか、心羽や健人たちはどう対処するのでしょうか…ワクワクが止まりません。細かな表現を変更させてもらいましたが、スピード感が半減してしまったかもなので確認をお願いしたいです…。      

2020年、4月12日。その日、朝憬市立朝憬英道大学二回生である花森健人は、同大学B棟3階、第2講義室にて行われる人体の機能と構造の講義に出席していた。
「…そのためICF、国際生活機能分類では…」
時間は10時51分。単調な講師の話と昼食までもたない空腹、そして気怠さによって、既に講義に意識を集中させることが難しい。天を仰ぐように軽く首を逸らした後、左目を瞬かせて再度講義を聴くよう努めるが、そこに加わる周囲の学生らの小声の数々が健人の意識をかき乱す。最早聴講することは投げ出して、健人は前方を向いて時間をやり過ごすことだけに注力していた。そんな折、彼の着いている講義室中段の席の一つ前で、男子学生の二人組が小声でとある都市伝説の話が耳に入ってくる。
「また出たって、”赤髪の魔女”」
「お前好きだな、その与太話」
話を振った方の小柄な男子学生が「講義よりは面白いだろ」と渇いた笑みを浮かべて小声で話し続けた。
「それがここから近いんだよ、朝陽町の教会の近くで怪物と争ってたってSNSでさ…」
「お前その感じ、特撮とかそういうもんの延長で見てんだろ。別に否定はしないけど、俺にそれを話されてもさ」
話を聞くガタイのいい男子学生がその大きな肩を竦ませ、呆れた口調で返す。
「なんだよ…なんか、イケてんじゃん。赤髪の魔女」
「多分、お前はダサいけどな…」
ガタイが小柄に毒づくのに共感し、健人は小柄の方を冷ややかに見るものの、気が付けば講義よりもそちらの話ばかりを耳が拾っていた。最終的に講師が講義終了を告げると同時に、健人の胸中には苦い自己嫌悪が広がる。講師と学生らがそれぞれの荷物をまとめて講義室を後にする中、同じゼミに所属する友人である横尾和明が上の空である健人の下にやってきてその肩を叩いた。
「お疲れ、花っち」
「ああ、お疲れカズさん」
「どした?また夜更かしして絵でも描いてたのか?」
心ここに在らず——そんな健人のうだつの上がらない声に、和明は苦笑しながらその理由を問う。
「いや、それが…何て言うかさ…」
「うん、どした?」
「何で俺、この勉強してるんだっけって思ってさ」
話はそこで一瞬間が空いた。和明の口から「…え?」という一音だけがポツリと零れる。
「…とりあえずちょい早いけど、飯行く?」
「行く。腹減った」
怪訝な顔と共に言った和明の一言に即答し、健人は傍らのショルダーバッグを掴んで席を立った。


「なんか最近花っち、ボーっとしてること多いけど…さっき言ったの、深刻なやつ?」
「深刻、なのかな?それもぼんやりしててさ」
英道大学の学食の食堂にて、熱い醤油ラーメンを息で冷ましながら和明が言った。健人は唐揚げ定食に付けあわされたキャベツを貪る合間にそれに応える。どんぶりから立ち上る熱い湯気に和明の眼鏡が曇った。
「モラトリアムだな~」
「俺もそう思う…まあ、そういう奴もいるさ」
和明の感想の一言に対し、健人は苦笑しつつ応えながら唐揚げを口に入れた。肉の旨味と油、柔らかさに、続くご飯が大口を開けた中へと消えていく。ラーメンを啜る和明の眼鏡は未だに曇っていた。やがて咀嚼と嚥下を一先ず終えると、健人は努めて軽い口調で話し始める。
「自分が信じてたものが、ここしばらくわからなくてさ」
「ここしばらくってどれくらい?」
「2年ちょい」
和明の持った箸の先が、ラーメンのスープに浸かったまま止まった。
「…長いな、ていうか高校からか。信じてたものって、どんなのか聞いてもいい?」
丁寧に尋ねる和明に友人としての誠実さを感じながらも、健人は僅かに俯いてラーメンのどんぶりに視線を外す。しかしその目の端には、眼鏡の向こうで和明の目が少し動いたのが見えた。
「人を思ってた自分、かな」
和明は頷くと一瞬だけ眉根を寄せる。健人もドリンクのウーロン茶にしか手が伸びなかった。
「…深刻じゃん」
「やっぱ?」
「少なくとも、確かに学業の目的には関わるな…でも…」
その真剣な表情の前で両腕を組む姿は、健人の胸に一瞬沈鬱なものを抱かせる。だが次に続く言葉に健人は呆気にとられた。
「とりあえず食おう!このままじゃ飯が冷める、大事なことだし食べてから考えよう!」
気を取られて一瞬間が空いたところに「…マズかった?」と問う和明。その動揺が見られる様に健人は思わず笑った。
「そうだな、確かにラーメン伸びるし飯もカピカピになるわ、これじゃあ」
笑い声と共に大仰に頷き、唐揚げとご飯を平らげんとする健人を和明はじっと睨む。しかし次には和明も静かに笑い、レンゲでスープを掬っていた。
「まあ、話せる時にでも話しな。もし花っちが良ければ聞くから」
「助かるカズさん、甘えるわ…俺には今そういうのが要るんだ。多分」
そんな和明の様に、健人はようやく自身の思いを伝える。そうして唐揚げの最後の一個を口に入れた。


同日午前11時36分、朝憬市中央部駅前の街中。そこに位置する朝憬市役所ビルを、突如として不可思議な暗闇が包み、その数十分後には周囲に報道陣や人々が集まっていた。
「ご覧ください。こちら、朝憬市市役所ビル前の現在の様子です。地上13階のビルとその地下3階、そしてその周囲は今、暗雲とも霞ともつかぬ暗闇に包まれており、中の様子は一切不明です。私ども取材スタッフも4名が向かいましたが、その後一切の連絡が付きません」
テレビ局のアナウンサーが向けられたカメラへと状況を語る。そんな報道陣の周囲では近隣の住民が野次馬となり、また市役所職員等の関係者らしき人達が状況を見守っていた。
「中の人たち、どうなってんだ…」
「誰か、この人を見ませんでしたか?私の弟なんです…」
「警察は動かないのか!?消防でもいい!」
中の職員や来訪者の無事を祈る声や、関係者が彼らを探す声、警察等に救援を求める声と様々な声が錯綜する。そんな人々の注視する暗闇と市役所ビル内部では、今まさに異形の怪物たちが職員や来訪者らを襲っていた。阿鼻叫喚の混乱。襲い来る異形らの猛りと、逃げ惑う職員や来訪者の悲鳴がひどく反響する。人と異形の叫びが混濁し、平穏が壊れゆく音がそこにはあった。そんな中、同ビル9階中央へやってきたエレベーターに、黒コートを羽織った長身の男が乗り、中にいた茶髪のスーツ姿の男と合流する。黒コートは茶髪に短く一言聞いた。
「首尾はどうか?」
「問題ない、8階以下は全て制圧だ。じきに兵隊どもも追いつく。まあそれまでに、俺たちは上で号令だ」
「ではさっさと終わらせよう」
エレベーターのドアが閉まる中、問いに応じた茶髪に対し黒コートは早々に会話を切り上げようとする。しかし茶髪は薄笑いを浮かべ、その眉を吊り上げると言葉を続けた。
「しかし、人間のコミュニティはどこも風通しが悪いが…”ここ”の奴らは特にだな」
茶髪の言葉に何も返すことなく、黒コートはその憮然とした表情を保って最上階である13階を記したスイッチを押す。茶髪はそんな黒コートを一瞥したが、黒コートは無視を決め込んだ。何が悲しくてこの道化の嗤いの相手をせねばならぬのか。
「連中の顔見たか?どいつもこいつも、襲われる直前まであんたみたいに陰気な面だった。で、その目や意識は仕事と液晶画面ってのとを行ったり来たり…」
黒コートはエレベーターの壁にもたれ掛かり、腕を組んで辟易していることを暗に示すも、依然として茶髪は構わず話し続ける。安い挑発だ、何が言いたい。黒コートが茶髪を睨みつけた。エレベーターの階層の電子表記が11階を示す。
「物事や自分に意味を求める割には、随分…薄っぺらい」
「そして、お前のような者がそのつまらん皮肉を肴に酩酊するわけか」
不自然に細められる目、寒気のする揶揄と共に、取ってつけたような仕草と嘲笑。黒コートは苛立ちと共に返す刀で皮肉を言い放つ。しかしその言葉に、茶髪の”笑顔”はさらにその口角を上げた。
「何が悪い。旨いもんに酔うのは、奴らもやってる。笑って生きるための秘訣だぞ」
「話が浅い。おまけに貴様の笑いは救いようがない」
茶髪の論を制すべく、黒コートはピシャリと言った。しかし茶髪は尚もそのペースを崩すことは無い。
「まあ、アンタもせいぜい笑ってみろよ…ああ、出来損ないは笑えもしないか」
瞬間、黒コートの見開かれた瞳と茶髪の細められた目が交錯するも、「13階です」とエレベーターのアナウンスが鳴った。エレベーターのドアが響くと共に、茶髪は黒コートに向け顎をしゃくり早く出るように促す。黒コートは憤怒の表情でエレベーターを出ると、やがてビルの屋上までの階段を昇って行った。


朝憬市の各方面に異形の怪物の群れが出現した——。燎星心羽の下にその報せが届いたのは、同日午前11時58分のことだった。
朝憬市立望海中学校の理科室で、授業を受けていた彼女の右手の細いブレスレットが淡く光る。それは心羽の従者からの合図。いつも気は張っているが、よもや授業中に合図が来るのは想定外だった。慌ててブレスレットをしていた右手首を、制服であるブレザーの袖に竦めるように隠す。
”もう、何で今なの——”
話の聞き取りやすい理科の担当教師である飯山と、その授業内容を好ましく思っていた心羽は、不意に起こった急を要する事態に面食らった。しかし余程のことでない限り、従者が心羽の生活を害することはない。それ程の状況である以上、動かないわけにもいかない。心羽はおずおずと飯山に言った。
「あの、先生すみません…」
「燎星さん、どうしたの?」
おっとりとした女性である飯山の優しい声が続いて響く。その目は心羽の様子を窺っていた。
「ちょっと気分が良くなくって…」
ブレザーの袖と共に右手首を左手で抑え、辛うじて言葉を続けるも気まずさに最後は言い淀んでしまう。
「こっちゃん、大丈夫?」
「保健室、一緒に行こうか?」
自身の隣の席に座っていた親友の安純日菜と中川香穂の二人が、心羽の様子を窺いながら言った小声に、「ううん、大丈夫」と返す。しかし周囲の生徒の注目を浴びつつ、嘘をつかねばならぬ状況を心羽は恨めしく思って俯いた。自身を物憂げに見遣る飯山の目には、それがどう映っただろうか。
「わかったわ、担任の羽原先生には…」
「私達が伝えとく。先生、いいですか?」
「うん、じゃあ二人にそうしてもらって」
飯山からの承諾、そして日菜と香穂の反応に心羽は胸を撫で下ろす。それと同時に申し訳なさと感謝を挨拶に交えて伝え、心羽は静かに理科室を抜け出した。
「ありがとう、ごめんね…先生、失礼します」


そのまま自身の教室である2年A組に置いた荷物を取り、心羽は周囲に気を払いつつも校舎の屋上へと階段を駆け上がっていく。そうして屋上の出入り口の戸を開けると、従者である梟——エウィグは屋上の鉄柵に留まっていた。エウィグは翼を羽ばたかせて鉄柵から心羽の下に降りると、その嘴から鳴き声と共に魔法の言葉を紡ぐ。
「お嬢様、エクリプスです!」
「こんな時間からなの!?」
自身らの敵が白昼堂々暴れているという報せに、心羽は驚愕の声を上げた。エウィグはその身を竦ませるように翼を折り、魔法の言葉をまごつきながらも続ける。
「ええ、お嬢様の学校生活を害したくはありませんでしたが、状況が状況故にお呼びしないわけにもいかず…」
「それは大丈夫。場所は?」
「…朝憬市の役所ビルを中心に、街の各役所が襲撃されています!」
一瞬の間をおいて為されたその報告に、心羽の表情は険しさを増した。どうして今、そんなに目立つ攻撃を——?しかし彼女はすぐに状況の確認に努める。
「街のあちこちで一斉にってこと…?被害規模は?」
「私見ですが、朝憬市におけるおよそ6割から7割かと」
「そんな…」
心羽は戦慄に目を見開いた。規模が大きく同時多発的に攻撃が起こっている…手の届く範囲には限界がある。人々に迫る脅威を思い息を飲んだ。一瞬の空白。彼女はその相貌に精悍さを宿し、周囲の見渡して校舎外の人の気配を探る。そして誰もいないことと方角を確認すると、握りしめた右手を胸元にあて、魔法の呪文を唱えた。
「“チェンジ・フレイミングドレス”」
その呪文とともに右手から全身にかけ、そのエネルギーたる魔力の流れる赤い光が放たれる。その光は心羽の全身を覆い、身体構造の基礎的な強化とともに心羽が持つ魔法のエネルギー———“魔力”の大幅な増幅を促し、服装は望海中の制服から魔法行使に特化した紅の装い———“フレイミングドレス”へと変化する。その様にエウィグが驚愕の鳴き声を上げた。
「お嬢様!人に見られます!」
「この方が速いから…ほら、エウィグ!」
「ああ、もう…!」
その制止に構うことなく心羽は右手を掲げる。エウィグは困惑の声を上げるも、その手に留まると身体から魔法の光を放った。すると梟の姿を象った光が、その形を変えて心羽の右手に宿るもう一つのブレスレットとなる。心羽は常人を越えた身体能力で文字通り跳躍し屋上の鉄柵を飛び越えると、ミディアムボブの赤い髪が高低差から来る風に舞い上がった。


健人がスマートフォンのSNSでその投稿を見たのは午後12時03分。昼過ぎに英道大学B棟4階第2講義室で行われる予定である、心理学と心理的支援の講義を待っていた時のことだった。SNSのタイムラインに現れた”サイリ”のアイコンは、和明の恋人である樋川梨沙のハンドルネームのものであり、投稿はショート動画のみ。怪訝に思いながらも、表示された再生ボタンを親指で押すと、そこには朝憬市役所の内部で倒れる人々が映っていた。
「カズさん、これ——」
異変を感じ取った健人が、すぐに隣にいた和明を呼んだ。ショート動画の再生は続く。人の叫びと獣を思わせる何者かの唸りが響く中、震えるスマートフォンのカメラで写されたと思われる映像は、健人と和明の目を震わせた。次の瞬間、画面の向こうでは壮年の男性が背中から胸にかけてその身を貫かれて倒れ、凶行に及んだ者の姿が映る。そこに居たのは人ならざる者。僅かに市役所ビルの外から漏れる逆光を背にした異形を捉えるも、震える映像もあってその姿の全てを見ることは叶わない。しかしそれでも、彼の者が人とも獣とも取れ、またどちらとも取れない輪郭を有した存在であることは見て取れた。瞬間、異形は撮影主に気づいたのか、すぐに歩を詰め迫ってきた。
「——ひっ…」
恐怖に息を飲む女性の声を最後に、ショート動画は暗転してその再生を終える。「作り物のそれだ、現実感が無さすぎる」——そう言いたいが着ぐるみ等を以て成立するものとは認知できなかった。しかしそれは、確かにそこに存在していた。健人は驚愕とに動揺に眉を寄せる。和明もその表情を引きつらせ、そして震えていた。
「最後の…梨沙の声だ」
「確かなのか?」
ポツリと言った和明の言葉は、何処か現実感を感じさせない。
「…何があった…なんだよ、これ」
「わからない…」
しかし次第にその声音もまた震え始めた。
「梨沙は今日、用事があってあそこに行ってたけど…」
「カズさん」
「どうしてこんな…彼女に何かあったら俺…」
「落ち着け!」
息を上げて和明の口がその恐怖を紡ぎ続けるも、健人が強い口調でそれを制止する。どうしたらいいかなど自分でも分からない。しかしここでじっとしていていいとは思えなかった。友人達が得体の知れない恐怖に曝される中、ただ手を拱いているわけにはいかない。何もできなかったとしても。
「今すぐ市役所ビルに行こう。俺も行くから…!」
「…ああ!」
その言葉を最後に、二人は第2講義室から駆けだしていった。


//ギルです。モルすみません、随分待たせました…一先ず更新です。その後、ちょっと直しました。スピード感が欲しくてね(;'∀')
// モルです。とてもいい感じ…! 梨沙はこのあとどうなっちゃうんでしょうか、心羽や健人たちはどう対処するのでしょうか…ワクワクが止まりません。細かな表現を変更させてもらいましたが、スピード感が半減してしまったかもなので確認をお願いしたいです…。